米アマゾン・ドット・コムが提供するクラウドコンピューティングサービス、AWS。米オラクルや米グーグルといったライバルを抑え、業界ナンバーワンのシェアを誇る。企業や政府機関によるクラウド活用が広がる中、AWSのこれまでの歩みを振り返り、今後を展望する。

企業のクラウドコンピューティングを支える「AWS」とは

 AWSは「Amazon Web Services」の頭文字。アマゾンが提供しているクラウドコンピューティングサービスのことだ。AWSが初めて公開されたのは2006年7月で、19年までに世界シェアの3割以上を占めるなど「業界ナンバーワン」の地位を確立している。

 AWSの登場以降、ITを巡る世の中の考え方は大きく変化した。かつては企業にとって「ITに設備投資すること」は当たり前の行動だったが、現在ではほとんどの企業がIT投資よりも「クラウドサービスの利用」を選択している。それを後押ししたのが、性能の進化と価格破壊を同時に進行してきたAWSだ。米中央情報局(CIA)にも利用されるなど、セキュリティー面での信頼性も高い。

 本記事では過去に掲載されたトピックを通して、AWSの成長の軌跡や未来への展望、ライバルたちとの関係について俯瞰(ふかん)する。

AWSが目指すもの

 過去10年の中で「企業がITをサービスとして利用するようになったこと」が一番のイノベーション(16年当時)と語るのは、米アマゾン・ドット・コム CTOのヴァーナー・ボーガス氏。クラウド技術の進歩は、企業のIT投資を不要にしただけでなく、利用コストの引き下げや経営の迅速化に貢献してきた。

 一方で、多くのクラウドサービスは利用者に5年や10年といった長期契約を要求している。これに対しAWSは短期契約が可能だ。これは「顧客第一主義」を貫く小売業である、アマゾンならではの特徴。利益についても「80%もの利益率はもはや『罪』だ」という立場をとっており、他のITベンダーとは一線を画する。

 AWSの今後10年について、5つの方針があると語るボーガス氏。1つ目はセキュリティーの向上、2つ目はさらなる国際展開、3つ目はサービスのシンプル化、4つ目は顧客のITコスト削減に貢献、5つ目が顧客のパートナーとして「ベストプラクティス」を提供することだという。

 AWSによって、IT業界の構造そのものを変えようとするアマゾン。必要な投資は惜しまない構えだ。

クラウド界の絶対王者「AWS」独走の秘密

 わずか10年で圧倒的な優位を手に入れたAWS。その秘密は、数千台のサーバーを5分で用意する圧倒的な仕組みと、10年間で58回の値下げという価格破壊だ。AWSの世界シェアは15年現在で31%に達し、米マイクロソフト、米IBM、グーグルなどの合計を上回った。

 日本国内でAWSが選ばれている理由は3つある。1つ目は機能の豊富さ、2つ目はセキュリティーの高さ、3つ目は技術者コミュニティーの存在だ。このコミュニティーは「JAWS」と呼ばれ、日本全国60以上の支部で、毎晩のようにAWSの使い方を議論しているという。

 16年には「AWS Snowmobile」という新サービスも発表したアマゾン。今後さらにシェアを伸ばしていくためにも、パートナー選びが急がれる。

オラクル会長「AWSには価格で負けない」

 「IaaSでAWSより低コスト、高パフォーマンスを実現する」と語るのは、AWSのライバル、オラクルの会長兼CTOラリー・エリソン氏。OracleのIaaSはAWSのIaaSとよく似ているが、「プロセッサーのコア数が2倍、メモリー容量が2倍、ストレージの容量が4倍で、ストレージのI/O(入出力)帯域が10倍でありながら、価格は20%安い」という。

 AWSにない独自サービス(Cloud@Customer)や、マイクロソフトや米フェイスブックが力を入れる「チャットボット」向けのプラットフォームも提供。AWSの追い上げに力を入れている。

「Google Cloud」はAWSのライバルになるか?

 「Google Cloud NEXT 2017」で、欧州SAPとの業務提携と新しいサポート制度/割引制度を発表したグーグル。具体的には、AWSを意識した割引制度や使用量に左右されないサポート料金制度が紹介された。とはいえGoogle CloudがAWSに追い付くには、AWSにないサービスの開発も必要。その切り札になると期待されているのが、データベースサービスの「Cloud Spanner」だ。

新しいEC2基盤、Nitroとは

 アマゾンが17年に発表した「Nitro」は、専用ASIC(特定用途向け集積回路)によってネットワークやストレージの性能を大幅に強化するAmazon EC2の基盤だ。さらに自社開発の超軽量ハイパーバイザー「Nitroハイパーバイザー」を投入し、ハードウエアとソフトウエアの両面から他社との差別化を図っている。

 これまで「コモディティー(日用品)のハードウエアで成り立っている」と認識されてきたクラウドだが、現在は専用品によって性能を強化する時代になっている。

AWSが米国で起こした二度目の「CIAショック」

 CIAがAWSを導入する。それを可能にしたのが、政府のトップシークレットを取り扱い可能にする情報機関専用リージョン「Secret Region」だ。CIAがプライベートクラウドを選択しなかったことで、今後「プライベートクラウド不要論」が加速する可能性があるという。

 AWSのピーター・ムーア氏は「(政府専用のAWSサービスである)GovCloudを米国以外の地域で提供する予定はない」と語るが、各国の政府機関によるAWS導入は既に数万件に上る。日本でも国立研究機関によるAWS利用が始まり、政府機関がAWSを利用する場合の「セキュリティーリファレンス」の製作と提供も既に開始されている。

最後に

 高い性能と価格破壊によって、クラウドコンピューティングサービスの王者となったAWS。現代企業にとって、IT戦略だけでなく経営戦略の上でも不可欠な存在となっている。

 ライバルのオラクルやグーグルと共に、AWSのさらなる進化に期待がかかる。

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