英議会下院は29日、総選挙を12月12日に実施する特別法案を賛成多数で可決した。下院はEU離脱(Brexit、ブレグジット)の方針が定まらず、政府がEUと合意した離脱案を何度も否決し、袋小路に入っていた。下院は総選挙を通じて、ブレグジットの方針を明確にする。
この日の主役は、英最大野党の労働党だった。党首のジェレミー・コービンは29日、「この国が今まで見たこともないような、最も野心的で先鋭的な選挙戦を、今から開始する」と、高らかに総選挙を受け入れることを宣言。英BBCなどのインタビューでは多くの幹部を画面の後方に従え、コービンが発言すると歓声と拍手で周囲が盛り上げるなど、選挙に前向きな印象を打ち出そうとした。
下院で総選挙が決まると、コービンは労働党員に一斉メールを送った。「本当の変化の時だ。我々は総選挙を戦う。英国はトップ1%の利己的な利益のために運営されている。政府は超富裕層のために働いており、メディアは超富裕層に牛耳られている。(中略)我々はこれらを公平にできる」

コービンがこのように仕掛けたのは、多くの国民に労働党は選挙に後ろ向きとの印象を与えていたからだ。英首相のジョンソンは7月の就任早々から議会を悪者にする戦略を展開し、9月からはブレグジットの混迷を打開するために総選挙を主張してきた。
それに対して、労働党は国民投票の再実施を主張しており、前日の10月28日にもジョンソンの総選挙実施の提案に反対していた。コービンは「合意なき離脱の選択肢を外すこと」を条件に挙げてきたが、そもそもジョンソンも合意なき離脱を望んでいないため主張が弱い。
実際には支持率で保守党を下回っていることが選挙に消極的だった要因だろう。英調査会社ユーガブが直近24~25日の調査で、総選挙で想定する投票先を聞いたところ、労働党は23%で保守党の36%を大きく下回っている。それどころか、9月には自由民主党が労働党の支持率を上回っており、直近の調査でも18%と迫っている。自民党はEU残留を明確に打ち出しており、残留派からの支持を集めている状況だ。保守党だけでなく自民党やスコットランド民族党(SNP)までも総選挙に賛成し、労働党は追い込まれて賛成に回ったのが実情ではないだろうか。
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