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環太平洋地域の国々による、貿易の自由化を目的とした多角的な経済連携協定がTPP。米国の離脱など、様々な話題を呼んだこの協定の背景には、日本のどのような思惑があったのか。米国との関係性を中心に、過去の記事を紹介しながら探っていく。

TPPの現状

 TPPは、環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership Agreement)の略称だ。オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国およびベトナムの合計12カ国でバランスの取れた協定を目指し交渉が進められた。2015年10月のアトランタ閣僚会合において大筋合意に至り、2016年2月、参加国による署名がニュージーランドで行われた。しかしその後、2017年1月、トランプ大統領が就任して、米国が離脱を表明。これを受けて、米国以外の11カ国の間で協定の早期発効を目指して協議を実施し、2018年3月、「TPP11協定」にこぎ着けた。

日本はTPPに参加すべきか?

 2011年当時、日本がTPPに参加すべきか、様々な議論が見られた。そこで本誌では、TPPに関して読んでおくべき書籍を数冊紹介した。まず1冊目が『TPP亡国論』だ。同書は、十分な議論もなく「農業関係者を除く政治家、財界人、有識者、あるいはマスメディアが、ほぼすべてTPPへの参加に賛成」する怖さを「全体主義的な事態」と書き起こした新書だ。著者は、経済産業省から京都大学に出向中(当時)の「経済ナショナリズム」の研究者だ。

 2冊目は、『日本経済の底力』。全体のテーマは、「大震災後の日本経済を立て直すにはどうすればよいのか」だが、TPPに関しても触れ、誤解の多い論点を端から列挙している。例えば、日本は既に十分開国しているとの議論に対し、工業製品にかけている関税率は確かに低いが、問題なのは高い関税率で開国していない他国の存在の方であり、それを「開けてもらいましょうという話なのだ」と指摘する。TPPがデフレを悪化させるとの議論には、(食品の)「価格が下がるのは関税が下がったその年だけで、それ以降継続して下がるわけではない」。文化的脅威論には、素晴らしい独特の文化を有する日本だからこそ「海外に出て行っても十分に渡り合える」。といった調子で、グローバル化の流れをあくまでポジティブに捉える。

安倍首相、TPP交渉参加決断へ

 2013年2月、安倍晋三首相がTPP交渉に参加する意向を固めたことが分かった。安倍首相に近い政府関係者などが「首相の腹は固まっている」と明言した。今夏の参院選を控え、自民党内では農業団体などの反発を懸念し、交渉参加への反対論が渦巻く。それでも安倍首相がTPP交渉参加へとアクセルを踏む背景には、米国などとの内々の調整を通じて関税撤廃の例外措置を確保できる余地があるとの認識が深まったことがある。

TPP交渉で農業改革に号砲

 国内に関しても、政府は交渉進展のカギを握る農業改革に本腰を入れる方針を掲げた。守る対象から“稼げる”農業へ、どう変化を起こしていくか注目された。本間正義・東京大学教授(当時)は「成長が見込める分野はコメ。輸出産業化には農地集積による大規模化とコストダウンが必要」と指摘する。政府は、“稼げる”農業への脱皮に向け、企業の農地取得や減反制度見直しなど、これまでタブー視されてきた課題に着手することを求められていた。

「反TPP」トランプの甘言になびく鉄鋼の街

 現大統領のドナルド・トランプ氏は、2016年6月下旬、モネッセンのリサイクル工場を訪れ、反TPPをぶち上げた。大統領に就任した暁にはTPPを離脱すると正式に表明。さらに、再交渉できなければNAFTA(北米自由貿易協定)からも脱退すると語った。それまでもTPPを「最悪のディール」と酷評するなど保護主義的な言動が目立っていたが、2016年7月の共和党大会の前に改めて、支持基盤である低学歴の白人労働者層に自身の主張をアピールした。モネッセンを演説場所に選んだのは、貿易戦争に敗北し、以前の職を失った労働者の不満をあおることが目的だったという。

「米国抜きTPP」に傾く安倍政権

 そのトランプ氏が就任した2017年、日本の通商戦略は、TPP発効が見込めず、欧州連合(EU)とのEPA(経済連携協定)なども膠着状態で袋小路に入っていた。APEC(アジア太平洋経済協力会議)域内の経済連携を深化させる枠組みと見込まれていたTPP。そのTPPも、もはや風前のともしびという状態だった。日米主導で高水準の貿易自由化ルールをまとめ、それをてこにEUとのEPAなどほかのメガFTA(自由貿易協定)交渉も加速させ、グローバルなルール策定をリードする。そうした動きに合わせ国内構造改革も進める。安倍晋三政権が思い描いたのはそんなシナリオだった。しかし、TPPから「完全離脱」し、TPP参加国と2国間交渉を推進するとの米トランプ政権の意思表明でTPP発効は見通せなくなった。輸出競争上、焦る必要がなくなったEUとのEPA交渉の推進力は低下した。

なぜ、政府は「TPP11」実現に積極的なのか

 それでも日本政府は、米国抜きのTPP、通称「TPP11」の早期実現に向けて動きを止めない。トランプ米政権が誕生したことで、TPPは一時頓挫するかに見えたが、今度は日本がTPP11の締結を主導していく方針だ。その背景には、米国との通商関係があった。米国は当時、日本に2国間での貿易協定を要求していた。もしそれをのんだ場合、米国はTPPより厳しい態度を取るだろうと、安倍首相は読んでいたのだ。例えば、2015年10月に大筋合意したTPPの内容は、多くの品目において関税撤廃となり、日本は当初方針から大きく譲歩する形になったが、それよりも厳しくなる可能性がある。

米国抜きTPP11に隠された日本のしたたか戦略

 米国抜きのTPP、いわゆる「TPP11」の閣僚会合が2017年5月21日にベトナム・ハノイで開かれた。早期発効に向けた検討を11月までに終えることなどが確認されたが、発表された声明の取りまとめを主導したのは日本政府。そこには、日本政府の3つの狙いがあった。第1に、「早期発効」という目標を参加国間で共有して結束を維持することだ。第2に、「TPPの高い水準のルールを受け入れることを条件に、TPPを将来拡大する」こと。第3に、「米国の復帰を促す方策を検討」することだった。

TPP11の旗振った日本、対米交渉で加盟国の利益を守れるか

 日米両政府は第1回の貿易協議を2019年4月15~16日に行った。米国が不満とする対日貿易赤字の縮小をめぐり議論。米農産物を対象にした輸入関税引き下げについては、TPPで認めた水準を限度とすることで大筋一致した。しかし、TPP11の加盟国がどう思うかは疑問だ。TPPは、日米をはじめとする12カ国が交渉を進めたFTA。しかし、ドナルド・トランプ米大統領は就任するやいなや、TPPからの離脱を決定している。

TPP、米国不在でもメリットはあるのか?を解説

 そもそもTPPは、米国不在でもメリットがあるのだろうか。長く日本が各国と交渉を重ねてきたTPP。ようやく締結にこぎ着けたところで、米国がそこから抜けてしまった。結局は、米国なしで締結し直して「TPP11」がスタートした。TPP11の加盟国の中では、日本が最も大きな経済大国。これを企業はどのように活用すればいいのか。デロイト トーマツの羽生田慶介氏が語る。詳細は、以下の記事内の動画で確認してほしい。

TPP11、実は「お得なルール」が盛りだくさん

 その羽生田慶介氏の連載5回目。本記事では、TPP11を活用する方法について伝授する。TPP11について詳しく調べていくと、実は日本企業にとって「お得なルール」がたくさんある。最も魅力的なのが「メード・イン・TPP」というルールだ。これは、TPP11の加盟国の中で、原産地などを累積することができるようなルールで、これを活用すれば、製造業などはより柔軟にサプライチェーンを組んで、関税撤廃などの恩恵を受けることができるという。

最後に

ここまで、TPPのこれまでと現状を、過去記事を参照しつつ紹介してきた。TPPにはそもそも米国が加わっていたが、トランプ大統領が就任後に離脱。現在は11カ国で構成する。TPPからは、日米関係に関する様々な状況を見て取ることができる。今後の動きにも注目だ。

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