顧客の獲得を目的に、企業が他社との差別化を図る「競争戦略」。数ある競争戦略の中でもマイケル・ポーター氏の提唱した3つの基本戦略は特に有名で、日本国内にもこの戦略を実践している企業は多い。この記事ではポーター氏の理論や実践例について、過去記事からピックアップしていく。

他社との差別化によって顧客を獲得する「競争戦略」

 競争戦略とは、企業が顧客を獲得するために他社との差別化を図る戦略のことだ。マーケティングの権威、マイケル・ポーター氏は競争戦略について「会社が自社の市場地位を強化できるよう、うまく競争する仕方の追求」と定義している。

 一般に競争戦略とされるものにはさまざまな手法があるが、中でもポーター氏が提唱した「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」は特に有名だ。

  • コストリーダーシップ戦略:事業の経済的コストを競合企業を下回る水準に引き下げることで、競争優位を確保する戦略
  • 差別化戦略:他社の製品やサービスの価値に対し、自社の製品・サービスの価値を増加させることで競争優位を獲得する戦略
  • 集中戦略:企業の資源を特定の製品や流通、地域などの領域に集中することで、少ない経営資源を効率的に生かす経営戦略

 これら3つの基本戦略は国内外の企業によって実践されており、その多くで目に見える成果を上げている。今回はポーター氏の理論や国内企業の実践例について、過去記事から振り返ってみる。

古典の経営理論を実装する

 『競争の戦略』『競争優位の戦略』という2つの著書で競争戦略の概念を提唱したマイケル・ポーター氏。特に「コストリーダーシップ戦略」と「差別化戦略」は多くの企業が注目する有名な基本戦略だ。

 しかし企業がどのような戦略を採用するかは単純に決められるものではない。ポーター氏は「戦略を立てるからには、対象とする顧客とニーズを定めなくてはならない」と述べており、顧客が誰なのか、そして何が求められているのかを見極める重要さを強調している。

任天堂、負の遺産逆手に“イカ”で復活する?

 過去の失敗を競争戦略に生かしているのは任天堂だ。同社が販売する「Wii U」は「失敗機」とまで呼ばれた家庭用ゲーム機だが、2015年に専用ゲームソフト「スプラトゥーン」を販売すると状況は一変。同ソフトは2016年3月期だけで427万本も売れるヒット作となった。

 任天堂が採用した競争戦略は「RBV(リソース・ベースド・ビュー)」と呼ばれるものだ。RBVとは自分の強みを使って勝てる戦略を組み立てることで、たとえば腕力のある野球選手が長距離ヒッターを目指し、足の速い選手が盗塁でかき回すのと同じ考え方だ。

ドコモの新料金プラン「ahamo」について知っておくべき10のこと

 2020年にドコモが発表した新料金プラン「ahamo」は、同社にとって事実上の「値下げ」だ。その背景には政府からの値下げ要求もあったというが、それ以上に、若年層に弱い同社の切実な競争戦略という面が大きいという。

 これまでソフトバンクの格安サブブランド「ワイモバイル」やKDDIの「UQモバイル」に奪われていた若年層を取り戻し、「新しいドコモを創業する」のが同社の狙いだ。

エレコムを1000億円企業に成長させた「経営学オタク」

 パソコン周辺機器で1080億円の売上高にまで成長したエレコム(2021年3月期)。競合メーカーがひしめく業界で、同社の成功を支えているのがポーター氏の理論だ。

 パソコンラックの販売で事業をスタートしたエレコムは、パソコン用のケーブルやマウス、キーボードなどで事業を拡大してきた。同社の歩みは一見順調に見えたものの、創業者の葉田順治氏(現会長)によると「直感経営の勢いだけで進んでいた」にすぎず、1996年3月期には7億円の赤字に転落してしまった。経営悪化した同社と葉田氏を救ったのは、マイケル・ポーター氏の『競争の戦略』だという。

マイケル・ポーター教授の経営教室「CEOはトップアスリートたれ」

 「日本人はとても手際がよく、教育水準が高い」と語るポーター氏。しかし日本企業は成長率が低く、「欧米諸国に比べると生産性の低さも目立つ」という。

 ポーター氏の分析によると、その原因のひとつはDX(デジタル化)への熱意があまりないことだ。特にCIO(最高情報責任者)の役割が重視されておらず、そもそもCIO本人も何をすればよいかわかっていない。世界のライバルと競争していくためには「日本企業はデジタルにこれまで以上に力を注ぐ必要がある」と同氏は語っている。

日立、トヨタが取り組むMaaS、「事業フルモデルチェンジ」に必要な5ステップ

 ポーター氏が日本企業の課題と指摘した「DXにおける長期的な競争戦略」の実践に取り組んでいるとみられるのがトヨタ自動車だ。

 同社では近年「MaaS」(モビリティー・アズ・ア・サービス)というキーワードを多用しており、自動運転や空飛ぶクルマ、ロボット、スマートホーム、人工知能などの大規模な実証実験(トヨタ未来都市「Woven City」)に取り組んでいる。

最後に

 マイケル・ポーター氏の提唱した競争戦略は世界中で実践されている。日本でもエレコムの葉田会長をはじめポーター氏の著書から経営再建のヒントを得た企業、経営者は少なくない。一方でポーター氏によると、日本の企業はDXへの理解と熱意が足りず、それが生産性の低さにつながっているという。多くの日本の企業がこうした指摘を参考にして、高い競争力を取り戻す日が来ることを期待したい。

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