観光地やリゾート地で、仕事と休暇を同時に行うワーケーション。会社やその従業員、ワーケーション先の地域、そして観光業界など、さまざまな関係者にメリットをもたらす制度として期待されている。過去に掲載した記事から、ワーケーションの実践事例などを紹介する。

そもそも「ワーケーション」とは?

 「ワーケーション」とは、「work(仕事)」と「vacation(休暇)」を組み合わせた造語だ。オフィスとは別の場所、例えば観光地やリゾート地などで仕事と休暇を両立させることを意味している。

 ワーケーションではテレワークを活用し、旅先で普段と同じ仕事ができる。そこで働く本人にとっては生活習慣の改善や気分転換、企業にとっては社員の休暇取得促進、そして観光地などの受け入れ先にとっては経済活性化などのメリットがあり、新型コロナウイルスの感染抑止を目的とした「密の回避」にも役立つと期待されている。

 ここではこれまで掲載された記事を通して、ワーケーションに向けた企業や個人の取り組みを紹介していく。

ワーケーションは仕事と休暇を同時に実現?

 ワーケーションは地域の発展にも貢献するとして「新しい旅行や働き方のスタイルとして政府としても普及に取り組んでいきたい」と語った菅義偉官房長官(当時)。NTTデータ経営研究所、JTB、日本航空(JAL)などによる実証実験を通して、ワーケーションには

  • 仕事とプライベートの切り分けが促進された
  • 情動的な組織への所属意識が向上した
  • 仕事のパフォーマンスが20%程度向上し、終了後も持続した
  • 心身のストレス反応が参加前よりも37%程度低減した

 といった結果が得られたという。一方で、会社による労働時間の管理や、仕事とプライベートの線引きが難しく長時間労働になりやすいこと、旅費などの負担増加、Wi-Fiなど施設側の環境整備コストなど、解決すべき課題も少なくない。

変わる働き方 「ワーケーション」が問う「労働」の意味

 ワーケーションという言葉は、2020年7月下旬、菅官房長官(当時)の記者会見での発言もあって一気に注目を集め始めたが、すでにワーケーションの概念を実践している企業もある。例えば“四半期俸”制を導入して社員の多様な働き方を受け入れる「ガイアックス」や、鹿児島県徳之島町などと連携してワーケーションを実施しているJALなどはその一例だ。

 ワーケーション需要を見据えた動きもある。三菱地所は和歌山県白浜町と連携してワーケーション対応のオフィスを開業しており、キャンプ場を運営するRecamp(東京・目黒)はワーケーションができるキャンプ施設を運営している。

 そんな中、これまでの日本型雇用の労働観に縛られずに、自分らしい生き方を実現するために新たな働き方に挑戦する人が確実に増えている。テレワークなどの環境をフル活用し、多様な働き方を実現する個人に目を向けてみよう。

「ナスコンバレー」が始動、ワーケーション誘致に名乗り

 『ナスコンバレー構想』というネーミングで、企業の経営者や従業員向けのワーケーションサービスを提供するデジタルシフト(東京・千代田)。駐車場事業を手掛ける日本駐車場開発グループと手を組み、同グループが那須に持つ5000区画の別荘地、計500人以上を収容できるコテージなどを活用するという内容だ。

 同社がワーケーションサービスの開始に踏み切ったのは、新型コロナウイルスの感染拡大を機に働き方の多様化が進むとにらんだためだ。不動産・住宅情報サイトのLIFULLや人材関連事業を手掛けるネオキャリア(東京・新宿)など、ナスコンバレー構想に賛同する企業も出てきている。

ワーケーション需要を取り込めるか? 尾道で見たJR西日本の模索

 スタートアップ企業と協業し、ワーケーションサービスを開始したJR西日本。瀬戸内海を臨む尾道にコワーキングスペースを運営し、西日本エリアに入ってくる「関係人口」を増やすことで「移動の需要」を増加させるのが狙いだ。

 JR西日本と提携するのは、全国にある120以上(21年1月現在)の「家」を自由に利用できるサブスクリプションサービスを提供するアドレス(東京・千代田)だ。日常生活の一部を自宅以外で過ごす2拠点居住という新たなライフスタイルを提案している。東日本を拠点とする同社にとって、このワーケーションサービスは関西方面に事業を拡大するチャンスだという。同社は「北陸地方にもニーズがありそうだ」とみている。

旅行・宿泊の支え役となるワーケーション効果とは

 新型コロナの影響で苦境にあえぐ観光業界にとって、ワーケーションは数少ない希望の一つだ。

 政府が進める「Go To トラベル」には「休日に利用が偏る」「宿泊施設の平日の稼働率が低い」などの課題がある。また、いずれ事業期間は終了してしまう。しかしワーケーションなら「息の長いプラス効果」が期待できるというわけだ。

 副業解禁の流れもあって、ワーケーション実施に向けた環境整備を進める企業も増えつつある。東急不動産はその一社。沖縄県の「ハイアット」ブランドのホテルをはじめ、同社のグループ会社が運営する宿泊施設などで、希望者にワーケーションに取り組んでもらう。観光の新市場として期待の高まるワーケーション。21年が普及元年となるだろうか。

日本人には無理? 観光産業の支え役「ワーケーション」普及の可能性

 観光業界に息の長いプラス効果を与えると期待されるワーケーションだが、「有休一つ取得するにも強い罪悪感を持つ人が多い」日本人にとって、リゾートで仕事をするワーケーションは「不謹慎」と捉えられる可能性が高く、どこまで普及するか疑問視する声もある。

 また、子供の教育問題も普及の障害となる。小学生以上の子を持つ家庭の場合、長期休暇中以外は学校を休ませないといけないからだ。

 とはいえ新型コロナという異常事態の中でテレワークが急速に普及したように、今後ワーケーションが普及していく可能性も決して少なくない。教育面の課題についてもアイデアが徐々に出始めている。また、創業から間もない先進企業や、若い世代の中には「仕事×旅行」という新しい働き方のモデルを受け入れる動きも目立つ。

最後に

 企業とその従業員、そして地方や観光業界にとって、さまざまなメリットが期待されるワーケーション。菅官房長官(当時)の記者会見によって注目を集めた新しい概念だが、すでにいくつもの企業が取り組みを始めている。

 日本人の気質によるマイナス要素、新型コロナの感染拡大を避けるというプラス要素など、さまざまな事情を背景にワーケーションがどう発展していくか今後も注目していきたい。

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