電力の供給・需要をリアルタイムに把握し、効率的な電力供給を可能にする次世代送電網「スマートグリッド」。脱炭素やスマートシティの実現にも貢献するスマートグリッドは、世界各地で実証実験が進められている。今回はスマートグリッドをテーマにした過去記事から、注目のトピックを取り上げていく。

電力供給を効率化する「スマートグリッド」

 「スマートグリッド」とは電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網のことをいう。発電所からの電力を一方的に送り出す従来の送電網に対し、送電量をコントロールできるスマートグリッドはまさに「賢い(=スマート)」送電網だ。

 スマートグリッドの導入によって得られるメリットは「効率の良い電力供給」だけではない。ネットワーク経由で家庭やオフィスの電力消費量をリアルタイムに把握できるため、正確な電力消費量の予測が可能だ。このため発電計画や発電所・変電所の設置計画に役立つだけでなく、再生可能エネルギーの導入をサポートすることで脱炭素にも貢献できる。

 加えてスマートグリッドは、都市のさまざまなデータを収集してインフラや施設運営の最適化、企業や住民の利便性向上を目指す「スマートシティ」実現にも欠かせない。スマートグリッドを使ったスマートシティの実証実験は、すでに米国のいくつかの都市をはじめ日本でも進められている。

 この記事ではスマートグリッドをめぐる日本と世界の動きについて、過去記事の話題から紹介していく。

人類史を画する「大変革」が迫りつつある

 スマートグリッドは電力網と情報網を束ねることで、電気機器や家、工場、オフィスの消費電力をリアルタイムに「見える化」する。電力網がスマートグリッドになると、電力を必要とし電力網につながっているあらゆるモノが、新しい電力網であるスマートグリッドにつながることになる。

 スマートグリッドにつながるのは、スマートハウス、スマートビルディング、スマートキャンパス、スマートメーター(通信機能のほか高度な機能を持った電力量計)、スマートアプライアンス(エネルギー消費を最適化する機能を持った家電製品)、スマートカーなど多種多様。あらゆるモノがインターネットにつながれば、ビジネスが影響を受けないはずはない。

動き始めたバイデノミクス 日本企業に「カミカゼ」吹くか

 電気自動車(EV)の普及に力を入れる米国は、「夜間に電力系統からの電気をEVにためる」ためのインフラとしてスマートグリッドに注目している。バイデン米政権の経済政策ではEV向けの充電設備の拡充や導入補助に1740億ドルの資金投入を計画するほか、電力インフラにも1000億ドル規模の投資をするという。

 スマートグリッドの活用には日系自動車メーカーも米企業などと連携して取り組んでおり、利益を享受できる可能性がある。とはいえ自動車業界全体が利益をまんべんなく享受するわけではなく、分野ごとに明暗が分かれることが予想される。

立ちはだかる4つの壁 先手必勝という賭け EVを社会インフラに

 EVは製造コストがまだ高く、現状の販売規模では利益が出にくい。そこでプラットホーム(車台)の共有や電池コストの低減、生産台数の増加、生産効率改善でコストを下げることがもくろまれている。最大のポイントとなるのが電池のコストだ。このコストを下げる手法の一つとして、EVとスマートグリッドを結びつける構想がある。

 具体的にはEV用電池を電力ネットワークにつなげ、電気代が安い時間帯に充電し、電力の需給調整機能を担う事業だ。「V2G(ビークル・ツー・グリッド)」と呼ばれ、EVが駐車中に需給調整することで収益を上げることが想定されている。これによりEVに関わるコストを軽減しようというのだ。

スマートグリッドを利用しエネルギー管理

 フランスの大手電機メーカー・シュナイダーエレクトリックでは、スマートグリッドを利用したエネルギー管理システムの実証実験を行っていた。風力・太陽光発電などの自然エネルギーは環境への負荷は小さいが、天候の影響を受けやすく稼働が不安定。そこで、同社では正確な気象予報データを基に自然エネルギーの稼働計画をつくっていた。

 刻一刻と変化する風向きや風力を予測し、風力発電のブレードの向きを変える。日照時間から太陽光発電の出力を予測し、足りない電気はガス火力発電などで補充するのだ。

「ウーブン・シティ」も直面 住民置き去りでは街の変革は進まず

 スマートグリッドを活用する「スマートシティ」の取り組みも進められている。たとえばトヨタ自動車が静岡県裾野市で開発している「Woven City(ウーブン・シティ)」や、三井不動産などが主導する「柏の葉スマートシティ」などはその一例だ。

 だがこれらの先進的な都市計画に対して、地元コミュニティーとの連携がうまくいくのかとの懸念もある。このためウーブン・シティでは、豊田章男社長が2021年2月の地鎮祭で「地域の皆様と共に、未来に向けた歩みを進めることを約束する」とスピーチ。先行した柏の葉スマートシティでは、地域住民の課題を吸い上げて街づくりに生かす仕組みや、街の取り組みに住民が積極的に参加するための仕組みづくりを進めている。

電力に固執し狭まる視野

 日本では、企業の間で「スマートシティには再生可能エネルギーとスマートグリッドが不可欠」というイメージが強い。日本にもスマートシティを標榜するプロジェクトは多数存在するが、いずれもエネルギー関連の新技術導入ありきで進められている。特に環境関連のインフラビジネスではエネルギー関連事業ばかりが重視され、こうした傾向が日本企業の国際的な競争力をそいでいるという。

 しかし、都市インフラはエネルギー分野だけではない。米コンサルティング会社のブーズ・アレン・ハミルトンの試算によると2005~30年に世界の都市インフラに投じられる資金のうち、エネルギー関連は22%程度だが、水関連ビジネスは50%以上を占める。エネルギー技術はスマートシティの構成要素の1つだが、決してそれだけではないのだ。日本企業はエネルギー分野に固執しすぎ、ほかの商機を見逃しているという。

最後に

 需要と供給のデータを収集・分析して送電量をコントロールするスマートグリッド。電力供給の効率化に加え、EVや再生可能エネルギーの普及にも貢献する次世代型のインフラとして期待を集めている。スマートグリッドの普及、そしてスマートグリッドを利用したスマートシティの登場が私たちの生活やビジネスにどのような変化を及ぼしていくか注目だ。

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