トヨタ自動車によって開発され、世界中の企業が生産管理やプロジェクト管理に採用する「カンバン方式」。徹底してムダを省く手法には様々なメリットといくつかの課題がある。今回はカンバン方式をテーマに、過去のトピックを紹介していく。

必要なものを・必要なときに・必要なだけ作る「カンバン方式」

 カンバン方式とはトヨタ自動車が開発した生産管理方法だ。「必要なものを、必要なときに、必要なだけ作る」ことを目的としたジャストインタイム方式の一つで、国内外の製造業はもちろん、他の業種のプロジェクト管理でも広く採用されている。

 カンバン方式では複雑なコンピューターシステムの代わりに簡単な「カンバン(看板)」を使う。仕組みは非常にシンプルで、例えば製造の下流工程で部品を使ったら部品名と数量を記したカンバンを上流工程に送り、受け取った上流工程では届いたカンバンに書かれた部品を補充する、という具合だ。

 カンバン方式は、それまで主流だった「大量の在庫をストックしておく」生産方式と比べて少ない費用、少しの工場面積で生産工程を運用できる。また情報や問題の共有化をしやすいことも大きなメリットだ。一方で在庫欠品のリスクや生産量の変動が大きい製品には使用しにくいといったデメリットもあるという。

 今回はカンバン方式を採用する企業の事例やカンバン方式の課題について、過去の記事から振り返る。

ニトリ似鳥昭雄氏が語った「リスクとの闘い、人作る」

 カンバン方式を採用している企業の一つがニトリだ。同社ではインドネシアの工場で高品質な製品を大量生産しているが、そこではカンバン方式を取り入れ、分単位の作業体制を組んでいるという。

 政情が不安定なアジアでの生産は困難が伴うが、ニトリでは2030年までに店舗数3000、売上高3兆円、新業態の開発や海外出店を目指していくという。

[コロナ禍こそ改善]食品工場が1200平方メートルの倉庫を空に

 成田山新勝寺の参道で菓子を売る米屋。新型コロナウイルス禍で観光客が減少したことにより、2021年3月期の売り上げは前期比約30%減と大きく落ち込んだ。

 しかし同社では、赤字になって設備や人の稼働率に余力がある今こそ「改善」の好機ととらえている。具体的には梱包資材の管理工程にカンバン方式を取り入れ、在庫を大きく減らすことによってキャッシュフロー改善やスペース削減、人材運用の効率化を目指しているという。

“過剰適応国家”は短命、ゆとりこそ長命の秘訣

 一方で極限までムダをそぎ落とすことにはリスクも伴う。徹底的に在庫のムダを省いたカンバン方式はトヨタの業績向上につながったものの、「何らかの事情」で生産ラインの1カ所に部品が届かなければ全ラインが停止する。実際、阪神大震災や東日本大震災ではトヨタの生産体制が一時まひする事態も発生したという。

トヨタの「さらば、自前主義!」

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを舞台に、トヨタが自動運転車の実証実験を実施する。東京臨海部などでの実験に加え、選手村でも選手の移動手段として自動運転車を使う計画だという。

 しかし自動運転車は関連技術が開発途上にあり、トヨタのモットーである「最高の品質のクルマを造り、ユーザーに安全安心を提供する」という考え方と矛盾するものだ。このような未知の事業を安全安心に進める手段として、トヨタは自動運転車の開発をカンバン方式を利用するトヨタ本体ではなく、トヨタ・リサーチ・インスティテュートやトヨタコネクティッドなどの別組織で行っている。

車検不祥事、トヨタの「アンドン」はなぜつかなかったのか

 カンバン方式の特徴はジャストインタイムの生産方式だが、トヨタ生産方式にはもう一つの特徴として「アンドン」による異常検知システムが挙げられる。何らかの異常が発生したらアンドンと呼ばれる電光表示版を点灯し、関係者が即時に異常を把握するというものだ。

 しかし2021年にはトヨタ系ディーラーで2度にわたり大量の不正車検が発覚するなど、アンドンが機能不全に陥っているという。不正の原因について当事者たちは「業務量が多すぎて手が回らなかった」と説明するが、その根底にはトヨタの神髄であるアンドンを阻害する、精神論や根性論があったのではないかと筆者は推測している。

最後に

 徹底したムダの削減と情報共有によって生産効率と製品の質を向上させるカンバン方式。仕組みはシンプルだが画期的な生産管理手法として、製造業に限らず世界中の企業によって採用されている。カンバン方式による成功事例は事欠かないが、一方でデメリットや不向きも存在している。コロナ禍に苦しむ企業にとって、カンバン方式がピンチの克服にどのように貢献するか引き続き注目していきたい。

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