政治的な混乱や経済の低迷が続き、かつては「最貧国」とまでいわれたミャンマー。2011年以降の政治改革や経済改革により、現在は「アジア最後のフロンティア」として世界中の注目を集める。好景気が続くミャンマーの市場は日本企業にとっても魅力的だ。今回はこれまでの 記事を通して、ミャンマー経済の魅力と課題を振り返る。

軍事政権から文民政権へと生まれ変わった「ミャンマー」

 人口5000万人強、日本の1.8倍の国土を持つミャンマー連邦共和国。英国の植民地から1948年に独立した後は、クーデターによる社会主義政権誕生、民主化デモに端を発する軍事政権の誕生、民主化運動リーダー、アウン・サン・スー・チー氏らへの弾圧など、近年まで政治的な混乱が続いた。

 2011年にテイン・セイン氏が大統領に就任すると、検閲の廃止や政治犯の釈放といった政治改革、民主主義的な経済改革や行政改革などを次々に実施。さらに15年にはスー・チー氏率いるNLD(国民民主連盟)が選挙で大勝し、翌16年にはティン・チョー氏を大統領とする文民政権が誕生した。

 かつてのミャンマーは軍事政権下の鎖国状態に加え、欧米からの制裁を受けて経済的な低迷が続いていた。しかし11年以降は外資の受け入れや経済開発に力を入れ、一時は8%を超える経済成長率を記録。現在は多少落ち着いたものの、依然として6.6%(2018/19年度、IMF推計)という好景気が続いている。

 ここでは「アジア最後のフロンティア」と呼ばれ、世界中の注目を集めるミャンマー関連のトピックを紹介する。

スー・チー氏の解放と外国企業の受け入れ

 まずは12年1月時点の記事から。市民生活に活気があふれるミャンマー。当時は依然として軍が政治に関与しているものの、11年に就任したテイン・セイン大統領の下で政治体制が転換され、民主主義国へと近づきつつあった。

 その象徴ともいえるのが、アウン・サン・スー・チー氏の解放と外国企業の積極的な受け入れだ。ミャンマーへの経済制裁を主導する米国もヒラリー国務長官を訪問させるなど、同国に大きな関心と期待を寄せている。「軍事政権の危ない国」というイメージとはほど遠くなっている。

 これまで米国に配慮し、慎重な姿勢だった日本も例外ではない。従来から取引のあった縫製業だけでなく、医療器具メーカーやソフトウエア開発企業なども自社工場や現地法人を設立し、活動を開始している。人件費の安さはもちろん、手先が器用で品質を重視するというミャンマーの国民性は日本企業にとって大きな魅力だ。今後は家電、自動車、食品といった分野でも日本企業の進出が予想される。

ミャンマーが東南アジアとインドを結ぶ新たな物流ルートに

 同じく12年の記事から。ミャンマー南部の港町、ダウェイに関心が集まっている。バンコクから陸路で300kmという近さに加え「インドと向かい合う」絶好のロケーションから、東南アジアとインドを結ぶ新たな物流ルートとなりうるのだ。試算によると、マラッカ海峡を経由する従来のルートが約10日を要するのに対し、ダウェイ経由なら7日で到達できる。マラッカ海峡の海賊に悩まされることもない。

 ミャンマーの可能性に注目し、丸紅や双日といった総合商社も動き始めている。電力、水道、鉄道などのインフラ関連事業や工業団地開発に参入する狙いだ。

商社が注目するミャンマーの農業

 穀物取引大手・米ガビロンの買収手続きが間もなく完了する丸紅(12年10月当時)。日本の商社としては最大の穀物ネットワークを生かし、ミャンマーで食品関連事業を展開したいという。以前からミャンマー産のゴマを取り扱ってきた伊藤忠商事も、現地でゴマの搾油工場の建設を検討している。

 北部はゴマや果物類の栽培、南部は稲作が盛んなミャンマーの農業は商社にとって大きな魅力だ。巨大投資や長期に及ぶ下準備も必要ないため、今後もさまざまな企業の参入が予想される。

人材教育など進出企業に求められる覚悟と行動

 民主化から4年あまりがたち、バブル経済に陰りが見え始めたミャンマー(2015年4月現在)。一時は東京・丸の内に匹敵するオフィス賃料や、SIMカード1枚20万円といった驚くような値付けがされていたが、今では賃料も落ち着き、SIMカードは1枚150円で投げ売りされている。

 バブルが崩壊したとはいえ、ミャンマー経済そのものにダメージはない。依然として高い成長力を維持しているため、日本企業にとっては今が進出のチャンスだ。一方で停電の頻発や法制度の未整備、深刻な人材不足など不安要素もある。ミャンマー進出を狙う企業には、人材教育などによってビジネスの土壌を整える覚悟と行動が必要だ。

進む経済特別区、道路など交通インフラに問題あるも発展続く

 経済発展が続くミャンマー。タイ、シンガポール、ベトナムなどに代わり、アジアの経済成長の中心地となる可能性もある。すでにヤンゴンから車で1時間ほどの場所に「ティラワ経済特別区」を建設中(16年1月現在)で、すでに日本を含む多くの海外企業が進出している。

 ヤンゴンと特区を結ぶ道路や橋は貧弱で、需要が増えればボトルネックとなりかねない。それでも特区がミャンマーにもたらすであろう経済効果は将来有望だ。

新生ミャンマー、露店にあふれるスマホ、「観光地化」は進まず

 2016年3月末、文民による新政権がミャンマーに誕生する。1年ごとに都市の表情が変わるほどの急速な経済成長もあり、「東南アジアNo.1の活況」を呈している。

 一方で長らく鎖国状態に合った影響で、ミャンマーの「観光地化」は進んでいない。日本をはじめとする海外企業にとって、同国にはまだまだ開拓できる余地が大きい。

 貧富の差の拡大や少数民族の「迫害」問題、スー・チー氏の政治手腕など不安要素もあるが、これからのミャンマーにも引き続き大きな期待が寄せられている。

根気強い「人材育成」が必要

 ミャンマーに進出した日系企業の悩みは「従業員の質」だ。「雨の日になると工場に来ない」「すぐ辞める」「報告・連絡・相談が根付かない」など、アジアの他の国と比べても深刻な状況だという。一方で外資系企業での勤務経験やマネジメント力を持つ優秀な人材は、欧米系や現地の企業が巨額の報酬で囲い込んでしまう。

 長らく軍事政権による支配が続いてきたミャンマーには、根気強い「人材育成」が必要だ。同国に進出する企業には、人件費の安さに注目するだけでなく人材育成に取り組む覚悟も求められている。

ミャンマーは「経済成長の政治」を貫けるか

 19年6月のASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議では「ロヒンギャ問題」が取り上げられた。ミャンマー政府は認めないものの、ロヒンギャ問題はアウン・サン・スー・チー氏率いるNLD政権への信頼を揺るがす深刻な問題となっている。

 その一方で、経済政策には本腰を入れているスー・チー氏。計画・財務相にNLD屈指の経済通、ソー・ウィン氏を起用するとともに、有能な若手を副大臣に抜てきするなど手堅い采配だ。NLD政権が政権を取ってから「まだ3年」ということもあり、今後の動向に注目が集まる。

最後に

 民主化により、急速な経済発展を続けるミャンマー。インフラ整備の問題や人材不足、政治的な不安要素などはあるものの、日系企業にとっては依然として魅力的な市場だ。好景気と経済成長がどこまで続くか、ミャンマーの今後の政治運営や経済政策から目が離せない。

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