日本の魅力を総称する「クールジャパン」。オタク文化から日本らしい景観までクールジャパンはあらゆる分野に存在しており、官民を挙げてこうしたコンテンツを活用する取り組みが進められている。今回はこれまでの記事から、クールジャパンに関する注目の話題をピックアップしていく。

世界で日本のファンを生み出す「クールジャパン」

 クールジャパンとは、食やアニメ、ポップカルチャーをはじめとする日本の魅力の総称のこと。内閣府の「クールジャパン戦略」によると、世界から「クール(かっこいい)」と捉えられる日本の魅力をクールジャパンとしている。

 政府は2010年にクール・ジャパン室を設置し、省庁の垣根を越えてクールジャパンを世界に発信するためのさまざまな政策を推進してきた。その目的は「世界の共感」を得ることで日本のブランド力を高め、日本への愛情を有する「日本ファン」を増やすこと、そして日本のソフトパワーを強化することだ。

 一方、クールジャパンが日本のブランディング戦略である以上、知的財産を保護する仕組みは欠かせない。特にマンガやアニメなどのコンテンツでは「海賊版」の問題が深刻化しており、官民一体となった対策が求められている。加えてクールジャパンコンテンツを適正かつ円滑に利用できる仕組みづくりも必要だ。

 この記事ではクールジャパンに関する過去記事から、クールジャパンの代表的な事例や現在の課題について振り返る。

熱気と現実

 アニメやマンガ、コスプレ、ゲーム、アイドルなど、クールジャパンのコンテンツは世界中の若者を中心に支持を広げている。潜在ファンは世界中で3億人に達するという声もあり、その可能性は絶大だ。

 一方で、クールジャパンは「意外ともうからない」という。海賊版の存在や的外れな政策がその主な原因だ。例えば、12年に経済産業省が採択したクールジャパン戦略推進事業は全15件。うち、コンテンツ産業の強化につながりそうな事業は7件で、ほかは日本食や日本酒、自動車などコンテンツ以外の海外拡販に関する事業だった。

「Kawaii」文化を世界へ拡散でおもてなし アソビシステム

 クールジャパンはマンガやアニメなどのコンテンツに限らない。例えば14年にパリで開催されたジャパンエキスポ会場に新設された「KAWAii!! AREA」では、原宿のアパレルショップやカラオケ、富士フイルム、ドン・キホーテといった企業が注目を集め、エリア中央のステージでは日本人モデルやゆるキャラによるショーも繰り広げられた。その仕掛け人となったのはファッション誌で活躍する人気モデルらが所属するアソビシステム(東京・渋谷)。わずか40人ほどの日本企業だ。

 同社は、日本に来てくれる外国人、いわゆる「インバウンド」の施策も欠かさない。さらに、Kawaii文化を国内外の各地域でローカライズ(現地化)させていくことも狙っているという。

なぜ中国人は日本のアニメに心奪われるのか

 クールジャパンのコンテンツは、西洋だけでなく中国でも人気が高い。特に多くの「ファン」を獲得しているのは日本のアニメだ。明治大学法学部の加藤徹教授によると、日本のアニメが中国で支持される理由は「国境や制約があるからこそ」だ。

 特に「唯物論の共産主義思想を国是とする現代の中国」では、ファンタジー要素の強い日本のアニメは一部の中国人を熱烈にひきつけているという。また、若い中国人が見たがるのは、学園ハーレムものとか、萌え系とか、日常系ギャグとか、中国のアニメでは描きにくいジャンルの日本アニメなのだ。

秋元康氏、革新を起こし続けてきた男の頭の中

 クールジャパンといえば「アイドル」も欠かせない。現在、アイドル文化の第一人者とされるのは秋元康氏だ。秋元氏がプロデュースするAKB48などのアイドルグループは、国内だけでなく海外でも絶大な人気を誇るが、秋元氏自身はマーケティングとか全く気にせず作っている。「こういうのがウケるんだろうな」と思って何かを作るのではなく、大衆の一人でもある自分が面白いと思うものを作ろうというのだ。

タカラ創業者・佐藤安太氏の遺言「ピカ、カックン、スー」

 玩具の分野で長年にわたり「クールジャパン」を生み出してきたタカラトミー(旧タカラ)の創業者、佐藤安太氏。

 「売れるおもちゃは東京でも九州でも北海道でも、同じように売れる」と語る同氏は、売れるおもちゃに共通する法則として「ピカ、カックン、スー」という言葉を残している。おもちゃを見た子供の目が「ピカ」と光り、首が前に「カックン」と出て、手が「スー」と伸びる、という意味だ。

 そして、日本には、いわゆる「クールジャパン」で、世界におもちゃを発信していく文化が色濃くあるという。「おかげさま」「おもてなし」「おもいやり」「かわいい」など、日本人特有のクリエーティブな世界観が、そのまま海外でも共有されているというのだ。

アジアで人気、海賊版「ワンパンマン」が映す日本コンテンツの課題

 タイやインドネシアでは、「ドラえもん」「美少女戦士セーラームーン」「ドラゴンボール」などの「国民的」とまではいえないキャラクター「ワンパンマン」の人気も高い。一見するとクールジャパンの成功例ともいえる現象だが、ワンパンマン人気を必ずしも手放しでは喜べない事情もある。海賊版の存在だ。

 日本の動向をいち早く知る消費者のコミュニティーが注目し、フェイスブックなどSNS(交流サイト)で発信。さらに一部の愛好者が漫画のコピーに翻訳を付けたことで、人気が広がったのだ。

 実際、日本のマンガを「翻訳して勝手にアップロード」しているサイトはアジアの国々に数多く存在しており、ほとんどの「ファン」はそうした海賊版サイトを通してマンガを読んでいるのだという。インドネシアのオタク学生は言う。「日本のマンガはクールだ。ただ届け方がクールじゃない。もったいない」。

軍事よりアニメ「文化輸出立国」で日本が生き残る3つのポイント

 政府が進めるクールジャパン戦略の目的は、日本のソフトパワーを高めることだ。突き詰めると「コンテンツによる外貨の獲得」に他ならない。特に全世界で2兆5000億円余りの市場規模を誇るアニメ業界には大きな期待が寄せられている。ただし、海外におけるアニメ人気は全くの偶然に近い。それだけに、海外からの注文に受け身で対応する形から一歩踏み出して、業界全体でイノベーションに取り組まないと未来は明るくない。

 クールジャパンがもたらすのは単なる経済効果だけではない。文化的財産や価値観からなるソフトパワーは、国際社会の信頼や影響力をもたらす。アニメ、マンガ、ゲームは安全保障に貢献しているのだ。

最後に

 あらゆる分野で日本らしい魅力を発信し続ける「クールジャパン」。世界中の若者を中心に「日本ファン」を増やす一方、政府が期待する経済効果については知的財産権の問題など重要な課題が残されている。クールジャパンが単なるブームに終わるのか、それとも「日本の主要産業」として発展していくのか、官民を挙げた取り組みの行方に注目が集まっている。

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