「大人のいじめ」といわれることもあるパワーハラスメント(パワハラ)問題。しかしパワハラは企業を巻き込んだ訴訟に発展するケースもある重大な問題だ。可能な限りリスクを避け、職場のパフォーマンスを高めるには、職場にいる一人ひとりがパワハラの背景や実態、対応方法を知らなくてはならない。今回は過去記事を通し、パワハラへの対抗策を学ぶ。

職場での「パワハラ」とはどのようなものか?

 職場でのパワハラは近年増加傾向にある。2018年度の個別労働紛争に関する相談では、パワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」が過去最高の8万件超に上ったという。

 もちろん、業務上必要な叱責はパワハラとはいえない。しかしどこまでセーフでどこからアウトかについて、明確な線引きは難しい。中には上司が指導のつもりでも、部下がそのように解釈せず訴訟に発展するケースもある。一方、明らかにパワハラとされる指導でも、上司本人にパワハラの自覚がない場合も少なくない。

 上司にパワハラをさせない、部下にパワハラと受けとらせないためには、職場での行動に「コツ」が必要だ。ここではパワハラの実態とともに、パワハラへの対策について過去記事から振り返る。

パワハラを起こしやすい人 起きやすい職場とは

 年々増加傾向にあるパワハラ。その背景には、加害者側のハラスメントに対する認識の低さがあるという。本人は「正当な注意・叱責」をしているつもりでも、実際には度が過ぎた叱責をしているというケースだ。

 パワハラを起こしやすい人には一定の傾向がある。「極端な上昇志向」や「せっかちな気性」に加え、「家庭不和などの欲求不満を抱えている」「できる部下に追い抜かれる恐怖を感じている」など個人の事情、「自分流のやり方を押し付ける」気質などだ。

 職場の環境にパワハラが発生しやすい条件が隠れていることがある。「残業が多かったり休みが取りにくい」職場や、「上下のコミュニケーションが少ない」「失敗が許されない」「業績が低下している」職場も要注意だという。

 こうした上司や社風を持つ職場では、最低限でもハラスメントに関する研修を実施したり、コンプライアンスの相談窓口を設けたりする対策が必要だ。

相次ぐ裁判、企業困惑…「指導」が「パワハラ」になる日

 厚生労働省の調査によると、17年に寄せられたパワハラ関連の相談は7万2000件。これは5年前の4割増に当たる数だという。パワハラを原因とする労災認定も15年以降上昇を続けている。労働訴訟に詳しい笹山尚人弁護士によると、業務中に「指導のつもりで、意識せずパワハラ行為に及ぶ」というケースが多いそうだ。

 パワハラの基準について厚生労働省は、1)身体的な攻撃 2)精神的な攻撃 3)人間関係からの切り離し 3)過大な要求 5)過小な要求 6)個の侵害という6つの基準を公表している。しかし「どこからパワハラになるのか」という明確な線引きは難しい。

 こうした実情を踏まえ、政府は「職場でのパワハラ防止措置を企業に義務付ける法案」の20年度中の施行を予定する。何がパワハラに当たるかの具体例が示される一方、企業にはパワハラ対策が義務付けられる。

 とはいえ、法案にはパワハラ行為自体の禁止規定が盛り込まれていない上、7万人以上に及ぶ相談者に対応するには人員も足りない。パワハラのリスクを解消するには、政府頼みではなく企業側の地道な取り組みが不可欠だ。

どうして残業禁止が“新型パワハラ”なのか?

 「合理性のない過小な要求をし続けることも」もハラスメントの範ちゅうに入るという。つまり、やる気のある部下に「頑張らなくていい」と執拗に言い続けることはNGだ。上司にやる気をそがれ続けた部下は「学習性無力感」と呼ばれる状態に陥るといい、これが繰り返されるとパワハラと認定されることになる。

 「目標必達」といったプレッシャーを無条件にパワハラと考えるのではなく、相手の気質なども考慮した指導が必要だ。

ごり押しパワハラ上司に聞く耳を持たせるには

 自分の意見を押し付ける「ゴリ押し系」上司には「プレモータム会議」が効果的という。プレモータム会議とは、「未来の失敗をイメージしながら、プロジェクトの問題点をあらかじめあぶり出し、未来がどうなるかをチームで議論する」という手法だ。まだ発生していない「未来の失敗」ならば、プライドの高い上司のメンツを潰す恐れも少ない。

 もちろん、会議を行う前の根回し(プレモータム会議を行うことの了解)や、相手についての分析(上司がどういう人か、何を欲しがっているのか、どうしたいのか、など)は必須だ。プレモータム会議を上手に活用すれば、パワハラ上司を最大の味方にすることも可能になる。

「パワハラ」にならない叱り方

 上司の側にそのつもりがなくても、部下が「パワハラを受けた」と感じることがある。業務の中で部下を叱咤(しった)する場合は、特にその傾向が高い。意図しないままパワハラの告発を受けないためにも、誤解されない叱り方を学ぶ必要がある。

 ポイントとなるキーワードは「かりてきたネコ」(か…感情的にならない、り…理由を話す、て…手短に、き…キャラクター(性格や人格)に触れない、た…他人と比較しない、ね…根に持たない、こ…個別に叱る)。

 「私」という主語で話す、相手の話をよく聞くことを心がけることの他に、無用な威圧感を与えないことや、叱るタイミング・時間帯に配慮することも効果的だという。

華僑流「言わずに育てる指導」でパワハラ回避

 中国古典の『漢書』には「宰相は細事に親しまず」という言葉がある。「上に立つ者は細かいことに一々反応しない」という意味で、上手に実践すればパワハラ回避に効果的だという。具体的には、ある程度成長した部下に対して「細かく口出し」しない(つまり、本人に任せる)ことで「叱咤がパワハラになる」のを避けることができる。

 一方、まだ苗木段階の部下については成長を促さなくてはならない。その際に効果的なのは、就業中15分おきに記録を取らせることだ。記録内容は「今何をしているのか」「今から何をするのか」といったものだが、記録を提出させたり評価したりするのはNG。あくまで「本人の気づき」に任せることが肝心だという。

 細かい口出しをしないことは、相手を信頼しているというメッセージとなる。単にパワハラを避けるだけでなく、職場のパフォーマンスを高める上でも効果的だ。

最後に

 自覚的なものにせよ無自覚にせよ、パワハラが招くトラブルは個人と企業に深刻な影響をもたらす。だがパワハラの多くは、幾つかのコツをつかんでおくことで回避可能だ。

 不要なリスクを避けるだけでなく、企業として最大のパフォーマンスを発揮するためにも、パワハラ回避に向けた一人ひとりの意識変革と行動が求められる。

 さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら

この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。