CSVとは、企業が社会課題や問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを意味する。本記事では、そのCSVとは何か、そしてこれを提唱したマイケル・ポーター氏について、過去の記事を参照しながら解説する。
CSVとは?

CSV(Creating Shared Value「共通価値の創造」)は、企業が社会課題や問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを意味する。従来、経済効果と社会的価値の創出は相いれないものだと考えられてきた。しかし、その問題に対して両者の両立、ひいてはお互いがお互いを高め合う状況を目指すのがCSVだ。既に一部のグローバル企業では、CSVの実践こそが競争力の源泉であるとして取り組みが始まっている。
社会貢献でもうかって何が悪い!
CSVと比較されることが多いのが、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)だ。CSRとは「民間企業が利益だけを優先するのではなく、幅広いステークホルダーを重視しながら社会に貢献する」ことを指す。環境保護活動や、途上国への支援活動はその代表例だ。他方で、CSRにはいまだに懐疑的な声もある。もちろん企業が社会に貢献するのは素晴らしいが、それにはコストがかかる。「収益を上げるのに必死の民間企業に、社会活動をする余裕はない」という方もいるはずだ。
こうした批判を受けてか、CSV、つまり社会貢献とビジネスを融合させた考えが注目され始めているという(日本では、キリンがCSVに取り組んでいることがよく知られている)。
入山章栄、世界トップの経済・経営学者17人を一気に紹介
そんなCSV経営を提唱したのは、米ハーバード大学教授のマイケル・ポーター氏だ。経営戦略の神様とも呼ばれ、1980年代から競争戦略論を切り開いてきた、世界で最も高名な経営学の教授とさえ呼べる。その功績で注目すべきは、SCP(構造-遂行- 業績:structure-conduct-performance)という経済学の理論を経営学に応用し、学術的な知見を実践への示唆があるように提示していったことにある。ポーター氏はSCP 理論を前提として、ファイブフォースなどの競争戦略論のフレームワークを提示したのだ。最近では、CSV(共有価値の創造:Creating Shared Value)など、社会の変容を踏まえて新しい視点を提示しているのもすごい。
社会課題の解決、企業が主役に
弊誌では、そんなポーター氏にインタビューを行っている。そのインタビューで同氏は、CSVは博愛の精神ではなく、企業がライバルとは異なる方法で優位に立つための戦略だと述べている。そのムーブメントが今、加速しているのだという。
というのも、社会に与える影響への配慮を企業に求める動きは、ますます大きくなっている。もはや、全てのステークホルダーへの配慮なくして、ビジネスは成り立たない。しかも、社会課題の解決に取り組むことが、株主にとっても有益だと理解され始めている。エネルギー効率を改善したり、健康に寄与する商品を作ったり、従業員の成長機会を用意したりすることは、持続的な成長に不可欠なことだと、ポーター氏は述べる。
また同氏によると、共通価値の創造という概念は、資本主義が持つ究極の力を引き出すという。企業自身が、競争で優位に立つために社会課題を解決していくようになれば、企業が得た利益の再配分を政府に任せるよりも威力を発揮するのだ。
タタは100年前からインド企業、強さの裏にESG
そんなポーター氏はもともと、ポジショニングに基づく競争戦略の5つの要因分析を提唱するなどでマーケティングの基本戦略をフレームワーク化し、ビジネス界に大きな影響を与えた研究者だ。CSVではさらに、社会課題解決ビジネスにおける戦略的な考え方を提示した。社会課題解決ビジネスのフレームワーク化に成功した、という言い方もできるかもしれない。
広い意味でいう社会課題の解決のための投資には、長い歴史がある。徐々に企業を巻き込んで、今や一般市民も巻き込みつつある。だが投資家サイドと戦略サイドでは少し位置付けが違う。企業の間では投資サイドに比べ、自社の戦略の一環として、かなり以前から社会課題の解決に対して問題意識があった。例えば、インドのタタ・グループが100年余り前に登場した時、創業者は労働者階層のためにかなり投資し、そのコミュニティーを充実させようとした。インドにはそのような会社がほかにもたくさんあるという。
マイケル・ポーター教授の経営教室「CEOはトップアスリートたれ」
ポーター氏の知見は、CSVだけにとどまらない。CEOのあり方についても論を展開している。経営戦略の立案とCEOの時間の管理は相互に作用し合う関係にあると、同氏は主張する。戦略の立案には時間が必要であり、戦略は組織をまとめる上で重要な役割を果たす。CEOの時間の使い方の成否はリーダーシップそのものにつながるのだ。
上記を踏まえてポーター氏は、優れたCEOは「オリンピックのアスリートのような存在」だと述べる。CEOは睡眠時間やエクササイズ、家族と過ごす時間に対しても規律のある生活を送るべきで、それがよいリーダーシップにつながるというのが、同氏の考えだ。具体的には、体を動かしたり、家族と過ごしたりする時間にも気を配ることが挙げられるだろう。仕事が忙しいからといって、家に帰らなくなると疲れがとれないし、家族との関係も悪くなる。結果として仕事もうまくいかなくなる。
ポーター教授「トランプ時代こそ企業が主役に」
またポーター氏は、米国の政治情勢にも言及している。トランプ大統領が誕生した背景について踏まえるべきは、米国の平均的な市民は、経済成長の恩恵をあまり受けていないという点だと主張。スキルや教育の水準が低い人たちの状況は、さらに悪いという。米国民は、将来を不安視しているというのが、ポーター氏の見立てだ。同氏によると、こうした状況は米国では異常だという。米国は常に、大いなる楽観主義の国家で、通常ならば国民は前向きだからだ。しかし、過去15~20年、楽観よりも不安を抱くようになっていた。
そして、もう1つ忘れてはならないこととしてポーター氏は、米国は過去20年ほど、政治システムにおいていかなる進歩も成し遂げることができなかったという事実を挙げる。二大政党が互いに競い合い、その結果、何も動かなかったのだ。共和党と民主党がいがみ合い、政府を機能不全に陥らせたというのが、ポーター氏の見立てだ。
最後に
CSVとは何か、そしてそれを提唱したポーター氏について、過去のニュースを参考に紹介してきた。CSVは「Creating Shared Value:共通価値の創造」を意味する言葉。簡単にいうと、社会貢献とビジネスを融合させた考え方だ。これを提唱したポーター氏は、経営戦略だけでなくCEOのあり方や政治についても言及しており、その言葉はビジネスパーソンにとってはどれも貴重なものだ。今後もCSVやポーター氏の理論から目が離せない。
さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?