LINEグループの下、急成長を続ける出前館。その背景には、コロナ禍の影響によるデリバリーサービスの需要増がある。しかし、デリバリーサービス市場が拡大する一方、競合他社との競争も激しさを増している。売上高は増えているものの、赤字も膨れ上がる同社のこれまでの動きと今後について考える。

出前館の概要・沿革

 出前館は、1999年に設立された日本の大手デリバリーサービス企業。出前機能や配達網を持たないピザ、弁当、中華、すし、洋食などの店舗の配達を請け負っている。アクティブユーザー(1年以内にサービスを利用したユーザー)数は約392万人で、年間3707万件以上のオーダーを受けている(2020年8月期決算時)という。20年3月には、 LINEと資本・業務提携を締結。LINEグループの下、更なる成長を目指している。

LINE、グループで「出前館」に300億円出資へ

 20年3月、LINEは出前館が実施する第三者割当増資に応じた。同社は既に出前館の発行済み株式の20%を保有しており、出前館を持ち分法適用会社とする筆頭株主だった。それに加え、今回の第三者割当増資に応じたのだ。LINEが150億円を、LINE親会社の韓国ネイバー子会社とLINEが共同出資するファンドが150億円をそれぞれ出資。グループ全体で6割程度の株式を保有して、出前館を実質子会社化することになった。

 フードデリバリー市場は年々拡大している。調査会社のエヌピーディー・ジャパン(東京・港)によると、国内のフードデリバリー市場は19年に4182億円と15年(3564億円)に比べ17.3%伸びている。出前館や米ウーバー・テクロノジーズが展開する「ウーバーイーツ」、楽天の「楽天デリバリー」など主要7サービスでの金額シェアは43%に上ると推計している。トップ3がシェア10%前後で拮抗するが、出前館はその一角と見られる。

「この市場は10倍伸びる」 LINEが出前館に300億円を投じる狙い

 20年6月に出前館の社長となる直前、LINE執行役員 O2OカンパニーCEOだった藤井英雄氏は「フードデリバリー市場は5~10倍に拡大する可能性がある。EC(電子商取引)の中で、今後ここまで伸びしろがある市場は他に見当たらない」と言い切った。

 出前館の決算資料(2019年8月期)によると、米国の大手デリバリー事業者の「グラブハブ」の年間取扱高は約6000億円で、全登録ユーザーに占めるアクティブユーザーの割合は6.2%、韓国デリバリー最大手の「配達の民族」を運営するウーワ・ブラザーズは取扱高5000億円を超え、アクティブユーザーの割合は18.2%に上っていた。一方、出前館は764億円で2.3%といずれも見劣りしていた。

 この差こそが「伸びしろ」というわけだ。日本ではこれまで、出前といえばピザやすしなどは、「晴れの日」など特別な日にしか頼まないという傾向もあったが、その文化を変えて「日常化」を実現すれば、フードデリバリー市場はさらに伸びると見られていた。

LINEが出資も、ウーバーと競わされる「出前館」

 出前館へ追加出資をしたLINEは、ソフトバンクグループ(SBG)系でヤフーを傘下に持つZホールディングス(ZHD)との経営統合を控えていた。そのSBGの投資先の一つが「ウーバーイーツ」だ。ウーバーイーツは昨今、国内でも存在感を高めている。中国の配車サービス大手、滴滴出行(DiDi)も20年4月から大阪で「DiDiフード」を始めている。一方、20年2月末時点の出前館の現預金は約13億円と、競争激化へ備える必要があった。

 一方、出前館の社外取締役でもあるLINEの舛田淳取締役はLINEと出前館の提携会見で「(ZHDと経営統合の準備を進める)現時点ではヤフー側と事業について話せない」と断った上で、「将来的には(ウーバーなどと)協力し合える部分はあるかもしれない」と今後の展開に含みを持たせた。

広がる「置き配」、前代未聞の危機で生まれる新たな外食サービス

 コロナ禍を受け、テークアウトと外食のデリバリーサービス事業の需要は拡大している。デリバリーサービスの出前館では、20年2月に273万件だったオーダー数が、3月は303万件と10%以上伸長。出前館のサービスを使って料理を配達したい飲食店からの問い合わせも、同年3月は2月と比べて4倍前後にまで増えているという。

 ただ、テークアウトでは店舗を訪れる必要はある。ランチタイムなど混雑時は少なからず他人と接触することになる。緊急事態宣言が発令される中で「外に出たくない」という消費者のニーズを完全に満たしているとはいいがたい。外出しなくても済むデリバリーにしても現金や商品の受け渡しなど配達員との接触は避けられない。

 そこで生まれたのが、デリバリーの注文から決済までオンラインで完結でき、商品の引き渡しでも配達員と接触しなくて済む「置き配」だ。公式サイトや自社アプリで事前決済し、配達員と対面をすることなく商品を受け取れる。20年3月以降、ピザハット、マクドナルド、出前館が相次いで導入した。

出前館「飲食店従業員を緊急雇用」の理由

 出前館は20年4月23日、新型コロナウイルスの感染防止対策として休業や営業縮小を余儀なくされている飲食店スタッフを臨時で雇う「緊急雇用シェアプロジェクト」を強化すると発表。出前館は同年4月7日から、宅配すし『銀のさら』を展開するライドオンエクスプレスホールディングスと共同で、同プロジェクトを始めていた。これに加え「ピザ・リトルパーティー」を展開するリトパコーポレーション(京都市)と『マイナビバイト』を展開するマイナビ(東京・千代田)がこのプロジェクトに加わることになった。

 デリバリースタッフとしての臨時雇用で、一時的に収入の確保が難しい外食産業の従事者をサポートするのが狙いだ。緊急事態宣言が全国で発令され、全国民が外出自粛を余儀なくされる中、フードデリバリー需要は急上昇している。

出前館会長「私が配達員を務める理由」

 20年6月、会長に就任した中村利江氏(現在は同社エグゼクティブアドバイザー)は創業時から出前館に関わり、02年、社長に就任。06年に大証ヘラクレス(現ジャスダック)へ上場を果たした後、09年に後進に道を譲り、一線を退いていた。この間、出前館の経営にはほとんどタッチせず、毎月開かれる役員会議に出席するのみだった。

 しかしフタを開けてみたら、出前館の強みが生きるとは思えないお取り寄せサービスの立ち上げなどに傾斜し、同社の柱である出前サービスのメンテナンスがおろそかになっていたという。揚げ句、サーバーダウンを頻繁に起こし、しまいにはそれが原因で、初期から懇意にしていた大手チェーンから契約を切られてしまった。

 中村氏は「おそらく上場して、数億円ではあったものの利益も出るようになっていたことで、浮ついたところがあったのかもしれません」と述べる。そして12年、増収増益から増収減益に転じた際、伸び盛りの市場なのに「これではまずい」と、中村氏は再び社長を務めることとなる。

最後に

 出前館はLINEによる300億円の第三者割当増資を受け、資本業務提携を実施。コロナ禍による外出制限の影響で、20年8月期の売上高は103億600万円(前期比54.6%増)と好調だ。一方、積極的な投資もあって営業利益は前期3900万円の赤字から26億2300万円の赤字となっている。その後も、売上高を伸ばしているが、赤字幅も急拡大している。拡大するデリバリーサービス市場の中でどのような展開を見せるのか。

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