今もに逮捕されたことが記憶に新しい日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏。日産再建のためにルノーより派遣される前からその経営手腕は注目されていた。業績をV字回復させた同氏はなぜ逮捕されたのか? また、メディアでは日産で行ってきた疑惑に焦点を合わせ取り上げられてきたが、そこに疑問を呈する評価もある。関連する過去の記事やインタビューをまとめた。

事件の経緯と現在

 2018年11月に金融商品取引法違反の容疑で逮捕されたカルロス・ゴーン氏。長年にわたり、自身の役員報酬を少なく見せかけた額を有価証券報告書に記載していた容疑がかけられている。保釈中の2019年12月には日本からレバノンに逃亡し、現在国際手配されている。そんな同氏が日産自動車の最高執行責任者(COO)に就任したのは1999年のこと。当時の日産は業績不振に陥っていたが、ゴーン氏はわずか約2年で業績のV字回復を果たしたという実績がある。

カルロス・ゴーン(Carlos Ghosn)[日産自動車社長兼CEO]

 日産のCOO就任以来、数々の改革を断行し、復活へと導いたゴーン氏。強力な指導者として君臨し続けている秘密は、一見「冷たい」とも見える改革の裏で、現場を大切にしているという側面も持つ。日本のモノ作りにおいて、その強みが現場にあることをゴーン氏はよく知っていた。東日本大震災の発生直後には、彼は滞在先のフランスからすぐに帰国し、福島原発近くで危険地帯であった福島県いわき市にある工場に入り、社員を慰問したというエピソードもある。

世界一へ、見えたゴーン氏の戦略

 ルノー、日産、三菱自動車の3社連合のCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)時代を勝ち抜く戦略が姿を現しつつある。これまでゴーン氏は、3社それぞれの強みを引き出して連携することで、合併せずとも経済規模を拡大させてきた。CASE時代もその戦略で攻めるようである。グーグルと提携したのも、グーグルのスマートフォン用のアプリを車載システム上で使えるようにし、クルマの利便性を上げる狙いがある。独ダイムラーとの連携も同様である。ただ連携するだけではなく、ゴーン氏は企業の多様性にもこだわっている。3社連合のそれぞれの車の仕様をユーザーのニーズに合わせて変えていく予定である。

ゴーン容疑者がフェルに語った“本音”とは

 2018年11月、ゴーン氏が金融商品取引法違反の容疑で逮捕された。そこから遡ること7年前の2011年、ゴーン氏は独自のマネジメント手法や将来についてロングインタビューを受けていた。ゴーン氏はその手腕で日産をどのように変えてきたのか。同氏は日産の一番の問題点は、方向性がはっきりしていなかったことだと指摘。ゴーン氏はまず方向性を明確に示し、権限委譲することで担当者にモチベーションを持って仕事をさせるというマネジメントを行った。そんなゴーン氏にとって仕事とは何か。それは”責任”と”タスク”だと答えたという。組織から与えられた課題に対して自分自身が貢献し、その貢献に対して何らかの形で報酬・見返りがあることを仕事だという。将来については、「日産パワー88」計画を最後に引退し、今後も何かしらの仕事を行いたいと話していた。

ゴーン氏逮捕、国内の報道に違和感

 ゴーン氏が金融商品取引法違反で逮捕された。会社の私物化の疑いもあるという。なぜこのタイミングで逮捕に至ったのか。ゴーン氏はルノー、日産、三菱自動車の3社連合のリーダーとなっていた。これに対し日産はルノーの支配から逃れるため、ゴーン氏を失脚させたという見方がある。日本の各紙では、ゴーン氏がいかに不正をしたかという点に強く焦点を当てている。ただ、ゴーン氏は1999年に当時業績不振に陥っていた日産の最高執行責任者(COO)に就任し、業績不振の原因は会社が閉鎖的であることや経営層にあるとして風通しの良い組織をつくることで、わずか2年で日産をV字回復させたという実績がある。今後は日本政府とフランス政府との間でどのように調整するかが大きな課題となるだろう。

ゴーン事件で露呈した「日本の危機」

 ゴーン氏の逮捕後、ルノー・日産・三菱自動車連合の次なる主導権を誰が握るのかが大きな焦点である。問題は、グローバルな自動車連合のトップを務められる力を持つ経営者が日本にはなかなかいないことだ。日本人経営者には経験値が不足しているという。この背景に、日本では伝統的に現場第一主義でボトムアップ型の意思決定を行ってきたことがある。しかし、近年企業に求められているのは、トップダウン型の経営。そこで経営力が問われるようになったが、現場重視型の日本企業では「プロ経営者」は育ちにくいというジレンマがある。ゴーン氏の後任には、日産でもルノーでもない第三者をトップに据えることが落とし所になる、と語る関係者もいる。

経営者としての「ゴーン礼賛」への大きな違和感

 2007年、フランスのルノーの技術研究所で4カ月に3人が相次いで自殺した。労働環境と自殺の関係性が問われたこの頃、トップにいたのがゴーン氏だった。2005年にルノー本体のCEOにも就任したゴーン氏が発表した中期経営計画により、労働環境が著しく厳しくなったことが指摘されている。当時と似た状況が近年ルノーで再び起きている。2013年以降、過労が原因とされる自殺者や自殺未遂者は合計16人いたことが判明したのである。ゴーン氏は日本で日産の業績をV字回復させた実績が評価されている。しかし一方で、目標のために全世界でのグループ人員を大幅に削減したという側面もある。企業再生の一方でコストカットの犠牲となった人々がたくさんいるのである。

ゴーン事件が浮かび上がらせたもの 識者はこう見る

 一連のゴーン事件について、識者はどのように見ているのだろうか。青山学院大学名誉教授の八田進二氏は、役員の報酬決定のプロセスについて疑問を呈した。日産の取締役会はゴーン氏の報酬の詳細を把握しておらず、監査役も指摘しなかった。この不透明性が事件の要因の一つであるという。また日本弁護士連合会元副会長の山口健一氏は、日本の刑事司法の問題性を指摘した。日本の捜査では戦前より本人の自白を重要視してきたが、今後弁護士の立ち会いや録音・録画などについての法整備が必要である。SBI証券企業調査部長である遠藤功治氏は、日産は約20年間のアライアンスで何も生み出せなかったと言わざるを得ないと指摘。ゴーン氏の入社後、日産の業績は確かに回復した。しかし、その多くはコストダウンによるものであり、企業として成長できたかと言えば疑問符がつくという。

ゴーン vs 日産 激しさ増す攻防

 ゴーン氏の逮捕から4カ月がたち、ルノー・日産・三菱自の3社の首脳は共同記者会見を開いた。3社がお互いに相手を尊重しながら提携運営の方向性を話し合う会議の設立を発表。日産にとって当初戦う相手はゴーン氏だけのはずであった。しかし、フランス政府や日本政府など様々な立場の人間が事件に関わるようになった。ルノーと日産の資本関係や組織構成などはゴーン時代とは変わっておらず、このまま事件の経緯を検証しなければ、また同じ問題も起きかねない。

最初からルノーと日産の合併を考えていたゴーン氏

 1999年に倒産寸前だった日産再建の責任者としてゴーン氏が選ばれた際に行ったインタビュー。当初からゴーン氏はルノーと日産の合併を視野に入れていた。当時は日産の再建以外念頭にないとしつつ、もし日産の競争力を復活させることができるならば「ルノー日産」へと合併することが容易になるだろうと話した。また、成功のカギは日産の抱えた問題への再建策をつくり、人々を引きつけることだとし、困難に情熱とビジョンを持って立ち向かわせることができれば成功したも同然であると話した。

ゴーン元会長、不正に得た金でライドシェア企業に投資か

 ゴーン氏は、オマーンの販売代理店から数百万ドルの資金を不正に受け取り、同被告の息子と投資ビジネスを展開していたと報じられた。オマーンの会社は同被告が日産自動車から不正にカネを受け取る際に重要な役割を担っていたとされる。

最後に

 日産に派遣される前からその経営者としての手腕に注目が集まっていたゴーン氏。業績をわずか2年でV字回復させ、そのスキルや人柄の評価も高かったようだ。一方で、そのワンマンとも捉えられかねない経営手法には、ルノー時代から批判もあったようだ。一連の事件ではその評価が二分し、報道に違和感を抱く人も少なくなかったようである。逮捕後はもはや企業内の話ではなく、日本とフランスの国家間の問題にまで発展した。日産がどのような方向に向かうのか注目だ。

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