ビジネス分野をはじめ、社会のあらゆる場面で応用される「パレートの原則」。全体の8割を2割の要素が生み出すという経験則で、例えば「売上総額の8割を2割の優良顧客が支払っている」というのもその一つだ。今回はパレートの法則に関連する過去記事から、注目のトピックを振り返る。

2割の少数が全体の8割を支える「パレートの法則」

 パレートの法則とは全体の数値の8割を優良な2割が生み出しているという法則のこと(80:20の法則とも呼ばれる)。パレートの法則の具体例としては、企業の売り上げの8割は2割の優良顧客が生み出している、納税額の8割は2割の富裕層が納めている、仕事の成果の8割は2割の時間内で達成されている、などが挙げられる。

 パレートの法則は19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したイタリアの経済学者、ビルフレッド・パレートによって提唱された。発想の根拠となったのは「1880年代の欧州の経済統計」とも「パレートが栽培していたエンドウ豆の収穫割合」ともいわれるが、この「80:20」というのはあくまで象徴的な数字であって「成果の大部分が全体の一部によって生み出されている」という傾向を表しているにすぎない。

 ビジネスの世界では、パレートの法則はマーケティングで活用されることが多い。例えば、自社の製品やサービスを少数の優良顧客向けに絞り込む、つくり込むというのもその一例だ。他にも品質管理や在庫管理、売上管理、さらには人事にもパレートの法則や類似の経験則が影響を与えているケースが少なくない。

 とはいえパレートの法則を活用することが、企業や経営者にとって「常に正しい」とは限らない。場合によっては、あえてパレートの法則によらないマネジメントが必要とされることもある。この記事ではパレートの法則を応用した事例、あえて法則を無視する事例について、過去記事から紹介する。

人口減少・高齢化社会を勝ち抜く「ファンベース」経営

 「ファンベース」という言葉がある。売り上げを伸ばすために新規顧客を開拓するのではなく、既存のファンを大切にすることで中長期的に売り上げや自社の価値を高めていくべきだ、という考え方のことをいう。

 ファンベースカンパニー(東京・渋谷)の会長・佐藤尚之氏は、パレートの法則を引き合いに出したうえで「少数のファンが売り上げの大半を支えているというのは、多くの企業やブランドで当てはまる」と語る。もちろん重要なのは8:2という数字ではない。実際、スマホゲームの中には「1.9%のユーザーが売上高全体の8~9割を占めている」ケースもあるという。

焼肉きんぐ・丸亀製麺…経営指標に「NPS」、ファン増やす武器に

 パレートの法則はあくまで「一定の傾向を表す経験則」にすぎない。これをビジネスの世界で応用するためには、さらに別のツールを用意しなければならないこともある。例えば「顧客推奨度(NPS)」もその一つだ。

 NPSとは「あるブランドをどれだけ友人らに薦めたいか」を数値で示したもの。0~10の11段階でアンケートを取り、10~9点を選んだ人を「推奨者」、7~8点を「中立者」、6点以下を「批判者」に分類して、推奨者の割合から批判者の割合を差し引いたものをNPSの値とする。

 焼肉きんぐや丸亀製麺ではこのNPSの値を活用することで「店舗の状態の可視化」や「ファンづくり」を行っているという。

TDR首位もUSJが肉薄 西武園ゆうえんちのお薦め度が急上昇

 同じくNPSを通してファンの意見を吸い上げ、経営に活用しているのがプロ野球の西武ライオンズだ。試合ごとにチケット購入者にアンケートを実施し、得られた数値を試合中のイベント運営や球場設備の整備に活用している。

社員のやる気は それじゃ湧かない

 とはいえパレートの法則は必ずしも絶対成功の法則ではない。例えばパレートの法則や、パレートの法則から派生した「2:6:2の法則」によると、組織に所属する社員は2割と8割(もしくは2割と6割と2割)で優劣に分類されるが、それをうのみにすると上位の2割や下位の2割の放任・切り捨てにつながることがある。

 従来の日本企業が行う社内イベントなどの「やる気対策」はこうした考え方に基づくため、マネジメントの国際常識では「一部の社員にしか効かない方法」と考えられているという。

あなたは毎日、部下を見つめていますか?

 キユーピーの元社長で、山城経営研究所の社長(記事掲載当時)を務める鈴木豊氏も「すべての社員」を大切にすべきだという考えだ。「2:6:2の法則」に基づいた切り捨てを行うのではなく、管理職の責任として「部下を毎日見つめる」ことが重要だと鈴木氏は語っている。

最後に

 「売り上げ全体の8割は2割の優良顧客から生み出される」というパレートの法則。多くの企業がこの経験則をベースにしたマーケティングやマネジメントを行っている。しかし過去記事から見てきたように、パレートの法則に基づく経営は常に正解とは限らない。どのような場面でパレートの法則を取り入れるべきか、まずはしっかり考えることが大切だ。

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