35歳の若さで台湾のIT担当の行政院政務委員(閣僚)に起用され、その後、新型コロナウイルス対策で活躍したオードリー・タン(唐鳳、Audrey Tang)氏。年齢だけでなく、中学校中退の天才プログラマー、起業家、そして自らトランスジェンダーだと明かしたことなども注目されている。

異色の経歴とコロナ対策で注目されたオードリー・タン氏

 オードリー・タン氏にはさまざまな肩書がある。台湾の閣僚であるとともに、「台湾のコンピューター界における偉大な10人の中の1人」と称される天才プログラマー。シリコンバレーでソフトウエア会社を創業したり、米アップルの顧問として人工知能「Siri」プロジェクトに加わっていたことでも知られている。

 一方で、学校になじめず、中学を中退したことや、自らトランスジェンダーであると公表したことも有名だ。これらの異色の経歴に加え、2016年に35歳という若さでIT担当大臣に任命されたことも大きな話題となった。さらに、台湾の新型コロナウイルスの感染対策を成功に導いた人物として世界中の注目を集めている。

台湾政治のIT化を掲げる、異色ずくめの「大臣」

 16年5月に35歳で台湾の閣僚となったオードリー・タン氏。中学を中退し、プログラマーになったという異色の経歴の持ち主だ。そして男性から女性への性転換者でもある。10代でソフトウエア会社を創業し、米アップルの顧問を務めるなどビジネス方面の実績も注目に値する。そして、タン氏は、蔡英文政権のデジタルを統括する閣僚として「台湾政治のIT化」を推進することになった。

台湾に学ぶデジタル化、市民とともにつくる社会

 世界中で感染が拡大する新型コロナウイルス。日本では感染者数の増加だけでなく「マスクの買い占め・転売」も社会問題となった。台湾は「デジタルの力」でマスク問題を解決し、コロナ感染拡大の抑え込みにも成功した。

 台湾の取り組みは2つある。一つはマスクの購入制限。1人当たりのマスク販売枚数を制限するとともに、健康保険証のICカードを使って購入履歴を管理するものだ。もう一つはマスクの在庫状況を確認できる「マスクマップ」アプリ。IT大臣のオードリー・タン氏が旗振り役となり、オープンデータ化した流通・在庫状況をインターネット上に公開。それを市民ハッカーたちが取り込むことで、わずか3日という短期間でアプリを完成させた。

 タン氏自身も天才プログラマーとして知られるが、それでも「1つの意義ある任務を完成させるには、多くの人の知恵が必要」と語る。市民の協力を積極的に求める姿勢が、台湾を「コロナ禍の優等生」にしている。

東京都公式の新型コロナ対策サイトはオープンソースで作られた

 台湾のIT大臣として、「デジタルの力でコロナを抑え込んだ」オードリー・タン氏。実は「東京のコロナ対策」にも一枚かんでいるという。

 東京都ではプログラマーたちの非営利団体が発起人となり、コロナ関連の公式情報をリアルタイムで表示する「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を開設している。このサイトの特徴は、さまざまな立場のプログラマーたちが共同で、あるいは互いに補完し合い、オープンな形で作られたという点にある。

 作業には(プログラマーではない人でも、例えば誤字脱字を直すといった形で)誰でも参加できた。そしてオードリー・タン氏もソースコードの修正を通してプロジェクトに参加し、他のプログラマーたちを大いに驚かせた。オープンソースで作業を進めた東京都の取り組みは、その後他の自治体にも広がりつつある。

台湾IT担当大臣のオードリー・タン氏「デジタルは自由のために」

 台湾でデジタルによる新型コロナ対策が成功した理由について、IT担当大臣のオードリー・タン氏は「3つの観点でデジタルの力が貢献したから」と語る。

 3つの観点とは、「Fast(速さ)」「Fair(公平さ)」「Fun(楽しさ)」のことだ。例えば中国・武漢で現地の医師が新型の肺炎の流行をSNS(交流サイト)で注意喚起した際、台湾ではすぐにその信ぴょう性を調査して検疫強化に踏み切った。またマスクが国民に公平に行き渡るよう、アプリを使って供給体制を可視化し、購入制度を整備した。コロナに関するデマはユーモアのあるSNS投稿などで封じ込んだ。

 こうした取り組みと成功は、コロナ以前からさまざまな分野でデジタル化に注力してきたことからもたらされた。タン氏は、医療や教育と同じように「ブロードバンドにアクセスする権利も、生まれながらにして与えられるべき自明の権利」だとしている。

最後に

 異色の経歴を持つ閣僚としてオードリー・タン氏だが、新型コロナウイルスの感染が世界で拡大する中、「台湾のコロナ対策を成功に導いたキーマン」としても注目されている。「デジタルは自由のために役立てるべきだ」とするタン氏の理想が、これからの台湾や世界にどのような影響を与えるのだろうか。

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