日本が誇るカメラメーカーの一つ、ニコン。1917年の創業以来、光学技術の先駆者として道を切り開いてきた。双眼鏡や望遠鏡、顕微鏡、測定器、高額素材、ソフトウェアなど光学関連装置の大手メーカーとして国内外でシェアを広げ、特にデジタル一眼レフカメラでは圧倒的人気を誇ってきた。しかし近年、スマホで写真を撮ることが当たり前になったことから、デジカメの存在意義が問われている。

ニコンの沿革、概要

 ニコンは1917年、日本光学工業として設立された。大正時代初期、光学製品のほとんどを輸入に頼っていたが、第1次世界大戦によりその輸入が途絶し、光学機械の生産が急務となった。そこで官民の要望を担って設立されたのが同社だ。

 その後第2次世界大戦の終結に伴い、双眼鏡、カメラ、測量機、顕微鏡、測定機、メガネレンズ等の民生用光学機器の生産に事業を転換した。1959年、ニコンで初めての一眼レフカメラ「ニコンF」を発売。このときに設計されたレンズマウント「ニコンFマウント」は現在でもニコンの一眼レフカメラに採用されている。

 1999年にはニコンデジタル一眼レフカメラ「D1」を発売。総合画質性能を備えたレンズ交換式一眼レフタイプのデジタルカメラは、現在のデジタル一眼レフカメラ普及の先駆けとなった。1988年に社名(商号)を「日本光学工業」から「ニコン」に変更。消費者向けの製品から、産業分野の製品まで幅広い光学機器の製造、販売をしている。

2強を脅かすミラーレス高級化

 デジカメ市場で一眼レフカメラの位置付けが揺れている。「小型で安価」が売りだったミラーレス機の単価が上昇、一眼レフを超える機種も珍しくなくなった。欧米ではミラーレスの単価が既に一眼レフを上回る。2013年11月にソニーが投入した「α7」シリーズは従来一眼レフ機の専売特許だったフルサイズと呼ばれる大型画像センサーを搭載した。一眼レフ市場で長らく2強を形成してきたキヤノンとニコンは、既存製品との共食いを避けるためしばらくは様子見せざるを得なかった。

 一方で、富士フイルムは2017年商業撮影に適したミラーレス機「GFX 50S」を投入。同機種はフルサイズを上回る中判サイズのセンサーを持ち、広告やファッション雑誌での利用を想定した。ただし、ミラーレスの未来も明るいとは言い難い。

 スマホで写真を撮ることが当たり前となった現在、デジカメという商品そのものの存在意義が問われ、デジカメ市場全体の縮小は止まっていない。スマホでは代替できない価値を提供できなければ、ミラーレスのシェア争いは“最後”の消耗戦となる。

ニコン、不明瞭な次の“焦点”

 一眼レフにこだわり続けてきたニコンが、2018年、高級ミラーレスカメラの「Z」シリーズを発表した。新商品は「フルサイズ」と呼ばれる大型の画像センサーを搭載し、ユーザーのレンズ資産をミラーレスでも使える仕組みを整えた。背中を押したのは、急速に進むカメラ市場の構造変化だ。2017年には一眼レフの世界での出荷台数は前年比1割減だったが、ミラーレスは3割増えた。

 こうした状況から、カメラ業界の二大巨頭は戦略転換を迫られていた。キヤノンは一眼レフの人気ブランド「Kiss」を冠したミラーレスを投入。キヤノンと比べ、売り上げにおけるカメラ事業への依存度の高いニコンだが、成熟したカメラ市場で今後爆発的な伸びを見込むのは難しい。それでもニコンは、あくまで一眼レフとミラーレスの両方を展開していくと、高級市場で二兎(にと)を追う考えを示した。カメラに再注力する姿勢からは、次世代の焦点が定まりきらない苦悩が透けて見える。

縮小市場でライカの戦略に脚光

 一眼レフカメラの販売が急減し、キヤノンやニコンが苦戦する中、独ライカカメラが一眼レフにとどまらない戦略の拡大に走る。スマートフォンにおける中国・華為技術(ファーウェイ)との提携、もう一つはミラーレスにおけるパナソニックとの提携である。いずれも各市場の後発組で、シェア拡大に意欲的なメーカーだ。ライカは2000年代に経営危機に陥ったが、カメラ市場が激変する中で、再び独自の存在感を強めつつあった。意欲的な後発組と組むライカの戦略は、老舗企業の生きる道を示していたのだ。


スーパーサイクルに乗り切れなかったニコンの挽回策

 そしてニコンは2019年5月、2021年度までの新中期経営計画を発表。景気の波を超えて半導体の需要が拡大する「スーパーサイクル」に乗り切れず、この数年は痛みを伴う構造改革にまい進してきた同社。2019年4月に就任した馬立稔和社長は「半導体装置事業の競争環境の厳しさは続く。収益性の重視が不可欠だ」と述べ、新事業の確立を優先する考えを示した。

 また、2019年3月期決算は、売上高が前の期比1.2%減の7086億円、最終利益は91%増の665億円だった。2015年に発表した中期経営計画を翌年に撤回し、2019年3月までを構造改革期間と位置付けてきたニコン。最先端の露光装置の開発も縮小した。なお、全社の営業利益目標は、終わった期の実質的な営業利益から3.5%増の「700億円以上」とした。


ニコンの馬立社長が大切にする現場の状況把握

 2019年4月に新社長に就任した馬立稔和氏は、現場の状況をきめ細やかに把握することを大切にしてきたという。経営者としての同氏の考え方に大きな影響を与えたものに、2000年代前半に深く付き合うようになった、海外の大手半導体メーカーの経営手法がある。これら企業では、上位の経営層が非常に細かいことまで、すべてリアルタイムで把握していることに驚いたという。それまで顧客として付き合うことが多かった国内の半導体メーカーは良くも悪くも現場主義。馬立社長も部下に大ざっぱに任せるやり方だった。

 しかし、半導体のように複雑なものをきちんと作り上げるには、経営層も具体的なことまで把握していなければならないと実感して以来、現場の状況を細かく把握することに努めてきたという。

 そんな馬立社長の最大のミッションは、新しい事業の柱をつくること。色々な技術を持っている割に実際の事業につながっていないというニコンの課題が見つかった。新しい開発組織を立ち上げたり、ロボットやヘルスケアなどの成長事業に位置付けた分野に人員を重点的に投入したりと、目に見える施策を積極的に打っていくつもりだという。

今年も縮むデジカメ市場 ニコン・キヤノンに迫る時間切れ

 カメラ映像機器工業会は2020年2月、国内メーカーの同年デジタルカメラ出荷台数が前年比23.3%減の1167万台になる見通しだと発表した。2019年の出荷実績も2018年比で21.7%減。出荷台数のピークだった10年前と比べると、2020年の規模は10分の1以下になる計算だ。

 国内メーカーの独壇場だった巨大なデジカメ市場は、愛好家に向けたニッチ市場に変わりつつある。深刻なのは、当時デジカメ世界シェア2位であったニコンだ。2019年5月に発表した中期経営計画では、映像事業で2022年3月期以降に200億円以上の営業利益を安定的に稼ぎ出す目標を掲げた。

 ところが、初年度からニコンはつまずいた。2020年3月期に映像事業で120億円の営業利益を上げる計画だったが、2019年11月に「過大な市場規模やシェアの前提を修正する」として100億円の営業損失に下方修正。生産・販売体制の見直しを中心に、2019年3月期に1500億円だった事業運営費を1000億円まで減らす構造改革案を打ち出した。縮むデジカメ市場に有効策を打ち出せないニコンとキヤノン。残された時間はいよいよ少なくなっている。

ミラーレスカメラ元祖のパナ、フルサイズ機で巻き返しの難路

 2020年9月3日、パナソニックは「フルサイズ」と呼ばれる大型の画像センサーを搭載するレンズ交換式デジタルカメラ「LUMIX S5」を発表。レンズ交換式カメラを小型・軽量にできるミラーレス構造を採用したカメラを2008年に初めて製品化したパナソニックだが、参入が遅れたフルサイズのミラーレス機では劣勢が続く。

 ただでさえスマホに押され市場が縮小してきたデジタルカメラ。新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけた。イベントや外出の自粛で消費者の撮影機会が減り、東京五輪・パラリンピックで需要を喚起しようという思惑も外れた。今回発表した「S5」は本体の市場想定価格が24万円前後と、2019年に発売した上位機種である「S1」より価格を2~3割下げた機種だ。小型化と軽量化をしながら、上位機種に迫る高画質を実現したという。期待するのは動画製作需要の広がり。YouTuber、ピアノやヨガの先生がきれいな動画を撮影しようとレンズ交換式カメラを購入するケースが増えているからだ。

 とはいえ、動画撮影性能の強化に動くのは競合メーカーも同じ。パナソニックも楽観視はしておらず、想定する月間生産台数も1500台と控えめだ。国内メーカーによる2020年7月のミラーレスカメラの生産台数が22万台だったことを考慮すると、19年の参入時に掲げた2021年度にフルサイズのミラーレス機の市場で世界シェア10%という目標の達成は簡単ではなさそうだ。

最後に

 デジタルカメラ市場の縮小が止まらない。その影響を大きく受けているのがデジカメ世界シェア2位のニコンだ。カメラ市場で鍵を握るのはスマホでは代替できない価値を提供すること。また新しい事業の柱をつくることも必要不可欠となる。光学技術の先駆者として道を切り開いてきたニコンの今後の巻き返しに注目したい。

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