M&A(買収・合併)の一手法として、既存の会社の一部や全部を別の会社に承継させる会社分割。分割の方法や対価の受け取り方法にはいくつかの種類があるが、いずれも事業再生や事業の再編を目的として行われることが多い。今回は過去に掲載した会社分割の事例からいくつかピックアップしていく。
M&Aの手法として利用される「会社分割」

会社分割とは、既存の会社が営む事業の一部もしくは全部を他の会社に承継させること。
会社分割には「吸収分割」と「新設分割」がある。吸収分割はすでに存在している別会社に事業を承継させ、新設分割は新しく設立する会社に事業を承継させることをいう。会社分割に際して対価を受け取る方法にも「分社型分割」と「分割型分割」があり、前者は既存の会社が対価を受け取り、後者は株主が受け取る。
なお会社分割は同じくM&Aの一種である事業譲渡と似ているが、対価の支払い方法(事業譲渡は現金、会社分割は株式)や取引先の承継方法(事業譲渡は個別承継、会社分割は包括承継)、法人税の優遇措置の有無(事業譲渡はなし、会社分割はあり)など様々な違いがあり、それぞれのメリット・デメリットを考慮し使い分けることが必要だ。
この記事では会社分割によって事業再生や事業再編を果たした企業の事例を過去記事から紹介していく。
強みの強化が成長を促す
社員数が2万人を超えていたリクルートは2012年に就任した峰岸真澄社長が分社化を進め、各社を1000~2000人規模にした。これは1980年前半ぐらいのリクルートの規模と同じだ。分社化によって各社のサービス開発の速度は確実に上がった。以前は、我々経営陣が「あれはどうなっているの?」と逐一聞くこともあったが、今では現場の人たちが勝手に進めているという。
ワークスアプリ、首の皮一枚から大逆転、HR事業売却へ
経営難に陥っていたシステム大手のワークスアプリケーションズは、事業再生の手法として会社分割を選んだ。収益源だったHR事業を米投資ファンドのベインキャピタルに売却譲渡した。譲渡金額は約1000億円とみられる。身売り交渉では「買収総額が500億円いけば御の字」(交渉関係者)ともされていただけに、ワークスアプリにとってはまさに「首の皮一枚からの大逆転」となった。約1000億円の売却資金で残された事業の収益化を目指すという。
事業承継が難航 社員が活躍できる環境を考え店舗を売却
飲食チェーンの湯佐和では、後継者問題の解決策として会社分割を利用した。オーナー一家から次の社長を出すことができず、社員の後継者を育てることにも失敗。湯澤剛社長は、13店舗のうち10店舗を大手外食チェーンの焼肉坂井ホールディングスに売却し、残る3店舗を新たに立ち上げた会社(ユサワフードシステム)に引き継いだ。
世界最古「甲斐の秘湯」はなぜ1300年続いたのか
「世界最古の温泉宿」としてギネス世界記録に認定されている西山温泉の慶雲館(山梨県早川町)。昭和から平成にかけて建物の改修や新設を繰り返し、設備投資負担が重くなってきた。
そこで実行したのが会社分割。2017年6月に新会社の「西山温泉慶雲館」を立ち上げ、旅館事業を譲渡。新たな資金を新会社に入れる一方、それまでの会社は商号を変更した後、金融機関から債務放棄などを受けて18年6月に解散。新会社を引き継いだ川野健治郎社長は「苦労していたが、支払いなどができなかったわけではない。それでも負債が多く、事業を引き継ぐためにこの方法になった」と説明する。
1000年以上も当主は同じ名前。奈良時代創業の温泉宿、法師
石川県小松市の温泉旅館、法師も事業再生を目的とした会社分割を実行した。法師は奈良時代の創業で、2代目以降は当主が同じ名前を1000年以上引き継いできた。バブル崩壊後の景気低迷によって、団体客を対象にした温泉旅館は集客に苦戦するようになる。温泉街には廃業する旅館も出てきた。法師は宿泊客の減少と客単価の低下のため2012年ごろには売上高がピーク時の4分の1の5億円ほどになった。2017年に新会社に事業を譲渡。旧会社は20年、⼤阪地裁から特別清算の開始決定を受けた。
ふくおかFG、スマホから地銀を再定義
金融機関でも再編が進んでいる。福岡銀行が2007年4月、熊本県の熊本ファミリー銀行(現・熊本銀行)と2行でふくおかフィナンシャルグループ(FFG)を発足させ、同年10月に長崎県の親和銀行(現・十八親和銀行)を傘下にした直後だ。県境を越えた再編を果たしたものの、傘下に収めた2行は不良債権が重くのしかかっていた。
FFGはその解決策として、経営難に陥った融資先の事業再生・不良債権部門を両行から分割して福岡銀が受け継ぐ「会社分割」を実施した。福岡銀に2行の不良債権を片寄せし、不良債権処理を加速した。直後のFFGの09年3月期の経常利益は前期比で88%減った一方、会社分割に伴う繰り延べ税金資産(不良債権の前倒し処理で払った税金が将来戻ると見なして計上する資産)が増え、純利益が17.5倍の219億円になった。
最後に
会社分割は事業再生や事業再編の有効な手法。引き続き要注目だ。
さらに詳しい記事や、会員限定のコンテンツがすべて読める有料会員のお申し込みはこちら。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「テーマ別まとめ記事」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?