日本企業の9割は中小企業といわれている。大企業ほど資金が潤沢でないため、景気などの外部環境の影響を受けやすく、生き残りにかけた課題は多い。中小企業が生き残るための方策や、苦境に立たされながら、挽回に成功した事例を紹介する。

コマツ、協力企業164社との連携で新しいビジネスモデルを創造

 コマツは社名が表すように石川県小松市というローカルに根付きつつグローバルに展開する企業である。コマツは長年密接に取引している協力企業164社を束ねた組織「みどり会」を結成しており、それら協力企業と信頼関係を築き、連携を深めることに注力している。コマツはブルドーザーや油圧ショベルなど建設機械を製造するオールドエコノミーの代表的企業だが、そうした協力企業の支えをもとに、ニューエコノミーを取り入れることで新しいビジネスモデルをつくり上げている。

貴重な地域資源を残すため、中小企業がM&Aで事業を多角化

 長野県下諏訪町にある菱友醸造は2017年4月に自己破産した。その酒造事業を引き継いでブランドを残したのは、遠く福島県いわき市に本拠を置く運送会社・磐栄運送を中核とする磐栄ホールディングスだった。事業の多角化の一環としてものづくりにも進出したいという考えを持っていたからだ。

 同社の村田裕之社長は、積極的にM&Aを繰り返しながら事業を多角化し、地方の運送業の新しい生き残り策を模索している。この5年間で、約30社をグループ化(子会社化)している。中小企業にとって、人手不足やコンプライアンスの順守などが大きな負担となっており、そうした会社とアライアンスを組むことによって大手に負けない集団を目指しているのだ。

中小企業にありがちなデジタルへの苦手意識を変えるには?

 中小企業がデジタル対応を進めるには、社長自身が「経営を変える」という意識を強く持つことが大事だ。社長を中心に社員や従業員などの意識変革ができれば、デジタル対応が少しずつ進む。ただ、デジタルに対する社員や自分自身の苦手意識が根強く、悩む社長も多いはず。取材を通して中小企業で「デジタル苦手意識」を変えるためのコツがみえてきた。

  1. スマートウェブ:「同業のチームを組んで補い合う」
  2. 中島工業:「仕事に役立つ身近な例を示す」
  3. 由紀精密:「安価な装置で成果を実体験」

 いずれケースでも身近な業務からデジタル対応を無理なく進めることから始めている。

地銀が中小企業の事業創造の“伴走者”に

 地方銀行が中堅・中小企業との関係強化に乗り出している。業績拡大のために経営改革を支援したり、新市場の開拓や既存市場の拡大などに協力したりしている。中には様々な技術や商品を持つ複数の企業を連携させて、新技術の開発や、技術や製品の幅を広げることに結び付けた例もある。地銀が中小企業の事業創造の“伴走者”になる形だ。

大学院に通うことで中小企業社長の視点は未来へ向かった

 大学院で専門知識を学ぶ中小企業の社長が増えている。長年、現場で鍛えられてきた社長が新たな知識を得ることで、技術や経営にさまざまなイノベーションを起こす例がみられるからだ。

 カーナビゲーション用パネルに使うプラスチック板などの切削工具を製造する内山刃物(浜松市)もその1つ。従来のプラスチック用切削工具の需要が減る中、内山文宏社長は新分野の工具を作る技術の獲得とその事業化を進めたいと考えていた。そこで「技術と経営の両方の指導者に助けを借りよう」と考え、光産業創成大学院大学(浜松市)に通った。その結果、補助金を得ることができただけでなく、新設備を開発して自社工場の稼働も始めた。大学院大学での学びは、「納期の心配」から「会社の未来」に社長の視点を大きく変えたのだ。

事業承継税制が緩和されるも、中小企業の後継者難はいまだ解決せず

 中小企業を取り巻く大きな課題として、事業承継がある。25年までに経営者が70歳を超える中小企業は約245万社(個人経営含む)に上る。その半数の127万社は後継者がいないか、子供がいても後を継ぐ意思がないといわれる。

 そのため、事業承継税制の緩和が適用された。しかし、事業承継税制の適用件数は大幅な増加は見られず、小手先に終わった税改正と評されている。今後はM&A(合併・買収)で第三者への売却を増やすことも必要になるが、その対応も不十分だ。

中小企業のM&A、トップの不一致がトラブルの要因

 「M&Aバブル」という言葉が踊るほど企業の買収・売却が活発であり、中小企業同士のM&Aも当たり前になっている。しかし、中にはうまくマッチングしないケースも少なくない。成功のために重視すべきポイントの1つが、売り手・買い手のトップの価値観を一致させることだ。そのため、トップ同士の事前協議、互いの情報収集が非常に重要となる。中小企業の後継者問題、単一企業ではなし得ない技術の開発・改良のためにも、M&Aをより円滑に運ぶための工夫が求められる。

再生案件となる中小企業には、決算書に共通点があった

 中小企業の再生案件を多く手がけるMODコンサルティング(東京・港)社長の金子剛史氏は、その経験から「再生案件となる企業の決算書にはある共通点がある」と言う。

 P/L(損益計算書)からみると、製品ごとの売り上げは把握していても、製品ごとの利益を細かく見ていない社長が案外多い。棚卸しの仕方も重要だ。再生案件に持ち込まれる中小企業は、棚卸しが適当なことが多い。このため月次損益の計算が正しくされていないケースがあるという。組織全体で利益にこだわると、業務の効率化が図れ、働き方改革も実現できて、皆ハッピーになるのだ。

中小企業ではPDCAの“P”の時点でつまずくケースが多い

 PDCAは仕事の基本。しかし、現実には「言うはやすし、行うは難し」。いざ実践しようとすると、多くの企業がつまずく。特に中小企業の場合、かなり根本的なところでつまずくケースも目立つという。そもそも計画が、実行されないのだ。中小企業では、半ばルーティンと化している日常業務をこなし、そこで生じるアクシデントなどに対応するだけでも手いっぱいのことが多い。そうこうするうち、既存事業の稼ぎが細り、新しい付加価値を生めないまま、業績低迷に陥る、という。

 このようなじり貧パターンに陥らないためにも、幹部がしっかり計画を立て、部下に実行させることが重要。「計画を実行する」という基礎力なくして、新しいことへのチャレンジは難しいのだ。

大企業を相手取った中小企業の特許訴訟の勝率は1割未満

 知的財産権に関して中小企業は今、どのような立場に置かれているのか。特許にまつわる訴訟件数の約6割は中小企業が提起している。しかし、判決で見ると中小企業の原告勝訴率は2割以下にとどまっており、対大企業の勝訴率は1割にも満たない状況だ。

 弁護士の鮫島正洋氏はその要因を「大企業は知財を扱う部署があり、中小企業よりも圧倒的に準備ができていることにある」と言う。一方、中小企業側は、何となく特許侵害されているとか、大企業に技術を盗まれたようだとかという曖昧な状況で、とにかく「悔しいからやれ」と、経営者が突っ走ってしまうことがある。中小企業が勝率を上げ、適切に利益を確保するには、知財について正しいリテラシーを身に付ける必要がある。

最後に

 景気の変動や技術革新といった外的要因に加え、後継者問題など、中小企業の課題は多岐にわたる。今回紹介した事例や対応策をもとに、苦境を乗り越え、そして力を付けていく必要がありそうだ。

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