このところ、黒字であっても希望退職者を募る企業が増えている。希望退職は、従業員が主体的に企業を退職することを意味するわけだが、それを企業が実施する狙いは何か。過去の記事を参考に考察する。

希望退職を巡る問題

 企業は、業績悪化などに伴い、人員削減策の一環として、希望退職制度に基づいて希望退職者を募集することがある。希望退職は、希望すれば100%成立するというわけではない。能力の高い従業員や専門的な従業員は引き留めにあうこともある。希望退職の成立には「双方の合意」が求められるため、こうした引き留めも認められている。また、希望退職について語る上で、いわゆるリストラという視点は外せない。リストラは強制的で、希望退職はあくまで主体的というイメージがある。しかし、実際のところその区別は曖昧で、希望退職がリストラの一環として捉えられることもある。

再来した大リストラ時代と「雇用流動化」礼賛の幻想

 2019年、希望退職者の募集人数が6年ぶりに1万人を超えたことをご存じだろうか。東京商工リサーチが公表した「希望・早期退職」実施状況によると、同年1~9月に上場企業が募った「希望・早期退職」者数は1万342人で、6年ぶりに年間1万人超えが確定したというのである。ただ、気になるのはその理由だ。

 これまでは「景気が悪くなる→希望退職者を増やす」という形だったが、業績の良い企業でも、将来を見込んで「お引き取りください!」攻勢に出ているというのだからたまったものではない。バブル期に大量入社した社員の過剰感を是正し、人員削減で浮いた金を若手や外部人材に回す。今後もこの動きは続く可能性は高いと、東京商工リサーチ関係者は述べている。

 人数的に最も多かったのは富士通の2850人で、ルネサスエレクトロニクス(約1500人)、ジャパンディスプレイ(約1200人)、東芝(1060人)、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス(950人)、アステラス製薬(約700人)、アルペン(355人)、協和キリン(296人)、中外製薬(172人)、カシオ計算機(156人)と続く。

オンワードが希望退職350人募集、しかし販売現場は人材難

 2019年12月6日にはアパレル大手オンワードホールディングス(HD)が、約350人の希望退職を募ると発表した。対象となるのは主要子会社オンワード樫山を中心とした、40歳以上、勤続3年以上の社員(販売職除く)の約1300人。計画通りであれば対象者の4分の1強が早期退職することになる。2020年1月中に募集し、退職者には特別退職金を加算。再就職支援も実施する計画だった。

 オンワードHDは全国の百貨店を中心に「23区」や「組曲」などのブランドを展開してきたが、当時、百貨店の衣料品の売り上げ減少に伴って業績が悪化していた。保元道宣社長は19年10月、不採算店舗の閉鎖や一部ブランドの廃止を発表。成長しているネット通販事業やオーダースーツ事業に注力する方針を掲げた。具体的な閉鎖店舗数は明らかにしていないが、日本経済新聞などは国内外約3000店舗のうち2割の約600店を閉めると報じていた。

働きがい問われる年、シニアのリストラが若者にも悪影響

 基本的に、希望退職者の対象は、年配の社員だ。2019年12月には、朝日新聞が45歳以上の大量リストラを発表し、退職金は上限6000万円という驚愕(きょうがく)の事実が報じられ、話題になった。6000万円払ってでもコスパの悪いシニア社員をたたき出したいという考えなのだ。追い出し部屋は世間からたたかれ、低賃金で定年後雇用延長することへの裁判が増えている。政府は定年を70歳まで引き上げる方針を出しているので、「今のうちに何とかしなきゃ!」「そうだよ!AIやITにもっと投資して、若い人の賃金を上げていい人材集めよう!」と、シニア切りに躍起になっている印象だ。

 しかし、9割超の若者が長期雇用を望む時代に、40代後半以上を追い出す会社を若い世代が信用するだろうか?

希望退職で「やる気なし若手」を量産する素人トップの罪

 2020年も、企業のこうした動きは止まらなかった。ファミリーマートは、2020年2月3日から7日の間に40歳以上の社員を対象に800人の希望退職者を募集したところ、1111人が応募。うち「86人は業務継続に影響がある」として、制度を利用した退職を認めず、引き留めたという。

 こうした状況を受け、30歳前後の人たちからはこんな声が聞かれる。「僕たちも使い捨てされるんですよね。今の日本の会社に何一つ期待してません」。これは当然のことだろう。また、その若者が頼れる“必要な”シニアが消えているというのも問題だ。上記の発言をしたあるミレニアム世代の社員は、会社に必要なシニアであればあるほど、自分から辞めていくと現状を嘆いた。

40歳以上1200人希望退職のLIXIL瀬戸氏「幹部ポストも大幅削減」

 さらに、LIXILグループも2020年10月30日、1200人の希望退職プログラム「ニューライフ」を実施すると発表。条件は40歳以上で勤続10年以上の正社員が対象とのこと。この「ニューライフ」とは別に、同社は19年、特別退職金を加算して支払うなどする「キャリアオプション制度」をスタートしている。2020年2月に募集を開始し約500人が手を挙げたが、なぜ改めて1200人の希望退職を募ることになったのか。

 瀬戸氏によると「キャリアオプション制度は純粋にベネフィットの位置づけ」だという。つまり、自分のキャリアを伸していくことは難しいと自分自身で判断した人に対して、退職金を積み増して転職支援をする制度で、5年間継続して実施する。

 一方「ニューライフ」は、「希望退職」だ。本人が会社側の上司と話し合い、その結果として本人が難しいと思った場合「辞めていただく」というもので、一度きりのプログラムなのだという。早期退職との違いは、自分で納得して辞めることを決断しても、不本意な部分が残ることを加味して、しっかりと加算金を支払うということ。そのため、キャリアオプション制度よりも、加算金の水準は大きくなる。

「40以上はやる気なし」会社のホンネと消滅するおじ社員

 東京商工リサーチによれば、上場企業のうち21年の「希望退職の募集」を明らかにしている企業は18社で、オリンパス(950人)やホンダ(人数未定)など、計約3300人に上るという。このうち9社が募集に至った要因として新型コロナウイルスによる影響を挙げ、今後はさらに構造改革を名目とする人員削減が本格化する可能性があるとみられている。ちなみに20年に早期・希望退職を募集した上場企業は91社で、募集人数は計約1万8300人。19年の約1.6倍だった。

 こうした状況を踏まえると、やはり40代以上の“会社員”は今後、会社を利用する働き方を考えた方がよさそうだ。世の中の企業は、コロナ禍で一気に「会社員消滅時代」に突入した。「〇〇会社の会社員である自分」を優先する働き方から、「真実の自分として生きる会社員」に変わった方が働く人にも会社にもメリットをもたらすのではないか。

最後に

 ここまで、希望退職とは何か、そしてそれを巡るここ数年の企業動向を、過去の記事を参考に紹介してきた。希望退職は、いわゆるリストラと結びつけられることが多い。そして昨今、日本では経営状況が悪くない企業でも、希望退職者や早期退職者を募る例が相次いでいる。コロナ禍でその勢いは今後さらに加速していくことが予想される。今後も、希望退職を巡る企業の動向から目が離せない。

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