リストラ(リストラクチャリング)というと、「解雇」のイメージが強いが、不採算部門の整理や成長分野への進出など、本来は業態の再構築のことをいう。経営者は事業戦略を明確にして、実行しなければならない。名だたる経営者の戦略や、近年の国内外の企業が実行した事例をもとに、あるべきリストラのあり方を見ていく。

リストラには戦略が必要

 業績悪化により、不採算部門を中心に社員を解雇したり、合理化やコスト削減などを進めたりしてきた企業は多い。だが、より筋肉質な組織を目指すには、もう一歩踏み込んで考えて、取り組む必要がある。やみくもな人員削減やコスト削減ではなく、何をどうリストラするかの手法や、実行に必要な鉄則、従業員に対する向き合い方など押さえておきたいことは多い。

「3つのリストラ」で筋肉質な企業体質を構築

 2012年1月、NECが1万人の人員削減を発表。携帯端末事業など不採算部門を中心に、グループ従業員5000人、協力会社など委託先の5000人を削減するとした。当時は円高や電力不足、タイの洪水被害など、日本企業に逆風が強まっていた。そんな中にあって、合理化やコスト削減などを進めてきた企業は多い。しかし、ボストン コンサルティング グループ日本代表を務めていた水越豊氏は、もう一段上のリストラの余地があるとする。

 そのための方法は3つ。「ポートフォリオの見直し」「縦のリストラ」「関連会社のリストラ」だ。

 「ポートフォリオの見直し」は売り上げを積みたいばかりに、あまりもうからなくても継続していた事業を見直すことを指す。例えば「利益率10%」を目安にして、それ以下の事業は切り離すという思い切った決断が必要だ。

 「縦のリストラ」は各部門の人数を減らす「横のリストラ」とは違い、縦に間延びしてしまった組織を削ることを指す。コストカットだけでなく、意思決定のスピードアップにもつながるという。

 「関連会社のリストラ」は、子会社や関連会社が親会社以外の外部企業との取引を展開していても、大きな売り上げになっていなければ、外部との取引をやめさせて、その分コストを徹底的に下げ、親会社との取引で貢献させるものだ。

 事業の強化・拡大のためM&A(合併・買収)で海外に打って出るのも大事だが、欧米企業と戦うには、その源泉となる国内事業をこうした方法でより筋肉質にすべきだというのだ。

リストラは事実の共有と理解なくしては達成できない

 日本製紙グループ本社代表取締役社長や、同社代表取締役会長を務めた中村雅知氏は、「これまでやってきたことはリストラだけ」と言っても過言ではない会社人生を歩んできた。その中で実行してきたのは、より多くの人と事実を共有し、理解を得ること。大赤字だった旭川工場のリストラでは、「これを行わなければ旭川工場が存続しない」とありのままに伝えた。従業員の800人を4つのグループに分けて、それぞれと合宿を行い、酒を飲みながら話し合い、理解を得た。

 これはリストラだけでなく、ほかの業務にも必要なことだという。それを教訓に、中村氏は社長時代に3つのことを始めている。役員や本部長との情報共有、一部の人だけで情報を共有することになる「根回し」の禁止、そして優れた事案を、全社で共有することの大事さを理解してもらうため「小集団活動」の全国大会へ出席したことを挙げる。リストラを通して得た知見が、業務にも生かされたのだ。

リストラは速く、果断に進める

 富士フイルムホールディングスの代表取締役会長・CEOを務める古森重隆氏は、同社のコア事業であるフィルム事業が縮小していく中、世界中の主な生産拠点のラインを止め、現像所や販売網を一気に縮小。海外を中心に1万5000人いた写真分野の従業員を1万人まで削減した。

 その時を振り返り、「素早く、大胆にやる」ことが大切だと強調する。危機時の構造改革は、改革のスケールやテンポといったダイナミズムを経営者が理解できるかどうかにかかっているという。ただし、縮小削減だけでなく、自社の強みを洗い出し、既存事業の周辺への事業展開や新規分野の事業立ち上げに並行して取り組んでいる。守りと攻めを同時に進めたのだ。

リストラは社員との対話なしには乗り越えられない。

 JVCケンウッドの元代表取締役会長、河原春郎氏は、リストラのような苦しい局面においては、社員との対話なしに、絶対に乗り越えることはできないと語る。社員とコミュニケーションをどう図るかは経営者にとって最も大切な仕事だという。

リストラの修羅場から生まれた「社員をとことん大事にする経営」

 日本レーザーの近藤宣之会長は、リストラの修羅場を通じ、「人の大切さ」を痛感したという。同氏は、日本電子とその米国法人の支社、そして日本レーザーと、3回にわたって経営危機に陥った会社の立て直しに尽力した人物。

 日本電子に入社した近藤氏は、同社の労組委員長としてリストラの修羅場に立ち会い、つらい経験をしてきた。その後、米国法人の支社でのリストラにも関わっている。その過程で、人間こそが企業の成長の原動力だという考えに至る。このことが、日本レーザーで「社員をとことん大事にする経営」という理念のもと「進化した日本的経営」を目指すことにつながったという。

「アラフィフ」社員の処遇をどうするか

 経営者にとって、リストラは苦しい決断であることは間違いない。しかし、業績不振に陥った事業があったり、コストに見合わない働きをする社員がいたりした場合、立場上リストラという決断を下さねばならないこともある。特に、40代後半から50代前半の「アラフィフ」社員を、どのように処遇するかは大きな課題のようだ。それは、多くの企業にとって、一番多い年齢層で、ひょっとすると“お荷物”になっている年齢層かもしれないからだ。

止血だけでなく、成長戦略も

 企業のリストラに関するニュースを見ていこう。東芝は18年11月8日、23年度を最終年度とする5カ年の中期経営計画を発表した。しかし内容は、人員削減や不採算事業からの撤退などの止血が中心。具体的には、米LNG(液化天然ガス)事業や英国の原子力発電所建設事業など非注力事業からの撤退だ。約1000人の早期退職を含め、連結従業員の5%に相当する7000人規模の人員削減にも踏み切るとした。

 一方、肝心の成長戦略は不透明なまま。ある東芝幹部は「中計をまとめるのに時間がかかったのは、(銀行出身の車谷車谷暢昭)CEOが東芝内部のことを知らなすぎたからだ」と明かす。車谷CEOは改革を加速する必要があるようだ。

ウーバーは肥大化した組織をリストラ

 グローバルなニュースも見ていこう。ニューヨーク・タイムズは、19年7月29日、配車サービス大手の米ウーバーテクノロジーズが、マーケティング部門の従業員、約400人を削減したと報じた。これは、同部門の従業員数の3分の1に当たるという。マーケティング部門責任者のジル・ヘイゼルベイカー氏は、リストラの背景を「組織が肥大化し、意思決定プロセスが不明確になってきたため」としている。組織の活性化を狙ったものだ。

シーメンス、ネスレに見る本物のリストラ

 次に、独シーメンス、そしてスイスのネスレなどのリストラに関する取り組みを見てみよう。強い企業をつくるには、「事業の撤退・売却」といった、いわば後ろ向きな取り組みと並んで、次の柱となる事業の「育成」や「買収」による前向きな構造改革が欠かせない。日本では人員削減の代名詞となってしまった「リストラ」だが、本来は、そうした構造改革も含むのだ。

 シーメンスはこれまで、事業ポートフォリオの大胆な改革を進めてきた。05年に携帯電話、11年に原子力発電から撤退する一方で、04年には風力発電事業に進出し、洋上風力では世界のトップシェアに上り詰めた。また、IoT事業の展開に欠かせない数々のソフトウエア企業を買収してきた。ネスレも、米国の菓子事業や冷凍食品事業やスキンケア事業を売却している。しかしその一方、3本柱と位置づけるコーヒーを含む飲料と、栄養食品、ペットケアを強化するため、積極的な買収に打って出ている。さらに大物社外取締役を招へいした。食品という、保守的な産業の体質を変える狙いを込めたものだ。

最後に

 ここまで、リストラの手法や、実行に必要な鉄則、従業員に対する向き合い方などを見てきた。日本では人員削減の代名詞となってしまったリストラだが、本来の目的は、事業をどうやって再構築するかである。そのためには単純な合理化や人員削減をするだけでは十分でないことを理解すべきだろう。

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