2050年までに「カーボンニュートラル」を目指すことを表明した日本政府。同様の動きは欧米を中心に世界中で注目されており、特に民間企業レベルでは、温暖化ガスの排出抑制に向けた新事業の開発や方向転換がすでに始まっている。ここでは最近掲載されたトピックから、先進的な議論や取り組みについて振り返る。

官民による取り組みが進む「カーボンニュートラル」とは

 人間の活動で発生するCO2(二酸化炭素)の量が、プラスマイナスゼロになるようコントロールする「カーボンニュートラル」。温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を抑えることで、将来にわたって地球環境の保全に努める国際的な取り組みのひとつだ。

 EUや米国、英国、中国など主要国が次々とカーボンニュートラルを目指す中、日本も「2050年までに、温暖化ガスの排出を全体としてゼロにする」ことを表明。官民を挙げた取り組みが本格化しようとしている。

 今回の記事では特に産業界の動きに目を向けて、カーボンニュートラルをめぐる日本国内の議論や、カーボンニュートラル実現に向けた事業展開を行う国内外の企業事例を過去記事から紹介していく。

政府が脱炭素社会へ工程表、避けられぬ原発の行方とは

 政府が提唱する「グリーン成長戦略」をめぐり、原子力発電所をめぐる議論が注目されている。「原子力は確立した脱炭素技術である」というのが政府の立場で、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにするため原子力発電所の活用をさらに進めていきたい考えだ。

 政府が注目するのは次世代型の「小型モジュール炉(SMR)」。何千人もの作業員が現場で建設にあたる従来型の原子炉と比べ、工場で生産できる部分が多いため「コストを抑えられる」のが大きな特徴だ。小型なぶん炉心を冷却しやすく、安全性にも優れるという。

 しかし次世代型の小型原子炉に対しては「国際的に規制の方向性が定まってない」との指摘があり、国内外で「原発そのものへの信頼も回復されていない」のが現状だ。

CO2再利用のカーボンリサイクル? 環境対策の「お荷物」が資源に

 一方で、発電所や工場などから排出されるCO2を回収し、燃料や化学品などに再利用する「カーボンリサイクル」も注目を集めている。政府は2019年2月にカーボンリサイクル室を設置し、約350億円の予算を計上。この分野の研究開発を積極的に後押ししてきた。

 その一大実験場となっているのが、中国電力とJパワーが折半出資する大崎クールジェンの石炭火力試験発電所だ。「実現すれば従来の石炭火力発電に比べてCO2を9割削減できる」とされ、2022年度以降の商用化に向けて期待がかけられている。

旭化成や三菱ケミが本腰、CO2資源化の潮目は変わるか

 三菱ケミカル、住友化学、旭化成といった大手化学メーカーも、CO2の資源化に前向きだ。例えば旭化成は、CO2を原料に「ポリカーボネート」(高機能プラスチックの一種)を製造する技術を開発し、世界に先駆けて商業化に成功した。

 これまで化石燃料に大きく依存してきた化学業界だけに、こうした取り組みは「2050年カーボンニュートラル」に向けて、投資家などへの大きなアピールチャンスにもなっている。

三菱重工が3000億円目指す脱炭素、レッドオーシャンの兆し

 三菱重工業の子会社、三菱重工エンジニアリングでは「二酸化炭素(CO2)の回収装置」に力を入れている。すでに「米国で世界最大のCO2回収プラントを建設するなど、排ガスからのCO2回収では世界トップシェアだ」という。

 とはいえ同種の取り組みには川崎重工業や独シーメンス・エナジーといった国内外の企業も続々と参入し、すでにレッドオーシャンの兆しが見えつつある。現在はまだ規模の小さい脱炭素ビジネスが、利益を生み出す事業に育つかどうかも未知数だ。

スズキ・鈴木修会長が語る大変革、「軽」の電動化

 自動車業界も、カーボンニュートラルの動きに影響を受けている。特に注目されているのは「2030年代半ばにガソリンだけで動く自動車の販売をなくす」という政府の方針だ。

 スズキの鈴木修会長は「国家の方針に従い、1%でも脱炭素を進める」と語るものの、「電池を載せるスペースが乏しい」軽自動車を主力とする同社にとって電動化の壁は高い。それでも同社では、他社の電動化技術の協力を仰ぎつつ、ハイブリッドの比率を高めるなどして電動化を進めていくという。

ホンダ、F1「完全撤退」は必然か

 一方ホンダは、自動車レースの「フォーミュラ・ワン(F1)」からの撤退を表明した。同社は1964年からF1への参入と撤退を繰り返してきたが、今回は「再参戦は考えていない」という。

 ホンダにとってF1は「走る実験室」という位置付けだった。今後はF1エンジン開発に割いていた経営資源をEVやFCV(燃料電池車)などの研究開発領域に集中させ、2050年までの「カーボンニュートラル」を目指す考えだ。

中国「排出量実質ゼロ」の現実味

 海外でも官民を挙げたカーボンニュートラルの取り組みが行われている。そのひとつが中国だ。

 2020年9月の国連総会で、「2030年までにCO2排出量を減少に転じさせ60年までに実質ゼロにする」との目標を掲げた習近平(シー・ジンピン)国家主席。この目標を達成するには技術面はもちろん、自然保全面での取り組みも欠かせないが、同氏は具体的な取り組みについては言及しなかった。

 世界のCO2排出量の27%を占める中国にとって、2060年までの目標達成は容易ではない。一方で、達成されれば今後の地球温暖化予測にも大きな影響を与えるだけに、今後の取り組みに世界の注目が集まっている。

ダイムラーが燃料電池トラック量産、「水素大国ドイツ」へ官民攻勢

 官民を挙げて先進的な取り組みを進めているのはドイツだ。ドイツ政府は2020年6月に「国家水素戦略」を閣議決定し、約90億ユーロの予算を確保して、化石燃料に代わる「水素」燃料の利用拡大に力を入れる。

 民間企業の姿勢も同じだ。ドイツを代表する自動車メーカーのひとつ、ダイムラーの関連会社・ダイムラー・トラックは、2020年9月にFCVの大型トラックを発表。その子会社のダイムラー・トラック・フューエルセルも燃料電池システムの量産に向けた開発に取り組んでいるという。

最後に

 政府が提唱した「2050年カーボンニュートラル」に向けて、官民を挙げた取り組みが進む日本。海外でも、国家レベル・民間レベルで研究開発が行われている。

 こうした取り組みは、地球規模の気候変動に大きな影響を与えると期待されている。引き続き、カーボンニュートラルの世界規模での拡大や今後の技術開発に注目していきたい。

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