健康機器の製造で世界をリードしているタニタ。体重計や体組成計といえばタニタを思い浮かべる人は多いだろう。しかし、タニタの取り組みは健康機器だけではなく、タニタ食堂や健康プログラムなど多岐に渡る。社員の働き方についても常に先進的な改革に取り組んでいる。健康ブランドの先駆者ともいえるタニタの取り組みを紹介する。

タニタの沿革・概要

 タニタは1923年、シガレットケースや貴金属宝飾品などの製造販売を手がける金属加工メーカーとして創業した。タニタといえば、日本で初めて家庭用体重計を製造、販売したり、世界で初めて体脂肪計や体組成計を製造・販売したりするなど、健康機器の製造に関して世界をリードしてきた。

 独自の技術力でさまざまな製品を製造するが、創業当初はOEM(相手先ブランドによる生産)による受託生産が主体であり自社ブランドの製品は少なかったという。しかし1992年、「乗るだけで計測できる体脂肪計」を発売。1994年には世界初となる「家庭用体脂肪計付ヘルスメーター」を発売して以降自社ブランドを確立し、料理はかり、タイマー、活動量計、歩数計、医療施設向け体組成計・体脂肪計等を製造・販売している。

[タニタ 谷田社長]2割ダイエットを10年継続

 激務で運動の機会をなかなかとれないにもかかわらず、タニタの谷田千里社長は身長170㎝、体重60㎏とスリムな体形を維持している。健康総合企業のタニタということでさまざまな健康法に取り組んでいるのだろうと思われるが、意外にシンプルな方法で体形を維持していた。

 その方法が服部栄養専門学校の服部幸應先生の教えである「2割ダイエット」。2割ダイエットは、毎回の食事を2割だけ残すというものだ。毎回の食事を2割残す以外は現在のライフスタイル、食生活を変える必要はない。そのため続けやすいという。谷田社長はこのダイエットを10年以上続けており、社長になり会食が増えても体形維持ができているそうだ。

[タニタ 谷田社長]会議漬けでも体形は維持!

 谷田社長が2割ダイエットの他にもう一つ体形維持のためにしているのが、活動量計を使って消費カロリーと摂取カロリーのバランスをとることだ。自社の歩数計や活動量計はどんなときも身に着けているという。自分自身の健康のためにはもちろん、社長として商品の改良すべき点を考えたり、販促のヒントを探ったりするためでもある。

 タニタの製品「カロリズム」はその日の消費カロリーを正確に計測できる活動量計だ。歩数計と違い、歩行だけでなく、家事やデスクワークなど、生活活動をすべて測ることができる。会議ばかりで一日じっとしていた日と外出が多い日では消費カロリーに1000キロカロリー以上の差があることも。しかし活動量計でその日の消費カロリーを把握することで摂取カロリーを抑えるなど、帳尻を合わせることができ、体形維持につながっている。

[タニタ 谷田社長]赤字対策から医療費が減少

 2003年に先代がインターネットに接続する通信機器を備えた歩数計や体組成計、血圧計を開発した。画期的な商品ではあるものの使い勝手が良くなく、ほとんど売れなかった。谷田社長が引き継いだ2008年になってもこれらの健康データ管理事業は大赤字。社員からはこの事業いつやめるのかなという目で見られている気がしたそうだ。ただ、谷田社長はこの事業は将来的には必ず伸びるという確信があり、やめるつもりはなかった。

 そこでまず、商品をブラッシュアップするため、社員にこれらの商品群やサービスを使ってもらった。計測を義務付けられたことで社員からは不満も少なくなかったが、社員の意見で商品、サービスは使いやすく改善された。そして驚くべきことに商品が改善されただけではなく、社員の1人当たりの医療費が1年前と比べて1割ほど減少したそうだ。ただ「測れ」と指示しただけだが、改めて測ることの効果を実感したという。

タニタの新業態、狙いは健康に関心が低い層

 タニタは2018年5月下旬から新事業である「タニタカフェ」を展開している。メインターゲットは20代から40代の女性。健康的な食事を提供するだけでなく心の健康という点にも焦点を当て、店内は落ち着いた照明やヒーリング効果のある音楽、香りで交感神経に働きかけてリラックスを促す工夫をしている。タニタカフェは健康への関心が低い層もターゲットだという。タニタ食堂でも利用率が低い若い層や男性客に向けてのメニューの展開をしてきた。

 しかし今回のカフェ展開ではさらに広い層へのアプローチを狙う。タニタカフェは楽天の農業事業「Rakuten ragri」(楽天ファーム)の有機野菜を使用することも発表された。今後はフランチャイズ店とメニュー提供店の2方式で店舗展開し、さらに小売店や飲食店、セレクトショップ、スポーツジム、クリニックなど異業種に併設する店舗やテークアウト専門のスタンドカフェの展開も視野に入れ、2022年度までに全国に100店舗の展開を目指すという。

タニタが健康で「異業種タッグ」

 タニタは2018年9月、健康管理サービスで新機軸を打ち出した。子会社のタニタヘルスリンクが官民ファンドINCJ(旧・産業革新機構)および事業会社4社を引受先とする総額35億円の第三者割当増資を実施すると発表。事業会社として参画するのはイトーキ、SBI生命保険、日立システムズ、法人向け健康診断や人間ドックを手掛ける淳風会(岡山市)の4社。

 各社の健康情報やサービス、システムを融合したオープンな「健康プラットフォーム」を構築していく。1社単独で手掛けるよりも多様な情報を分析できるのが利点だ。まずはタニタヘルスリンクが中心となり、2019年度に岡山市で新しいヘルスケア事業を開始した。イトーキは働き方のコンサルティング、SBI生命保険は健康情報を生かした新たな保険商品の提供などを模索する。プラットフォームには今後、新たな参加企業を募っていくという。

タニタ社長「社員の個人事業主化が本当の働き方改革だ」

 タニタは2017年に新しい働き方の制度を導入した。希望した社員が「個人事業主」として独立するのを支援するというもの。独立した社員は従来のタニタでの仕事を業務委託されて収入を得ることができ、さらに働く時間や量、自己研さんにかける費用や時間などを自分でコントロールできる。2017年1月から始めた8人の場合、平均の収入は28.6%上がった。社員の個人事業主化を支援する制度を導入した背景は、働き方改革が残業の削減や有給休暇の取得だけに焦点を当てられたことに違和感を持っていたからだという。

 谷田社長は、くさん働きたい人に対してきちんと報いる仕組みがないことが問題だと考えた。またもう一つの理由が経営危機になったとき、優秀な社員に会社に残ってもらうためだ。会社の危機を救う優秀な社員は、会社に残りたいと思ってくれるはず。ただ、経営危機になり給与を下げる必要がある場合、タニタの仕事をしながら他の仕事もできる仕組みであれば社員の手取りは減らず、会社の再建にも尽力してくれることになると考えた。

社員が個人事業主に、タニタは変わるか

 タニタが2017年1月に始めた社員の個人事業主化を支援する「日本活性化プロジェクト」。

 業務委託契約となり、退社前まで担当していた仕事を基本業務として発注する。新たに発生する仕事については追加業務と位置付け、そのつど、本人と交渉して報酬を決める。基本業務の報酬は独立する社員の退社前の給与・賞与をベースにし、その上で会社員時代と同程度の社会保障を民間保険などでカバーした場合の費用を算出して決める。独立した元社員は報酬の中から、家族構成や価値観に応じて、年金や自分に必要な保障を保険などの商品を探して加入する。税理士が確定申告の相談を受ける仕組みを備えており、交通費や自己研さんのための研修費、交際費などが経費として認められれば所得から控除されて税額が減る。この仕組みで第1期募集で独立した7人に会社からの報酬のうち手元に残るお金をヒアリングすると、独立前に比べ16.3~68.5%増えていた。

 ただ、この制度は下手に使われればブラック企業のバイブルになるかもしれないと谷田社長も認めている。優秀な人に残ってもらうための切り札として考えたこの制度、当初の理念を失わず、正しい運用が必要不可欠となる。

パナソニック、タニタ、花王に見る 失敗から復活するための3原則

 いったん失敗した商品・サービスはどのようにして復活したのか? キーワードは「市場」「時間軸」「座組」。成功を生む3原則の一つ目は市場を変えること。タニタの「健康プログラム」も顧客ターゲットを変更したことで復活した商品やサービスだ。一般消費者のために開発したサービスであったが、ターゲットを企業や自治体に変更したことで事業は黒字転換した。

 時間軸の変化によりヒットにつながった商品がパナソニックの戸建て住宅用宅配ボックス。国内シェア5割を誇る同商品だが、1992年の初号機の開発から見直しを繰り返し、30年かけてようやく事業になったという。共働き世帯の増加や宅配サービスの普及など時代の変化が作用したようだ。復活のカギを握る最後の一つが、提携先や組織体制などの「座組」を変えること。2018年に花王が発表した「ファインファイバー」もその一つ。2007年、クイックルワイパーの研究で不織布をさらに細かくするという技術の開発から、超極細繊維で膜を作ると肌の水分を保持する角質層に似た機能を発揮することを発見した。コストがかかり、製品化のめどが立たず、研究は長い停滞期に入る。

 しかし発表から6年後、シートにするのではなく肌に直接吹きかけるという方法で開発は大きく前に進んだ。その進歩はかつて花王が手がけていたフロッピーディスク材料の研究メンバーの協力があったからだ。

新型コロナの影響など、「フリーランス」の今後を過去のニュースから考察する

 特定の企業や組織に所属せず、仕事の案件ごとに会社と直接契約する働き方をフリーランスという。ITの普及からテレワークやクラウドソーシングが進み、フリーランスが増加傾向にある。タニタも社員を個人事業主として独立させ、業務委託契約を結ぶ新制度を始めた。その背景には、「優秀な人材に自由な労働時間や環境を与えることで会社に引き留めたい」という谷田社長の考えがある。

 新制度では、基本業務と新たに発生する追加業務を分け、追加業務は本人と交渉して報酬を決める。社員は様々な事情を抱えているが、個人事業主化はこうした課題をクリアしつつ、実務能力や会社の習慣を知る人材を確保できる仕組みと言える。

 しかしフリーランスとして働くことは自由なイメージがある一方で、さまざまな支援が薄いという問題もある。企業とフリーランスの関係が、上下関係ではなく、同志として構築できることが理想的だ。会社に所属する働き方についても、今後は柔軟な働き方をつくる必要性がありそうだ。

最後に

 タニタは健康機器の製造だけでなく、健康プログラムや飲食店の経営など、健康へのアプローチをさまざまな方向から提案し続けている。社員の働き方を始め、社内の環境も時代に合わせて先進的な取り組みをしてきた。健康をテーマに今後どのような変化を遂げていくのか注目をしていきたい。

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