結論から言えば、高力ボルトが不足した直接的な要因は、一部業者による過剰発注であることはほぼ間違いない。実際、公共事業を所管する国土交通省もそう判断し、「重複発注」や「過剰発注」の是正に動いたところ、確かにボルトの納期は2カ月分改善した。業界内からも「オイルショック時のトイレットペーパー騒動と同じ」との声が聞こえてくる。

(国土交通省提供)
(国土交通省提供)

 ではなぜ、ある時期から「このままではボルトが調達できなくなる」と水増し・過剰発注する建設各社が相次いだのか。

 ボルト不足が本格的に伝えられ始めたのは昨年から。それまでは「あって当たり前」の部材の1つであり、話題を集めることもほとんどなかった。ところが、昨夏には多くの建設現場から「不足」の声がささやかれ始め、「工具通販サイトでも手に入りにくい」「フリマアプリで高値で転売されている」「自動車生産が堅調なあおりを受け、メーカーが原材料(特殊鋼線材)を仕入れられていない」といった様々な噂も広まるようになる。

 そうやって、改めて注目を浴びることになった高力ボルトだが、業界は「バブル以降の30年間で中小企業が淘汰・消滅した産業」と位置付けられるだろう。

かつては20社あったボルトメーカー

 現在、高力ボルトを製造しているのは、日鉄ボルテンや神鋼ボルトなど8社。企業名を見れば分かる通り、大手鉄鋼メーカーの子会社や系列会社が主な担い手だ。建設現場でボルトが使われるため、鉄骨などの部材とセットで販路を開拓してきた歴史がうかがえる。

 このボルト業界、高度成長期の1970年代には、今の2倍以上に当たる計20社がボルト製造を担っていて、その中には中小企業の姿もあった。

 ところがバブル崩壊以降、日本経済が低迷飛行になり始めると、最盛期に最大15万トンほどあったボルト需要は減っていく。ゼネコン不況に加え、国の財政事情の厳しさや公共事業削減の流れも手伝い、2008年秋のリーマン・ショック後には、総生産量は8万トンまで下落。中小企業のボルト生産からの撤退も一気に進んだ。

 そんな現状が明らかになってくるにつれ、建設業界には足元で「このままでは東京五輪に伴う大型建設需要に対応できないのではないか」という観測が広がった。それが今回の過剰発注の引き金となった面が大いにある。

 

 残った企業が、需要増に対応し増産に踏み切れば、ここまで大きな騒動は起きなかったかもしれない。しかしメーカー各社は「今回の不足は実需ではない」「過剰発注がおさまればまた元の低位安定期が訪れる」と判断したのだろう、そうはしなかった。

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