新型コロナウイルスの感染拡大で、2021年夏に延期されることとなった東京オリンピック・パラリンピック。とはいえ、世界的なビッグイベントとしてスポーツ愛好家の注目を集め、企業にとっては技術力をアピールする絶好の機会となることに変わりはない。一方で、五輪開催中には各種交通機関の混乱が予想されるなど市民生活・経済活動への影響を懸念する声も少なくない。今回は、過去に掲載された東京五輪関連の記事から、五輪開催時に注目すべきポイントを振り返る。

56年ぶりの開催となるはずだった「東京五輪」

 夏季オリンピック・パラリンピックの開催地が「東京」と発表された13年9月8日のIOC総会はテレビなどでも繰り返し報道され、プレゼンテーションで使われた「お・も・て・な・し」という言葉は13年の新語・流行語大賞を受賞するなど大きな話題を集めた。

 一方で、東京五輪に注目しているのは一般の国民やスポーツ関係者ばかりではない。国内企業の多くも、それぞれの立場からオリンピックに注目している。世界の目が集まるだけに、公式スポンサーとして企業名を露出させるのはもちろん、自社のテクノロジーや製品をアピールするのにもってこいの機会となるからだ。

 一方で、東京五輪がもたらすのは「正の影響」ばかりではない。交通渋滞や定員超過による交通機関の混乱や物流機能のまひといった負の影響も予想されることから、行政や関係企業には速やかな対策が求められている。

 今回の記事ではこれらのテーマについて、過去の記事からピックアップしていこう。

体操の採点を自動化、東京五輪で実用化目指す

 国際体操連盟と共同で「体操競技の採点支援システム」を開発中の富士通。東京五輪での実用化を目指し、国際大会などでデータ収集を行っている。技の高度化・複雑化が進む体操競技では、トップクラスの審判でも正確な判定が難しいケースがあるという。それを「蓄積したデータ」と「最新テクノロジー」でサポートしようというわけだ。「体操競技から誤審をなくし、もっと透明性があって公平なものにしたい」と国際体操連盟第9代会長の渡辺守成氏は語る。

 開発担当の佐々木和雄氏(富士通研究所 応用研究センター ライフイノベーション研究所 所長)によると、当面のゴールは「東京五輪までに男子6種目、女子4種目の計10種目をカバーすること」だという。もちろんオリンピック終了後も世界148カ所の国や地域の大会で利用される可能性があり、ビジネス的にも大きな可能性が期待されている。

東京五輪で進むバリアフリー、新市場創出へ

 現代のオリンピック大会では「バリアフリー」も重視されるポイントの一つだ。「車椅子使用者席」や「オストメイト」の設置、高齢者や外国人、乳幼児連れ、ペット同伴者などに配慮したデザインなど、取り組むべき課題は多い。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会などは17年に「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン」を発表。政府も同じ年に「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を公表した。施設設計や建築に携わる企業の多くもこれらのガイドラインを順守しており、東京五輪に向けた、またその先の市場拡大に向けた取り組みが進められている。

東京五輪はショールーム

 世界の目が集まる東京オリンピック・パラリンピック。先進技術を開発する企業にとっては、いわば「ショールーム」ともいえる絶好のチャンスだ。その目玉の一つが「水素エネルギー」。14年6月には政府が水素社会実現に向けた工程表を閣議決定し(当時)、トヨタ自動車も年度中の「FCV(燃料電池車)」を発売すると発表した。ホンダや日産自動車もその後に続く。

 FCVに加え「家庭用燃料電池」でも世界をリードしている日本。今後も国内外の企業と協力しながら「クリーンで高効率なエネルギー」の実用化を目指していく。

トヨタの生活支援ロボット、東京五輪で「初舞台」か

 東京オリンピック・パラリンピックに向け、トヨタ自動車とパナソニックが積極的な技術開発を行っている。19年3月にトヨタ自動車が発表した生活支援ロボット「HSR」と物品運搬ロボット「DSR」、パナソニックが披露した「パワーアシストスーツ」がそれだ。いずれも介護や障害者支援を念頭に開発されたもので、東京五輪でのアピールをきっかけに、販売台数の拡大や研究の加速が期待されている。

働き方改革、東京五輪の成否握る

 オリンピック・パラリンピックを支えるのはテクノロジーばかりではない。合計11万人に上るボランティアも、大会の成功に欠かせないからだ。ボランティアの中には語学など特定のスキルを持った人材も求められており、必要な人数を確保することは容易ではない。

 ボランティアの募集条件には5日ないし10日以上の参加や事前研修の受講などが求められているが、ビジネスパーソンがこうした条件をクリアするには職場の理解が不可欠。中には「ボランティア休暇」を導入している企業もあるが、導入企業は全体のわずか2.8%と、極めて少ない。東京五輪の成功は、企業の「働き方改革」にかかっていると言っても過言ではない。

東京五輪をテロから守れ!「不審物探知」最前線

 1日あたり92万人の観客が来場すると予想される東京オリンピック・パラリンピック。世界中から不特定多数の人が集まるだけに「テロ対策」が欠かせない。重点的にチェックされるのは競技会場や駅、空港などだが、大会運営や交通機関を混乱させないためにもスピーディーかつ正確な警備が求められる。

 もちろんこの分野でも日本企業などによる研究は活発だ。爆発物の有無を3秒で探知するゲート(日立製作所)、通常のX線検査装置では見つけにくい危険物を検知するボディースキャナー装置(マスプロ電工)、ガンマ線を活用した検査システム(京都大学エネルギー理工学研究所)など、さまざまな技術が開発、もしくは実用化されている。

東京五輪、「混む前に値上げ」で高速渋滞は解消するか

 オリンピック・パラリンピックの開催で懸念されているのが交通渋滞だ。特に前回の東京五輪(1964年)を機に整備された首都高は、何の対策もしない場合「いつもの2倍渋滞する」との試算がある。首都高は食品や日用品を運ぶトラックの利用も多いため、極端な渋滞は日常生活に影響する可能性もある。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と東京都は「平日であっても休日並みの交通量(普段の平日より15%減)を実現する」との目標を掲げ、五輪期間中、区間や時間によって料金を変動させる案を検討しているという。

「混雑」「パニック」にどう対処するか

 鉄道でも同じように混雑が予想されている。東京地下鉄(東京メトロ)では東京オリンピック・パラリンピック期間中、列車増発や終電繰り下げを検討しているが、朝夕の「ラッシュ時間帯は増便できる余地がない」といい、打てる手は限られる。

 東京都や国はテレワークや時差通勤を推奨しているが、こうした取り組みは以前から行われており、来年の東京五輪までにさらに拡大できるかどうかは不透明だという。

最後に

 世界中から訪れるゲストを「おもてなし」し、同時にビジネスチャンスを拡大するためにさまざまな先端技術が開発・実用化されつつある。一方で安全かつ円滑な大会運営のためには、テロ対策や交通渋滞対策など解決すべき課題も多い。

 世界中から注目を集める東京オリンピック・パラリンピック。21年夏に無事開催となるか、官民をあげた取り組みから目が離せない。

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