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日本初の株式会社・海援隊の流れをくむ、国内有数の総合商社、三菱商事。日本の五大商社の1つにも数えられ、資源開発にも積極的な投資を行うなど世界中で存在感を発揮している。今回は過去記事から、近年の事業投資・事業経営に関する同社のトピックを振り返る。

日本を代表する総合商社「三菱商事」とは

 三菱商事を含む三菱グループの歴史は古く、幕末に坂本龍馬が設立した日本初の株式会社「海援隊」にまでさかのぼる。明治時代に土佐藩出身の岩崎弥太郎の手によって「九十九商会」と名を変えた同社は、その後「三菱商会」「三菱蒸汽船会社」「三菱社」へと変化。そして1918年に、海運需要で急成長した三菱から三菱商事が独立した。第2次世界大戦後にはGHQ(連合国軍総司令部)の命令によっていったん解体されたものの、54年に再合併し、現在に至っている。

 他の総合商社と同様「貿易事業」によって拡大した三菱商事だが、近年はエネルギーや金属といった資源分野への投資、食料や生活物資など生活産業分野の経営に力を入れている。他の五大商社と比較しても、バランスの取れた幅広い事業内容が大きな強みだ。

 一方で、資源事業における損失や投資先の不祥事など、経営上のリスクも抱えている同社。2016年には垣内威彦氏が社長に就任、事業投資から事業経営へと軸足を移してきた。

チリ銅山買収の誤算

 11年11月に、チリ銅鉱山を運営するアングロ・アメリカン・スール(AAS)の株式を買収した三菱商事。約4200億円という過去最大規模の投資だったが、その先行きに暗雲が垂れこめた。チリの銅事業国営公社コデルコが「AAS株はコデルコが買い取る予定だった」と異議を唱えたのだ。

 もともとこの株式取得は、AASの親会社である資源メジャー、アングロ・アメリカンから持ちかけられたものだ。三菱商事としては、より良い条件で権益を売却したい資源メジャーと、株式取得交渉を有利に進めたい国営公社との駆け引きに巻き込まれた形だ。

 三菱商事社長(当時)の小林健氏は「資源・エネルギー分野では中長期的にイージーな案件はなくなっていく」と語った。不安定性な世界経済の下で、投資の難易度は高まる一方だ。

“非・穀物分野狙い”の勝算

 食料分野で大型投資を続ける三菱商事。14年11月にサケ養殖会社、ノルウェーのセルマックを買収、15年9月にはシンガポールに本社を置く東南アジア最大の農産品商社オラム・インターナショナルへの出資を行った。その背景にあるのは、中国の穀物需要に端を発する“爆食ブーム”の収束だ。中国の国有企業が穀物関連事業を強化したため、穀物メジャーを含む各商社が穀物に代わる「新たな成長分野」を開拓しようとしている。

 セルマックの買収でサケ生産高世界2位の地位を得た三菱商事だが、相場の悪化により、買収後のサケ養殖事業は当初、赤字が続いた。これについて三菱商事・生活産業グループの京谷裕氏は「相場リスクをいかに減らすかが課題」と語っていた。

三菱商事社長「燃費不正にがく然としている」

 16年4月、垣内威彦氏が三菱商事の社長に就任した。資源事業の減損損失により、16年3月期には1500億円もの最終赤字(当時)に陥った同社。立て直しのカギは、経営の軸足を「事業投資」から「事業経営」へと移すことだと垣内氏は語った。

 具体的にはコンビニ大手・ローソンへの関与を強め、コンビニというインフラを介して「地域の活性化サポート」を目指していく方針を発表。一方で同社が出資する三菱自動車は当時燃費不正問題で揺れており、事業経営には不安要素が少なくない状況だった。垣内氏は就任後3~4年でポートフォリオのバランスを見直し、非資源分野の比率を高めていく考えを明らかにした。

ローソンを子会社化して「信頼」を担保

 コンビニ大手・ローソンの子会社化を進めてきた三菱商事。16年9月の取締役会で正式に決定され、17年2月に株式公開買い付け(TOB)が終了して子会社化が終了した。「三菱商事という後ろ盾」によって「信頼を担保する」ことが狙いだという。

 この背景には、業界3位だったファミリーマートがサークルKサンクスを取り込み、ローソンを追い抜いたという事情がある。3位に転落したローソンへの不安を払拭するには、三菱商事が「親会社」になることが効果的と判断したのだ。

 関係者の中には同社に対し「いまさら約1500億円もの金額を投じて、これまでと何が変わるのか理解できない」との声もあった。国内のコンビニ店舗数が飽和しつつある中、コンビニ経営の前面に立つことが同社に吉と出るか注目が集まっている。

引くに引けない千代田化工支援

 19年5月、千代田化工建設への1800億円規模の投融資を発表した三菱商事と三菱UFJ銀行。三菱商事にとって、千代田化工建設の経営危機を救うのはこれで3度目だ。

 一部のアナリストは「三菱商事から見て、千代田化工の利益率は投資対象として出資すべき会社か疑問だ」と見るが、すでに33.39%の株式を保有している三菱商事としては、今回の支援は引くに引けない判断だったと考えられる。

 「しっかり再生できるとの確信をもって決断をした」と語った垣内社長。千代田化工の山東理二社長兼CEO(当時)も「三菱商事のリスクマネジメントを中心としたノウハウを積極的に取り入れる」と語り、再生への決意を表明した。

千代田化工再建、管理責任問われる側に

 競合メーカーや投資ファンドなどに支援を打診していた千代田化工。最終的に三菱商事と三菱UFJ銀行から支援を受けた背景には「条件や金額、時間などの面から資金調達を受けることができなかった」という事情がある。上場廃止も視野に入る中、株式の30%以上を保有する三菱商事は「引くに引けない状況」だった。

 会長兼CEOとなる大河一司氏をはじめ、千代田化工に27人を送り込んだ三菱商事。万一4回目の経営危機が発生すれば「管理責任」を問われかねない。

コメダが三菱商事と提携、全国制覇の次は海外

 三菱商事が、コメダ珈琲店を展開するコメダホールディングスに出資する。コメダの海外進出を念頭に、事業経営をさらに強化していく考えだ。コメダとしては三菱商事からの人材派遣を受け入れるほか、三菱商事系のポイントサービス「Ponta」の導入も検討。データマーケティングを活用して商品、店舗展開の見直しも進めていくという。

最後に

 日本有数の総合商社として、資源分野から生活産業分野まで幅広い事業を展開する三菱商事。リスクの大きい事業投資の比重を抑える一方、コンビニなどの事業経営を拡大することでさらなる拡大を目指す。

 「事業経営に軸足を移す」という垣内氏の戦略が狙い通りに運ぶかどうか、今後も目が離せない。

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