ライフネット生命は2006年、戦後初の独立系生命保険会社として設立され、08年に営業を開始したネット専業の生保だ。その概要や沿革を紹介するとともに、創業メンバーとして活躍してきた出口治明氏(現、立命館アジア太平洋大学学長)の経営に関する理念や日本への思いについて、過去の講演記録を中心に紹介する。

ライフネット生命の概要・沿革

 ライフネット生命保険の設立に携わったのは、日本生命保険出身の出口治明氏とコンサルティング会社出身の岩瀬大輔氏らだ。出口氏はライフネット生命保険の創立時に代表取締役社長となった。なおライフネット生命は、15年4月に、KDDIと資本・業務提携を締結し、同社を引受先とする第三者割当増資を実施している。

人間は「見たいものしか見ない」習性を持つ動物

 出口氏はライフネット生命保険の会長だった16年に、慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応義塾大学ビジネス・スクール)で講演。「より良い経営計画を立てるためには、世界の現状を、いかに的確に把握するかが重要だ」と指摘した。一方で、人間は「見たいものしか見ない」「見たいように世界を変換してしまう」習性があるとした。このような脳のクセを考えると、世界の現状をきちんと見るためには、方法論が必要だという。その一つが「タテ・ヨコ思考」だ。

ダイバーシティーこそが競争力を生む

 慶応義塾大学ビジネス・スクールの講演で出口氏は、日本の課題となっている競争力向上についても熱弁を振るっている。スイスの調査研究機関でビジネススクールである国際経営開発研究所(IMD)が16年に発表した世界競争力ランキングによれば、日本の国際競争力は世界で26位。これでは、どんどん貧しくなるばかりだという。

 この順位を上げるには、明日も今日と同じ仕事をやっていてはダメ。では、どうやれば今までと違う仕事のやり方、人と違う考え方が生み出せるのか。イノベーションの多くはどこにでもあるものの「組み合わせ」から生まれる。ただし、新たな組み合わせを思いつくには幅広い知識、知恵、知見が必要であり、ダイバーシティーを実現してこそ、組織に様々な情報が集まるとした。

リーダーは自分に苦言を呈する人物を重用すべし

 出口氏はこの講演で、リーダーシップについても言及している。同氏によると、リーダーに必要な条件は3つ。第1は「やりたいことがはっきりしていること」。第2は「共感力」。そして第3は「コミュニケーション力」だという。リーダーとして上に立つには、この3つの条件があれば十分だと強調する。確かに、やりたいことが明確であれば、旗を揚げることができる。共感力が備わっていれば、仲間を集めることができる。そして、コミュニケーション力があれば、みんなを最後まで引っ張っていくことができる。

 さらに「人をうまく率いるコツ」「リーダーが持つべき心がけ」についても語った。中でも心がけについては、「自分のことをボロクソに言う人を近くに置いておく」のが一番重要であり、一番難しいことだとした。

経営者に最も必要なのは「honest」であること

 講演のあと、受講生との間で活発な質疑応答が繰り広げられた。心が弱ったときの対処方法、リーダーの資質のない上司との付き合い方といった身近な問題から、国や政治のあり方を変えるための行動まで、多種多様な質問が飛び交った。そのとき出口氏が述べたキーワードは「honest(正直)」だ。経営者は何よりもhonestであることが重要だと考えていると、同氏は強調した。

「いかに仕事をしないか」を楽しもう

 出口氏は、17年「ヒューマンキャピタル 2017」で講演。60歳でライフネット生命保険をスタートさせ、ネットで保険を契約する市場を切り開いた出口治明氏が、仕事と人生の関係、働き方改革や「人と企業の育て方」について語った。「残業が減らない」という日本の働き手が抱える課題について同氏は「たいていの上司は、時間をかければいい仕事ができる、部下はいくらでもいるのでどんどん仕事を振っていったらいい、と考えているからだ」と述べる。これは「時間も経営資源も無限にあるという幻想」に基づいているためで、このような「無限大」思考の相手には、「『無・減・代』で対抗しなさい」とアドバイスした。

クールな現状認識ができないことが、日本経済の衰退の原因

 18年に立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任した出口氏。同氏は、日本人はデータを基に冷静に現状を認識し、働き方を改めるべきだと説く。世界のGDP(国内総生産)に占める日本のシェアを購買力平価で見ると1991年がピークで9%だったが、最近は4%程度と半分以下に減っている。また、スイスのIMDの国際競争力ランキング「世界競争力年鑑2019」では、1992年まで1位だった日本が30位になっている。89年には、時価総額で世界トップ20社のうち14社を日本企業が占めていたが、今はゼロだ。こうした状況を説明しつつ出口氏は「どう見てもまずいと思いませんか?」と問いかける。

出口治明氏が薦める5冊 打つ手に困った今こそ本の力を借りよう

 どんなに忙しくても読書を欠かさない出口氏に、中小企業経営者が読むべき書籍を「中小企業経営者向け」「古典を中心」という条件で選んでもらった。1冊目は原田種成著の『貞観政要』だ。唐の2代皇帝、太宗・李世民と臣下との言行録が主な内容となっている。上下巻でかなりのボリュームだが、現代語訳があり、1つの話も短いので読みやすい。1日に1話を読むだけでも十分。中間管理職へのリーダー教育の教材にも適している。

 2冊目が、ルネ・デカルト著の『方法序説』。文庫で本文は100ページ程度と短い。「明証」「分析」「総合」「吟味」という4つの認識方法を、社長と幹部が意思決定の際に用いるだけで、経営判断の精度は大きく変わると言う。3冊目は入山章栄著の『世界標準の経営理論』だ。800ページを超える書籍だが、無理に読破しようとせず、百科事典のように使う。「イノベーション」「ガバナンス」など、経営上の課題と経営理論の対応表を参照し、必要なところだけ読めば、効率的に課題解決に役立てられる。

 4冊目は斎藤美奈子著の『中古典のすすめ』。小説・エッセー・ノンフィクションなど多彩なジャンルから「古典未満の中途半端に古いベストセラー」48冊を紹介。雑談に使える知識を効率よく得られる。最後は瀬地山 角著、『炎上CMでよみとくジェンダー論』だ。避けて通れないジェンダー問題の実用書として使える。ハラスメントにもつながるこのテーマを、実際に放映され「炎上」した有名なテレビCMを使って解説したものだ。

ライフネット生命保険社長、顧客体験を「進化」させる

 ライフネット生命の森亮介社長は2019年のインタビューで、顧客体験の部分がなおざりになっていたことが原因で、13年ごろから新規契約の伸び悩みに直面していた、と語った。ウェブサイトの操作性や、スマホ対応の遅れなど、技術面でも問題があった。商品の分かりやすさ、安さを伝える努力も不足し、顧客の満足度を高められていなかった。そこで、同社は16年度以降、営業チャネルの多角化やデジタル対応に注力。KDDI(au)ユーザーへの保険販売はその代表例だ。結果、18年度決算では過去最高の新規契約件数を獲得することになった。

最後に

 出口氏の経営に対する考え方や日本への思いは、一企業の経営者の枠を超えた深いものを感じさせる。一方、出口氏や岩瀬氏らのライフネット生命創業メンバーから34歳の若さでバトンを受け継ぎ、社長に就任した森氏。戦後初めての独立系生命保険会社として登場した同社をどう牽引していくのだろうか。

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