非常時や緊急時に、企業が事業を継続するための方法・手段を取り決めておく事業継続計画(BCP)。日本では2011年の東日本大震災をきっかけに多くの企業がBCPへの取り組みを進めている。この記事ではBCPに取り組む企業やBCPを支援する動きについて過去記事からピックアップする。
非常時にも平時にも役立つ

BCPとは、非常時や緊急時に企業が事業を継続するための方法、手段などを決めた計画のこと。「非常時や緊急時」には、自然災害や大火災、テロ攻撃などが該当する。日本では東日本大震災を機に注目を集めた。
BCPの策定・運用は以下のサイクルで実施される(中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」より)。
- 優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する
- 緊急時における中核事業の目標復旧時間を定めておく
- 緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客とあらかじめ協議しておく
- 事業拠点や生産設備、仕入れ品調達などの代替策を用意しておく
- 全ての従業員と事業継続についてコニュニケーションを図っておく
企業はBCPの基本方針の立案と運用体制を確立し、上記のサイクルに沿って準備をすることで緊急事態に備えられる。BCPを準備することは「顧客の信用」や「市場関係者からの高い評価」につながり、株主にとってメリットとなる企業価値の維持・向上にも役立つ。
この記事ではBCPの策定に力を入れる企業の事例を過去記事から振り返っていく。
IT事業は不況にも強い
大手ITの富士通はBCPに力を入れている。同社の山本正已社長(当時・現在は取締役シニアアドバイザー)は、「東日本大震災前から取り組んでいたが、(震災により)BCPの必要性をより強く感じた」と話す。
富士通は、被災した福島のパソコン工場の機能を島根工場に移転した。今後は3日間程度の短期間のうちに、機能移管ができるようにしたいという。
「ヒト」も誘致する福岡市
BCPの一環として、本社機能の一部を福岡市に移転したのはマスミューチュアル生命保険(現ニッセイ・ウェルス生命保険)だ。自然災害が多い日本の中でも、福岡市を含む地域は、比較的自然災害が少ないとされる。現地採用による人材確保のしやすさ、自治体のサポート体制なども移転を決めるポイントになった。
不測の天災に備えるBCPは、経営の要諦です
ダスキンムサシノなどを運営する武蔵野(東京都小金井市)。小山昇社長は、「不測の天災に備えるBCPは経営の要諦」と語る。
武蔵野が取り組んでいるのは「現金の備蓄」だ。とある金融機関の地下金庫に数千万円の現金を置き、天災などでオンラインインフラが切断されても直接持ち出せるようにしているという。災害発生時に備蓄分から当座の生活費などを支給できるようにして、「社員の生活を守る」という。
震災が変えた日本経済
BCPの重要性が認識されるようになったのは11年の東日本大震災がきっかけだ。
神戸製鋼所で1995年1月の阪神・淡路大震災の教訓からBCPの整備と実践を検討してきたが、「実態としてはあまり進まなかった」。投資に見合う採算が期待できないことや、取引先を含めた体制づくりが困難だったことが原因だという。
変身なるか苦境の巨人
BCP策定に取り組む企業を支援しているのが、JTBだ。本社機能を首都圏から関西に移す企業向けに、宿泊先と貸し切りバスを手配するサービスなどを展開している。
高橋広行社長(現会長)は、「旅行業界はレッドオーシャンだが、社会にソリューションを提供する分野はパイが無限」と語り、新たなニーズの高まりに期待を寄せる。
在宅だけでは組織は動かず、GMOインターネット社長
新型コロナウイルス禍でBCPが効果を発揮している事例もある。GMOインターネットは東日本大震災をきっかけに本格的にBCPを作成し、在宅勤務の訓練も毎年実施。コロナ発生後いち早く在宅勤務に移行できたのは、このBCPの成果だ。
トヨタ、半導体不足で発揮した抵抗力。震災10年 供給網寸断の教訓
トヨタ自動車は東日本大震災の教訓から、「発注してから納品までのリードタイムが長い半導体は、いざというときに備えて十分な在庫を確保しておく必要がある」と考え、備えを進めてきた。
半導体不足で多くの自動車メーカーが減産を強いられる中、トヨタは「半導体不足による生産への影響は大きくない」という。
最後に
東日本大震災をきっかけに、多くの企業がBCPの重要性を認識した。自然災害をはじめとする緊急事態はいつ発生するか分からない。より多くの企業がBCPに積極的に取り組んでくれることを期待したい。
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