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ブレグジットが北アイルランド経済に暗い影を落としている。2019年まで好調だった同地の経済は、ブレグジットの不確実性で大きな投資が減少し、経済が減速している。アイルランド島で厳格な国境管理をしないというボリス・ジョンソン首相の離脱案は、北アイルランド経済にどのような影響を与えるのか。経済団体幹部や経営者に話を聞いた。

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 10月30日、マニュファクチャリングNI代表のステファン・ケリーとの待ち合わせに指定されたのは、北アイルランド・ベルファストにあるヨーロッパ・ホテルだった。今は厳かな佇まいの高級ホテルだが、北アイルランド紛争時には欧州で最も爆弾テロがあったホテルとして知られている。

 予定の時間から少し遅れて、ケリーがさっそうと現れた。マニュファクチャリングNIは、製造業を中心に北アイルランド企業の約500社を束ね、英国のEU離脱(Brexit、ブレグジット)と北アイルランド企業の状況に精通する。まずは北アイルランドの経済環境を語った。

 「2008年の金融危機以降、北アイルランド経済は力強く成長してきた。けん引してきたのは農業や製造業、建設業だ。しかし、既にブレグジットを巡る状況が北アイルランド経済に暗い影を落としている」。

 「特に建設業や製造業の影響は大きい。ブレグジットの不確実性で業界全体が大きな投資に慎重になり、スランプに陥っている」。

マニュファクチャリングNIのステファン・ケリー代表。背景にあるのは、紛争時には欧州で最も爆弾テロがあったベルファストのヨーロッパ・ホテル(写真:永川智子)

 北アイルランドでは多くの人が残留を支持していた。特にマニュファクチャリングNIの会員に限っては94.4%が残留の支持だったという。

 また、離脱案の中では、前首相のテリーザ・メイがまとめた離脱案を支持する会員が多かったという。英全土がEUの関税同盟にとどまるなら、従来通りのビジネスがしやすいからだ。だが、英議会ではEUのルールに縛られるとして反対者が多く、承認を得られなかった。

 それに対して、現首相のボリス・ジョンソンの離脱案は移行期間の終了後に、英国は関税同盟から離脱する。これにより他国と自由に貿易協定を結べるため、離脱強硬派が賛成に回った。

 ただ、北アイルランドは関税手続きをEU基準に合わせ、英本土から北アイルランドに物品を送る場合は、関税手続きや関税の支払いが必要になる見込みだ。

 つまり、関税手続き上の境界線は、英本土とアイルランド島の海上に引かれ、北アイルランドは「一国二制度」のような状況になる。そのため、英本土との結びつきが強い民主統一党(DUP)が「アイルランド島と英本土とを隔てている海峡に,新たな国境線を設けるに等しい」と言い、強硬に反対している。

 では、実際にブレグジットが北アイルランド経済にどのような影響を与えるのか。経営者に詳細を聞いた。