ここ数年、国内でも「ユニコーン企業」というキーワードが報じられることも増え、スタートアップに以前より世間の注目が集まっている。本記事では国内のスタートアップを巡る状況を大企業との関係性といった切り口から紹介する。

国内でも注目度が高まるスタートアップ

 昨今、ここ日本でも米国ほどではないにせよ、スタートアップが目立つようになっている。そして、それに応じて大手企業もスタートアップへの投資や、戦略的なパートナーシップを結ぶなど両者の交流も見られるようになってきている。しかし時には、規模や社風の違いから、両者の間で意見の対立や食い違いが発生することもあるようだ。

老舗企業も続々 スタートアップ狂騒曲

 ここ数年、大企業のスタートアップとの連携が多く見られるようになっている。背景には、自社でのイノベーション創出が難しいという危機意識があるようだ。徳島県に本社を置く、阿波製紙は2017年3月CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を設立。同社の三木康弘社長は、「自分たちだけの技術では、もう新規事業を生み出せない」と粘り強く説得し、やっとのことでCVCの設立にこぎ着けたという。自社の技術には自信があると語る三木社長だが、それでも、新たな素材の開発は「自社だけで努力しても限界がある」(三木社長)と、CVC設立の背景を語る。既に10年ほど前から、取引銀行や自社サイトを通じて協業企業を募集するなど、オープンイノベーションを模索してきた。しかし、見つけた企業は玉石混交で、思うように実績が上がらない。最後の頼みの綱が、事業会社自らVCを設立するという“奇策”だったという。

スタートアップ投資に透ける大企業の経験値不足

 このようにスタートアップ投資に乗り出す大手企業が増えているが、そこには落とし穴もある。その一つが経験不足だ。実際、企業のCVCを見てみると、投資や新規事業の経験や知識を持つ人が担当になるわけではなく、スタートアップとの板挟みになって困っているケースが少なくないという。また、「どうせ投資するならコントロールしたい」「スタートアップが持つ技術を独占的に使用したい」という大企業の思惑と、条件や契約期間を交渉したいというスタートアップ側の主張がかみ合わず、大企業にとってスタートアップが扱いにくい存在に映ってしまう現状もあるようだ。

失敗しないスタートアップ投資「目的を明確に」

 では、スタートアップ投資を成功させるポイントはどこにあるのだろうか。資生堂では、経営陣のトップダウンではなく、ボトムアップの判断でCVCを設立。加えて、スタートアップ投資に対するノウハウ、投資の目利き力がある専門人材を社内外から集め、専門部署を設立した。CVCからの出資は、当時まだ1社だったが、出資話を進めているうちに、M&Aに発展したケースもあったという。最初から、M&Aを目的にすると社内手続きなどで時間がかかるが、CVCを入り口にしたことで結果としてM&Aが早く実現できた好事例になったという。

「金継ぎ」に宿るスタートアップに必要な精神

 このように、スタートアップ投資が盛んになってきてはいるが、そもそも日本ではまだ、米国などに比べると、スタートアップの投資規模はまだまだ小さい。では、日本でさらに起業が増え、有望なスタートアップが次々と誕生するには何が必要なのか。エバーノートの元CEOのフィル・リービン氏は、「日本は失敗を恐れる傾向が強いと聞く。非常に優秀な人たちが、失敗を恐れて起業しない」と分析する。その上で、同氏が日本での起業を促すために挙げるのは、日本の伝統技法である「金継ぎ」だ。金継ぎとは、割れた器を漆で継いで直し、割れた跡を金属粉などで修復する技法である。「私もスタートアップで様々な失敗をして多くの学びを得た。壊れないように会社を作るのではなく、壊れることを前提に考えることが大事だ」。

日本のスタートアップには何が足りない?

 また、スタートアップ支援を手掛けるTomyK(東京・千代田)代表の鎌田富久氏は、日本で、スタートアップのエコシステム(生態系)が実現すべき課題は3つあると語る。まず第1に「起業家を増やす」、第2に「起業家の成功確率を高める」、第3に「スタートアップを大きく育てる」ことだ。また、『起業の科学 スタートアップサイエンス』の著者で、同じくスタートアップ支援を手掛ける、田所雅之氏は、一般的な企業に勤め続けるよりも、上場前のスタートアップに入社する方が大きな収入になる。インセンティブの考え方も変わってくれば、スタートアップはもっと優秀な人材を集められ、発展につながるだろうと語る。

「多産多死」のスタートアップ、意欲保つには「仲間」が必要

 とはいえ、スタートアップがビジネスを行うには、当然リスクも伴う。ベンチャー企業が「多産多死」と言われるように、「やってみたけどムダだった」ものも当然ながら多く生まれる。経済全体として見れば、多くのムダの中からわずかでもイノベーションが生まれればよいが、取り組んでいる当事者にとって、実りがないのはやはりつらいものだ。そんな中大切な存在なのが「仲間」。インキュベーターやアクセラレーターが「自分たちの起業家コミュニティー」を重視しているのもそのためだ。スタートアップの成長は教科書に正解が書いてある「授業」というよりも、仲間とともに切磋琢磨(せっさたくま)し、成長していく「部活動」に近いと言える。

大企業に見切り、増えるスタートアップへの転職

 このように、スタートアップには、スタートアップで働く魅力があるのが分かる。加えて最近では、起業したいが、何らかの事情で今すぐにはできない。そこで、起業したばかりのスタートアップのメンバーとして経験を積み、時機に備えるという人が増えているようだ。実際、ビズリーチ(東京・渋谷)執行役員の中嶋孝昌氏によると、同社が運営する20代向けの転職サイトの「キャリトレ」を使った採用数は、2017年の全体の伸びが、前年比64%なのに比べ、設立10年以内の企業への転職者は79%増えていたという。

アップルが音声アプリのスタートアップ、米プルストリングを買収

 ここからは、国内外の大手企業によるスタートアップ投資のニュースを参考に、今注目の分野・領域は何かを考察する。その一つ目が、音声認識だ。米メディア「Axios」は、アップルが、音声アプリケーション分野のスタートアップ、米プルストリングの買収で合意したと、2019年2月に報じている。プルストリングは「アマゾンアレクサ」や「グーグルアシスタント」といった音声アシスタント用のアプリケーションの開発を、容易にするツールを販売しているという。音声認識は、今後注目の領域であるため、アップルも技術力を強化する狙いがあるのだろう。

ウォルマート、イスラエルのAIスタートアップを買収

 また、音声領域と同様、もしくはそれ以上に注目されているのが、AIだ。実際、ウォルマートは25日、イスラエルのAI(人工知能)スタートアップであるアスペクティヴァ(Aspectiva)を買収。アスペクティヴァは、文章の内容を理解する「自然言語処理」ができるAIを開発するスタートアップだという。

楽天、シンガポールのスタートアップに出資

 続いて注目の領域が、フィンテックだ。楽天は10日、シンガポール拠点のスタートアップ企業Ecommerce Enablersに他のファンドとともに合計4500万ドルを出資したと発表。Ecommerce Enablersはアジア太平洋地域を中心にキャッシュバックサービスのアプリを展開している企業だ。

最後に

 ここまで、スタートアップを巡る状況を、国内外のニュースを参考に紹介してきた。現在日本では、まだ米国と比較するとスタートアップの活躍はそこまで見られない。しかし近年、着実に盛り上がりつつあることも事実だろう。そして、こうした状況を鑑みて、大手企業もスタートアップへの投資を行うようになっている。両者がいかに連携し、イノベーションを生み出していくか、今後の動向に注目だ。

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