高齢化率が28%を超え、超高齢社会とも呼ばれる日本。国民の約3分の1が「老後」を迎えつつある中で、特に注目を集めているのが「お金」に関する問題だ。いわゆる老後破産をめぐる議論も活発化しており、老後の生活に不安を抱いている人も多い。今回は「老後」に関する過去の記事から、議論の要旨と対処方法を振り返る。

お金をめぐる「老後」の課題

 少子高齢化が進む日本。総務省統計局のデータによると、2018年に「65歳以上」が総人口に占める割合は28.1%だった。「75歳以上」も14.2%を占めており、先進国の中でも高齢化率の高さが飛び抜けている。

 高齢化にはさまざまな問題が伴うが、最近特に注目を集めているのは「お金」の問題だ。19年に公表されたいわゆる「老後2000万円報告書」はマスコミでも大きく取り上げられ、国会だけでなく国民の間でも議論の的となった。

 とはいえ老後をめぐるお金のリスクと、その対策が話題となるのは今に始まったことではない。「老後破産」の可能性やリスク回避の方法、注意点などは日経ビジネスの過去記事にも数多く取り上げられてきた。そこで、過去記事から老後とお金に関するポイントをみていこう。

「老後2000万円報告書」の炎上で隠れる、本当に必要な議論

 金融庁金融審議会が公表した「高齢社会における資産形成・管理」という報告書が波紋を呼んでいる(19年6月当時)。その中に「老後の金融資産として約2000万円が必要」とする試算が盛り込まれていたことから「年金制度の崩壊」との指摘や懸念の声が高まり、最終的には事実上の撤回に追い込まれた。

 とはいえ年金を補助するための資産形成や、そのための金融リテラシー向上などは以前より議論されてきたテーマだ。「65歳以上の4人に1人が認知・判断能力に何らかの問題を抱えている」といわれる現在、認知症の高齢者が投資トラブルに巻き込まれるケースも少なくない。

 「2000万円の金融資産が必要」という表面的な文言に踊らされず、老後の資産運用をめぐる問題には真剣に取り組んでいく必要がある。

「3000万円ないと老後破産する」のウソ

 老後のお金について「老後の生活には1億円かかる」「定年退職時に3000万円ないと老後破産する」といった話を聞くことがある。経済コラムニストの大江英樹氏によると、これらの話はあながち間違いとは言い切れないものの、正しいわけでもないという。大江氏自身、退職時の総資産が300万円未満だったものの、特に問題はないそうだ。

 大切なのは「収支」をしっかりと把握することだと大江氏は話す。公的年金や退職金、企業年金など「入ってくるお金」と、実際のライフスタイルに基づく「出ていくお金」を知れば、それに応じた資産形成の目安が付けられる。老後の不安を解消するためにも、50代から「数字を把握」することが重要だ。

これを間違えると「老後破産」へ一直線!

 収入が安定しているサラリーマンは毎月の「収支」を把握しやすく、老後に向けた計画的な資産形成の面で有利だ。一方で「退職金」の性質を見誤ると老後破産のリスクは一気に高まるという。

 よくある勘違いは、退職金を「長年働いたことに対するご褒美」や「余裕資金」だと思うこと。しかし実際には、退職金は「給料の後払い」であり、老後の生活のための必要資金だ。資金を無理に増やそうと「退職金投資デビュー」するより、まずは「日々の支出の見直し」を通して無理のない老後の生活スタイルを確立すべきだという。

熟年離婚で夫婦どちらも「老後ビンボー」に!

 老後をめぐるキーワードのひとつに「熟年離婚」がある。厚生労働省の調査では、2000年代以降の離婚率は全体として減少しているものの「婚姻期間20年以上の層」では横ばいのままだ。

 しかし大江氏によると、熟年離婚は経済的にはマイナスだという。離婚にともなって慰謝料が発生するケースでも、婚姻期間20年で300万円程度もらえれば多い方。厚生年金の「年金分割」も十分な老後資金にはなかなかならないそうだ。このように熟年離婚には金銭的なメリットはほとんどないうえ、孤独感など精神的なデメリットが大きい。たとえ夫婦共通の趣味などなくても、互いを尊重し、穏やかに暮らしていくことが老後のベストな選択といえる。

老後が不安なら“老後”をなくせばいい

 老後の不安を簡単になくすには、「老後をなくすこと」が有効だと大江氏は話す。大江氏によると「老後」が始まるのは「働くことをやめた時から」だという。つまり「できる限り働き続ける」ことで、老後の開始を先延ばしできるのだ。

 働き続けていれば、「老後の三大不安」である「お金」「健康」「孤独」のかなりの部分が解消される。ただし「働き続ける」といっても、サラリーマンを続けるとは限らない。たとえ「月に3万円とか5万円程度のお小遣い稼ぎ」であっても、働いていることに変わりはない。無理せず、ストレスをためずに働き続けることこそ、老後の問題を解消するカギだ。

「老後のお金の管理」に潜む落とし穴

 老後の生活や資産管理をサポートする「成年後見制度」。既に判断能力が衰えた人のために家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」と、十分な判断能力を持つ人が自ら後見人を選ぶ「任意後見」という2種類からなるが、これらの制度には課題もある。

 例えば法定後見では選任された弁護士、司法書士の一部による「着服」事件が発生しており、15年には被害総額が1億1000万円に達した。任意後見でも、後見人に「取り消し権」がないことや本人と任意後見人予定者とのトラブルによって、スムーズな執行が難しいケースがあるのだ。

 これに対して政府は、16年5月に「成年後見制度の利用の促進に関する法律」を施行するとともに、後見人の利用促進や不正防止の議論を進めている。また民間企業からも「後見人向けの保険商品」が発売されるなど、官民あげて老後のサポートに向けた取り組みが進んでいる。

「老後2000万円不足」問題で注目 中小企業向けイデコに追い風

 いわゆる「老後2000万円不足」問題を受けて、中小企業向けの個人型確定拠出年金「イデコプラス」が注目を集めている。イデコプラスとは個人型確定拠出年金(イデコ)の加入者を対象に、中小企業が従業員とともに掛け金を拠出する制度。積立額は給料から天引きとなるため個人の負担が少なく、会社側にとっても拠出額が全額費用計上できるため、法人税対策に有効だ。

 とはいえ、制度に対する理解はなかなか進んでいない。イデコプラスが活用されるかどうかは、今後の周知や個人のリテラシー向上にかかっている。

最後に

 穏やかな老後を過ごすには「2000万円」といった表面的な数字や議論に惑わされず、各自の収支を見直すことや、金融リテラシーを身に付けるなど地道な取り組みが不可欠といえる。

 超高齢社会となった日本。現在の年齢にかかわらず、老後への備えは待ったなしの状況だ。

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