日本企業の間で拡大するM&A。M&Aは業界内での競争力強化や企業体質の強化といったメリットがある一方で、一定のリスクを伴う。M&Aの失敗は、最悪の場合「破産」にもつながりかねない。本記事ではM&A成功のコツを学ぶため、過去記事に掲載されたアドバイスや成功事例を振り返る。

ニーズが増大する「M&A」

 M&Aというのは「Mergers and Acquisitions」の略。日本語に訳すと「合併と買収」だ。企業同士の吸収合併や株式の取得・移管、一部事業の譲渡など、M&Aにはさまざまな形態がある。

 企業がM&Aを行う動機として挙げられるのは、事業規模の拡大による国際競争力の強化、国内市場競争力の強化、経営破綻した企業や後継者不在の企業の救済などだ。

 一方でM&Aにはリスクも伴う。収益性が投資額に見合わない、巨額の損失を計上するといった理由により、最悪の場合は破産に至る場合もある。本記事では過去の記事の中から、M&A専門家のアドバイスや成功事例をピックアップしていく。

M&Aは結果責任 嫌ならCEOを辞めるべきだ

 ゼネラル・エレクトリック上級副社長、LIXILグループ社長兼CEOを歴任し、CVCキャピタル・パートナーズの日本法人で最高顧問を務める藤森義明氏。過去に数多くのM&Aを手掛けた経験から「完璧なM&Aはない」とし、ネガティブな反応を恐れるくらいならCEOを辞めるべきだと話す。

 日本企業がM&Aを成功させる秘訣は「経営者の自制心」だという。交渉の最初から経営トップが先頭に立つのではなく、きちんとしたディールチームで情報収集・交渉することが肝心だ。取締役会やアドバイザリーボードなど、まったく違った観点から助言をもらう仕組みも必要となる。

失敗はこうして防ぐ M&Aに3つの関門

 デロイトトーマツコンサルティングの調査によると、日本企業による海外M&Aの成功率は37%だという。過去には東芝による米ウエスチングハウス買収や、第一三共による印製薬大手ランバクシー・ラボラトリーズ買収などがそれぞれ数千億円の減損損失を計上した。M&Aのリスクを可能な限り避けるためには、3つの関門のクリアが必要だ。

 その1つが「事前準備」。買収候補となる企業を徹底的に調査することはもちろん、常日ごろからアンテナを張ってM&A情報を収集する必要がある。

 2つ目は「条件交渉」。適正な買収価格を決定するために、財務面・法律面・税務面などで相手企業のデューデリジェンス(資産査定)が必要だ。

 3つ目は「買収後の統合作業(PMI)」。具体的には、買収先企業の経営陣をどのように経営に関与させるかを検討する、買収の責任者に会長やCEOを任せる、買収先企業の経営陣や従業員との一体感を醸成することなどが挙げられる。

M&Aを支える黒子たち 知られざる舞台裏

 M&Aには水面下の交渉が欠かせない。取引が成立するまで情報を外に出さないために使われるのが、バーチャルな空間でデータを秘密裏に取り扱える「バーチャルデータルーム(VDR)」というサービスだ。デューデリジェンスに必要な財務諸表などの書類を暗号化して保存するとともに、データへのアクセス履歴を管理することもできる。

 ファイナンシャルアドバイザー(FA)や弁護士、税理士などの専門家もM&Aを支えてくれるサポーターだ。特に、業界特有の法律や独占禁止法などに精通した弁護士の果たす役割は大きい。

地道な実務が成否を握る キーパーソンが語る成功の秘訣

 米国の投資ファンド、カーライル・グループCEOのキューソン・リー氏によると、M&Aの成否を分けるのは「買収後の統合作業(PMI)」だという。これには出資した企業に優秀な人材を送り込み経営陣と協力関係を築く、成果指標(KPI)を設定する、KPIの達成度に応じた経営陣へのインセンティブを設定する、などが含まれる。

 「経験を積み重ね、失敗から学ぶ」必要性を強調するのは、西村あさひ法律事務所の太田洋弁護士だ。特に日本企業が学ぶべきポイントは、デューデリジェンスの徹底と上手なPMIだという。

 ゴールドマン・サックス証券のM&A統括責任者、矢野佳彦氏が強調するのは「社長がすごく欲しがらないこと」。M&Aは全体の2割が成功、2割が失敗、残りの6割がそこそこだといい、だからこそ冷静な判断が必要と話す。

経営者に問われる覚悟 「買収巧者」になれるか

 1988年に米タイヤ大手ファイアストンを買収したブリヂストン。買収額は26億ドル(約3300億円)で当時の日本企業のM&Aとして最高額だったものの、2000年には品質問題で大規模なリコールが発生。それでも地道な品質改善の結果、ファイアストンの北米事業は連結営業利益の4割強を占めるまでに成長した。

 このようにM&Aの成否は評価の時期で大きく異なるため、経営者は長期的な視点を持ち、ぶれない覚悟でM&Aの「買収巧者」になることが必要だ。

中小企業のM&A、トップの不一致がトラブルの要因

 中小企業白書によると、2017年にはその5年前の12年と比べて約3.5倍まで急増した中小企業向けM&A仲介会社3社の成約数。とはいえ、特に中小企業同士のM&Aは難しいという。その理由として挙げられるのが、事前の情報収集の甘さやトップ同士、組織同士の相性の不一致だ。

 逆に段ボールメーカーの美販(びはん)(大阪府東大阪市)のケースでは、トップ同士が共感したことでM&Aがスムーズに進んだという。買収相手のトップから聞いたエピソードが自社の創業時に似ていると感じた尾寅(おとら)将夫社長。相手企業の従業員全員と面談を行い、円満なM&Aの実現に成功した。

サービス業の再編、人手不足がM&Aの呼び水へ

 日本経済の低成長は「サービス業の生産性の低さ」が原因だという。米国を100として生産性を比較すると、卸売り・小売りは41.5%、飲食・宿泊は26.5%という低さだ。その背景にあるのが、価格を上げにくい構造や人件費の圧縮の難しさ、ITへの投資が進まずイノベーションが生まれないといった事情だ。

 サービス業の中で勝ち組と負け組が鮮明になると、業界内の人材不足によるM&A件数が増加してきた。このまま業界再編が進み、各企業が付加価値を高めていくと、近い将来には生産性で米国に追いつく可能性もあるという。

日経ビジネスが見た50年#22 大型M&Aの時代始まる

 1999年5月、日本たばこ産業がRJRナビスコの海外たばこ事業を買収した。日本円で約9400億円というのは当時の最高額だ。2000年代に入ると、金融業界でも大型M&Aが活発化した。2000年9月には第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行が統合してみずほホールディングスに、2001年4月には住友銀行とさくら銀行が合併し、三井住友銀行が誕生した。

 通信業界でも大型買収が続いた。ソフトバンクは2006年4月にボーダフォンの日本法人(1兆7500億円)を、さらに2013年7月にはアメリカのスプリント・ネクステル(約2兆円)、2016年9月にはイギリスのアーム・ホールディングス(3兆3000億円)を買収した。他にも製薬業界、ガラス製造業界などで続く大型買収。グローバル化の進展によって兆円単位のM&Aが増える中、今後の日本企業の変化が期待される。

最後に

 M&Aを成功させるにはしっかりした準備や行動が不可欠だ。加えて、M&Aはリスクを伴うため経営者にも相応の覚悟が求められる。

 大企業だけでなく中小企業の経営者も、今後の業界再編で生き残るための情報収集が欠かせない。

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