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現在の大企業の多くが生まれた高度経済成長期とは異なり、今は経済成長が鈍化し少子高齢化社会に突入している。しかし、技術革新やヒト・モノ・カネの流れの変化によって、新たに事業を創造する「起業」という選択肢に様々な環境が整備されつつある。本記事では、現代社会で起業家を取り巻く環境、近年の起業事例、成功するためのヒントとなる内容を過去記事から厳選した。

カネ余りの時代、起業を取り巻く環境は変化している

 現在の日本では、ヒト・モノ・カネの流れが変化する渦中にあることから、起業家を取り巻く環境や選択肢も多様になっている。例えば、大企業に勤めていた人材がスタートアップ企業、ベンチャー企業へ流入していること、エンジェル投資家の出現からVC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)によるものまで、起業家への投資件数・投資額が増えつつあることなどがある。

 また、出資についてはキャピタルに限らず、クラウドファンディングや自治体といった多数かつ小規模の件数も増えてきている。こういった環境から、現代には様々な起業のスタイルがあるといってよい。本記事では、実際に日本や海外の起業家のインタビューから、多様化する起業スタイルを紹介していく。一方、起業したとしても、事業で成功することは容易ではない。起業してどのように継続、成功させるかについても併せて紹介する。

東京大学発ベンチャーAgIC創業者の清水信哉氏

 東京大学発ベンチャー、AgIC(エージック、現エレファンテック)創業者である清水信哉は、大学時代の友人と2人で「印刷できる電子回路」を開発し、エンジェル投資家である鎌田富久氏から出資を受けた。論文の発表から約3カ月での創業となり、その後は東大発の技術ベンチャーとして、後に続く起業家にとってのロールモデルとなっていた。

新しいものはマイノリティーから普及する|C Channel社長の森川亮氏

 日本テレビ放送網、ソニー、LINE社長を経てスタートアップを創業した森川氏。

 LINE在籍時からスマートフォンの普及に目を向けていたが、日本企業は良くも悪くも、競合他社がやらないと始めない体質があり、そこを疑問視していた。実際、スマートフォン向けのサービスを始める会社は少なかったため、そんなときに設立したのがC Channelだったという。新しいものはマイノリティーから普及するとみており、モバイルの時代は女性ユーザーが中心になるといち早く察知し、現在のサービスをローンチしていったとのこと。

難地域でも商売はできる|小高ワーカーズベース 和田智行氏

 起業と聞くと、スタートアップやベンチャーなど技術やウェブ関連の事業を連想する人が多いかもしれない。しかし、もっと地域や身近な日常に潜む問題を解決する起業もある。例えば、「人口ゼロ」の避難指示区域で定食屋やガラスアクセサリー工房を運営する、小高ワーカーズベースの和田氏だ。福島県南相馬市小高区は2016年夏に避難指示がほぼ全域で解除された。しかし、戻ったのは震災前のわずか2割ほどの人口だった。そこに悲観せず、むしろ新しい地域をつくり上げる、静かな覚悟を表し、あらゆる商売の再建事業に手を掛ける。さらにそんな和田氏の姿を見て、起業を目指す若者が集まってくるという好循環の流れをつくり出した。

シリコンバレーで挑戦し続ける井口尊仁氏

 井口尊仁氏は、AR(拡張現実)アプリ「セカイカメラ」やウエアラブル機器「テレパシー・ワン」で世間を驚かせた人物だ。事業としては失敗もあったが、再び起業し挑戦し続けている。現在は、米サンフランシスコを拠点にDOKI DOKI, INC.という会社で、コミュニケーションを可視化するシステム「トランスペアレント」というサービスを開発しているという。真っ先に試作をしてデモを見せることで、仲間や投資家を動かし、米国の投資家向けイベントでも数々の出資を受けている。

東南アジアに起業家が続々と流入している

 起業するフィールドは国内やシリコンバレーにとどまらず、新興国の地域でも活発になっている。タイのソムキット副首相は、「世界経済の中心はアジアにシフトしている。その中でも最も注目すべきなのが東南アジアだ。中間層拡大に着目し、有力企業、人材、技術が急速に集積し始めているからだ」と語っている。

 東南アジア各国は、先進諸国をキャッチアップするため、爆発的な成長の可能性を秘めたインターネット産業が育つ環境を整えようとしており、起業家にとって多くのビジネスチャンスがある。実際、インドネシアなどでは企業価値が10億ドル(約1120億円)を超える未上場企業、通称「ユニコーン」が域内で次々と生まれており、徐々に他国へマーケットを拡大している事例もある。

起業には小さな成功を積み重ねた展開力が必要

 オリックスのシニア・チェアマンを務める宮内義彦氏は、起業で成功するには「展開力」が重要だと話している。起業家がそれぞれの専門性やテーマを持ち、アイデアを実行して形にすることは素晴らしいといえるが、それだけでは持続的発展(成功)につながらない。「うまく事業が立ち上がったら、次はどのような手を打つのか」を常に考え続ける、展開力が重要となる。そのためには、小さな成功を積み重ねていき広げていくことが大切だとアドバイスを送っている。

起業家は「アイデアを伝え、人を巻き込む力」が必要

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・クスマノ教授は、起業的発想の育成が重要だと強調している。起業的発想を高めるには、製品やサービスといった形にする力と、それを市場に届けビジネスとして成立させる力の両方を磨くことが必要だと教えているのだという。起業や事業は一人で成功することは難しい。大成功した米マイクロソフトのビル・ゲイツ氏や米アップルのスティーブ・ジョブズ氏を見てもそれは分かるだろう。起業して成功するには、アイデア、カタチ、収益といった『点』をいかにつなげるか考え続けることが重要であるとも解説している。

田所雅之氏と鎌田富久氏が見る、スタートアップを取り巻く課題

 数多くのスタートアップ支援を手掛ける両氏から見て、日本のスタートアップのエコシステム(生態系)が実現すべき課題は3つあると語っている。まず第1に「起業家を増やす」、第2に「起業家の成功確率を高める」、第3に「スタートアップを大きく育てる」だ。大企業などに眠るヒト・カネの流動性を高め、さらにM&Aが活発化すれば、スタートアップがスケールアップしやすくなるという。

ベンチャー企業のブランディングにはキュレーションが重要

 ベンチャー企業のブランディングにおいては、特に最初のキュレーションが非常に重要だという。ブランドは、その会社と取引したいかどうかを大きく左右する。初期の取引が認められ、リピートしてもらうためにもブランディングは軽視できない。参照記事内では、ゲーマーセンセイというeスポーツのプラットフォームサービスを事例に動画で詳しく解説している。

最後に

 ここ数年の起業を取り巻く環境やその背景、多様化した起業の事例、成功のために必要な方法を厳選して紹介してきた。中小企業庁のデータにもあるように、開業率はリーマン・ショック以降上昇してきている。しかし、起業後に残り続け、さらにバイアウトやIPOまで実現できるスタートアップはほんの一握りである。「起業家を増やす」というフェーズから、これからは「起業家の成功確率を高める」「スタートアップを大きく育てる」ことが課題となってくるだろう。

 新しい技術を用いた国内のスタートアップが増えることはもちろん、事例にも挙げたような地域を再建する動きなど、様々な起業の在り方は今後も注目されるだろう。

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