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 10月末に迎える英国のEU離脱(Brexit、ブレグジット)の延期が濃厚になっている。英首相のボリス・ジョンソンが欧州連合(EU)と合意した離脱案を、英議会で十分に審議する時間がないためだ。23日、EU大統領のトゥスクはツイッターに、加盟国に延期を認めるように呼びかけると投稿した。英国時間の24日昼の時点で、ジョンソン首相は離脱関連法案の提案を保留している。

 ブレグジットがここまで迷走するのは、英国民の見解が細かく分かれ、それぞれが複雑に絡み合い、対立しているからだ。比較的同じような背景を持つ家族内であっても意見が異なり、その相違が元で難しい立場に置かれる人もいる。

 その象徴と言えるのがジョンソン家だ。長男のボリスは強硬離脱の先頭に立つ一方、妹のレイチェルと弟のジョーは残留派という見解の違いがある。ボリスという人物とその家族を知るために、ボリスの父親であるスタンレー・ジョンソンに話を聞く機会を得た。

 インタビューを通じて感じたのは、ボリスが父親の影響を強く受けていることだ。政治家かつジャーナリストという、父親と同じ職業を選んだことも納得できる。ジョンソン家に引き継がれるサービス精神は、ボリス人気の重要な要素になっている。なお、今回はジョンソン家の人物が主に登場するため、ジョンソン家の人々をファーストネームで呼ぶことをお断りする。

 9月下旬に開かれた保守党大会にボリス・ジョンソンの父親、スタンレー・ジョンソンの姿があった。ボリス人気を示すように、スタンレーの元には多くの支持者が集まり、会話を楽しんだり、写真を撮ったりしている。

 ボリスの演説の際に、スタンレーはボリスの恋人、キャリー・シモンズの隣に座り、談笑する姿がスクリーンに映し出される。この2人は一緒に環境問題の抗議活動を仕掛けるなど馬が合うようだ。

 スタンレーが1人になるタイミングを見計らって何度も話しかけると、初めは少し警戒していたが、次第に打ち解け、最後にはメールアドレスを交換し、取材を申し込んだ。こちらが3回メールを送ったところで返信が届き、インタビューの日程が決まった。指定されたのは、スタンレーの自宅だった。

スタンレー・ジョンソン氏。1940年、英国生まれ。元政治家、ジャーナリスト、作家。63年、英オックスフォード大学を卒業。64年、米コロンビア大学の学生時代に、長男ボリス・ジョンソン氏が誕生。73年から79年まで、欧州委員会で環境問題を担当。79年〜84年まで欧州議会の議員として環境・公衆衛生・消費者保護の委員会の副会長を務める。84年~94年まで欧州環境総局のアドバイザー。その後、国連や世界銀行でも環境問題を担当。2019年、長男のボリスが首相に就いた(写真/永川智子)

 自宅に入ると書籍と絵画の多さに気がつく。スタンレーは一度、2階から1階に下りてきたが、「撮影の準備の時間が必要なら10分後に戻る」と言い残して2階に戻った。翌日からライフワークである環境問題の活動のためにイタリアに行くため、準備などで忙しいのだという。79歳とは思えぬバイタリティーだ。

 およそ10分後に1階に現れたが、水を取りに行ったり、書籍を取りに行ったりして落ち着かない。この日は10月13日で、ラグビーワールドカップで日本がスコットランドを破り、初の8強進出を決めた試合の翌日だった。「昨日の日本は強かったね」と笑顔で握手を交わし、ようやくインタビューが始まった。


ブレグジットの先行きが不透明です。どうなると思いますか。

 現時点で、英国とEUは交渉中だ。実際には、EUはアイルランド政府に代わって交渉しているような状況だ。私は英国がアイルランド政府と直接話したほうが、もう少しスムーズに行くのでは、と考えてしまうけどね。EU側は、EUにとって重要な事柄は離脱の影響を受けないようにしたい、という断固たる姿勢だからね。