IoTなどの技術を工場に取り入れ、製造業の活性化を目指す「インダストリー4.0」。ドイツが国家を上げて取り組む「第4次産業革命」の試みは、ドイツ国内はもちろん日本などの製造業にも取り入れられている。今回はインダストリー4.0にまつわるさまざまな事例を過去記事から振り返っていく。
ドイツが国家ぐるみで取り組む「インダストリー4.0」

インダストリー4.0とは「第4次産業革命」を目指してドイツ政府が進める国家プロジェクトのこと。インダストリー4.0では「スマートファクトリー」(考える工場)を主要なコンセプトとし、IoTなどの技術で製造業における製造プロセスをより円滑にすることや、既存のバリューチェーンの変革や新たなビジネスモデルの構築を目標としている。
インダストリー4.0が提唱された背景には、経済の柱である製造業を活性化させたいドイツの思惑がある。ドイツはこれまで欧州最大のモノづくり国として発展してきたが、ヨーロッパ市場の停滞や他国(特に日本や米国)との競争により国内の製造業は伸び悩んでいる。この状況を打破するのがIoTによる「標準化」で、これによりドイツ国内の製造業は互いに連携して国全体でレベルアップを図ることができるという。
この記事ではインダストリー4.0の特徴や経緯、今後の展望、そしてスマートファクトリーの実現に取り組む企業事例まで、過去記事から紹介していく。
インダストリー4.0とは何か?
ドイツ連邦政府や州政府、産業界、学界まで一体となって取り組むインダストリー4.0の内容は、生産工程の大規模なデジタル化・自動化・バーチャル化により、コストの極小化を目指すことだ。
インダストリー4.0の立役者は「ドイツ技術科学アカデミー(通称アカテック・Achatech)」の会長を務めるヘンニヒ・カガーマン氏。ドイツのIT関連企業SAPの元社長としても知られる同氏は、「ドイツ版ビル・ゲイツ」とも言うべき頭脳の持ち主だという。
過去の失敗から生まれた「インダストリー4.0」
ドイツの総合テクノロジー企業、シーメンスは90年代から通信・ネットワーク関連の事業を手がけていたという。しかしその後に事業を売却してしまい、結果としてインターネットの分野で米企業の独走を許してしまうことになったという。
この失敗から「インターネットの次なるチャンス」として生まれたのが、インダストリー4.0だ。これは一企業や短期間だけの試みではなく、ドイツ国内の産業・学術機関を巻き込み、10年先、20年先の将来に向けた取り組みとして進められている。
インダストリー4.0は数年で終わる
一方で、産業界には「インダストリー4.0はあと2~3年で終わる」と話す専門家もいる(2015年当時)。「インダストリー4.0は世界で起こっている変化のごく一部にすぎない」というのがその理由だ。例えば運輸業や金融業といった業界もデジタル化による変化が予想されているが、インダストリー4.0ではこれらの業界がカバーされていないという。
独SAPが克服した革新のジレンマ
インダストリー4.0に取り組む象徴的な企業のひとつがドイツのIT関連企業SAPだ。同社は製造業の各現場業務をつなぐソフトウエア開発で実績を積み重ねており、シーメンスやボッシュなどと連携して世界標準の策定にも力を入れている。
アディダスに見る生産回帰の不都合な形
ドイツのスポーツ用品メーカー、アディダスもインダストリー4.0の象徴となる取り組みを始めている。同社では1980年代からアジアに生産拠点を移してきたが、アジアでの労働コスト上昇や政治・税法上のリスクの高まりなどを受けて、今後は「ドイツの自動化工場でのシューズ生産」を拡大していくという。
コンチネンタル流4.0 協調型ロボが変える工場
自動車部品メーカーのコンチネンタルも同様の取り組みを進めている。同社が特に力を入れるのは、「協調型ロボット」の導入により、状況に応じて作業の内容を柔軟に変えられる生産体制の構築だ。
現在(2015年時点)ではレーゲンスブルグ工場での試験的な取り組みだが、将来的には得られたデータをもとに、日本を含む他の工場にも展開する予定だという。
「コマツの殻」を突き破る
日本企業の中にもインダストリー4.0のコンセプトを取り入れているところがある。そのひとつが重機メーカーのコマツだ。
同社では2015年より「スマートコンストラクション」と呼ぶサービスを提供している。その内容は「ドローンによる測量から施工計画の通りに動くICT建機、工程の進捗管理システムまで」を一体化させたもの。コマツの新しいサービスは、現場から「経験の乏しい20代、30代でも一人前に工事ができるし、人手不足も解消できる」と高い評価を受けているという。
最後に
インターネット技術による第4次産業革命の実現に向け、ドイツの国家プロジェクトとして進められるインダストリー4.0。SAPやシーメンス、アディダスといったドイツを代表する企業はもちろん、日本の製造業でもこのコンセプトを取り入れる企業が現れている。この取り組みがこれからの世界標準として広がるのか、それともインダストリー4.0を超える新たな取り組みが誕生してくるのか、今後も目が離せない。
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