ボリスは政治を面白くしてくれる

 国民投票の後に考えを変えた人がいるかどうかを聞くと手を挙げたのがレイチェルだ。彼女の話から議論が熱を帯びていく。

レイチェル:「私は残留に投票したけど、何も決まらないのが一番困る。もう3年以上も議論してきて、もういい加減にしてほしい。離脱でいいから早く決着させてほしい」

 少し離れた場所に座っていたナタリーが、真っ向から反論する。

ナタリー:「ブレグジットはイギリスの将来を決めるとても大事なこと。諦めてはいけないでしょう」

レイチェル:「そうは言っても何も決まらないじゃない。ボリス(ジョンソン首相)がEUと離脱案で合意したのだから、それでいいと思う」

ナタリー:「ボリスは自分のことしか考えていない。首相になりたいから離脱を選んだだけ。何も良くない。女性にもだらしがない。カリスマ性があるのは分からなくはないけど、そのカリスマを悪に使っているのよ」

レイチェル:「モテるから仕方ないじゃない。性格だって悪くないと思う。ボリスはカリスマ。政治を面白くしてくれる。私は彼が好きよ」

アナ:「悪いけど同じ女性として理解できない。分断を助長するような発言が多すぎる。首相になるべき人ではない」

レイチェル:「でも、今の状態だったら、誰が首相になっても叩かれるんじゃない?」

ジョンソン首相は保守党の党大会で、恋人のキャシー・シモンズと共に支持者に囲まれる (写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
ジョンソン首相は保守党の党大会で、恋人のキャシー・シモンズと共に支持者に囲まれる (写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ボリス・ジョンソンについては見解が異なるが、レイチェルの仕事の現状は、みんなが共感する。レイチェルは国民医療制度(NHS)に関連する病院で働く。NHSとは基本的に全ての英国民が無料で医療を受けられる制度で、英社会の根幹を担っている。そもそも、この人材面と資金面で苦境に立つNHSを充実させるというのがブレグジットの主な目的の1つだった。だが、現実は資金と人材が不足し、NHSの苦境に歯止めがかかっていない。

レイチェル:「国民投票以降、ヨーロッパの人たちが減って医療現場の看護士不足は深刻よ」

クリス:「レイチェル、普段から看護士の教育も追いつかないと言っているよね」

レイチェル:「そう。看護士は現場で働けるようになるまで一定の研修時間が必要。それを教える人も足りないから、なかなか看護士を増やせない。

 そもそも、税金を払っていないヨーロッパの人たちが無料で医療を受けているから、移民は良くないという議論があったけど、NHSを使えるのはイギリスで税金などを払っている人だけだと思う。私の職場では、イギリス人以外の患者はとても少ないわ」

アナ:「つまりヨーロッパの人たちが減ると、NHSにとっても困るということね。皮肉なのは、離脱すればNHSが立ち直るって言う話だったのに、離脱するとこれまで以上の人材不足になるってことでしょ」

レイチェル:「イギリス全体では分からないけど、少なくても私の現場ではそういう現状になっている」

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