2023年1月26日、トヨタ自動車は佐藤恒治執行役員(53)が社長に昇格し、豊田章男社長は代表権を持つ会長に就くと発表した。経営環境が激変する中、約13年の社長在任期間に、トヨタを名実ともに「世界一」の自動車メーカーに育て上げた豊田氏。「日本で最も重要な企業」を率いる経営者としての豊田氏を、日経ビジネスは一貫して追い続けてきた。過去記事からその足跡を振り返っていく。

社長就任後に待ち受けていた「最大の危機」

13日、「東京オートサロン」で登壇した豊田章男社長(写真:共同通信)
13日、「東京オートサロン」で登壇した豊田章男社長(写真:共同通信)

 2009年1月、トヨタ自動車は豊田章男副社長(当時)が社長に就任する人事を発表した。前年に米リーマン・ブラザーズが破綻。世界的な金融危機の中で、自動車メーカーは軒並み減産を強いられた。トヨタも09年3月期決算で4369億円の連結最終赤字に転落した厳しい状況で、豊田氏は経営のバトンを受け継ぐことになった。

 その前は、奥田碩氏、張富士男氏、渡辺捷昭氏と創業家以外の社長が3代続いていた。09年1月26日号「“大政奉還”、両刃の剣にも」では、「トヨタに強力なリーダーシップが必要になっている」と、創業家出身者が経営トップに就いた理由の一つを指摘している。

 09年6月、トヨタの社長に就任した豊田氏を、最大の危機が待ち受けていた。米国における大規模リコール問題で対応の遅さなどへの批判が集まり、欧米メディアから「総バッシング」とも言える状況に追い込まれたのだ。

 豊田社長は米国議会の公聴会に出席。公聴会の後、販売店や工場関係者が集まり励ますと、思わず男泣きした。「自分がひとりぼっちで公聴会に出ているという感覚だった。そう思っていたら実はみんなに支えられていた。そう分かった瞬間、緊張の糸が切れた」(豊田氏)。公聴会後に、米有名テレビ番組の生放送で出演し語ったことで「トヨタの社長はクルマ好きと思ってもらえた」(同)と振り返る。その後、社長として東日本大震災、新型コロナウイルス対応など危機対応を続けることになる豊田氏。社長としての「原体験」だったのかもしれない。(10年2月8日号「豊田章男社長、最大の危機」など)

六重苦でも国内生産維持

 11年、東日本大震災が発生。タイ大洪水、円高など「六重苦」と呼ばれる状況に、日本の自動車産業は陥った。東日本大震災でサプライチェーン(供給網)が寸断される中で、その再建にあたった社員たちを当時豊田社長は「現場でリーダーシップを執ったヒーロー」とたたえた。この時期に注目が集まったのが、「日本のモノづくりを守れるか」という視点だった。豊田社長が「理屈上は日本でのモノづくりは成り立たない」とまで述べる厳しい状況の中、トヨタは宮城県内にエンジン工場新設を決断するなど国内生産の維持に注力した。(11年7月25日号、「六重苦」に負けない経営、など)

「モリゾウ」としてレースにも参戦

 「モリゾウ」という名前でレースに参戦する豊田社長。「クルマ好き」「レース好き」の一面が紹介されたのが、10年9月20日号「“走り”に賭けるトヨタ社長」。1円単位の地道なコスト削減に励む一方で、クルマの本質的価値である「走り」にこだわっていることを伝えた。その後「もっといいクルマづくり」を全社員に繰り返し訴えかけていく豊田社長。そのモノづくりの哲学は首尾一貫していると言えそうだ。

 13年に過去最高益、年間販売1000万台を超えたトヨタ。その局面で、豊田社長が日経ビジネスの単独インタビューに答えた。「次の次の次」の世代まで考える中で目指すトヨタ像とは。持続的に成長を続ける「年輪経営」の中で、「太陽となり、土となる」と自身の経営者としての役割を表現した。

 現地現物。製造現場にこそ、トヨタの本質がある。その豊田社長の哲学が、15年に行った役員人事に如実に表れている。生涯現場一筋だった河合満氏を専務役員に昇格。同時に外国人や女性も登用し、多様化を進めた。

 本誌電子版の名物連載、「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に登場した豊田社長。「モリゾウ」としてドライバーとしても参戦するレースへの情熱から経営哲学まで、縦横無尽に語った。

自動車業界の盟主に

社長に昇格する佐藤恒治執行役員(左)とレクサスに試乗する豊田章男社長(写真:共同通信)
社長に昇格する佐藤恒治執行役員(左)とレクサスに試乗する豊田章男社長(写真:共同通信)

 豊田社長の在任期間中、トヨタの存在感は着実に高まっていく。17年にマツダ、19年にスズキと資本提携した。すでにトヨタはダイハツ工業、SUBARU(スバル)とも資本業務提携している。自動車業界の枠組みが変わる中で、その台風の目とも言える中心的存在となっている。

 20年3月、トヨタは副社長職を廃止した。豊田社長の下に置く全執行役員を同列にし、「チーフオフィサー」や「カンパニープレジデント」といった担当に振り分けた。佐藤恒治次期社長に「チームで経営してほしい」と伝えた豊田社長。この頃から、新たな体制への準備を始めていたのかもしれない。

 18年、日本自動車工業会(自工会)会長に就いた豊田社長。業界の「顔」としての発信が目立つようになる。「このままでは、最大で100万人の雇用と、15兆円もの貿易黒字が失われることになりかねない」──。21年3月11日には、そんなショッキングな試算を発表し。再生エネルギー政策に関して、政府に真正面から危機感を訴えかけた。

 世界で急速に進む「EV(電気自動車)シフト」。トヨタは21年12月、サプライズ演出を交えて豊田社長自ら、30年にEVを世界で350万台販売する目標を発表している。

 トヨタ自動車は23年1月26日、4月1日付で佐藤恒治執行役員(53)が社長に昇格すると発表した。豊田章男社長(66)は代表権のある会長に就く。現会長の内山田竹志氏は同日付で退任する。業界関係者からは突然のトップ交代発表に驚きの声が上がった。

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