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『宇宙兄弟』で、主人公の南波六太(ムッタ、右)のライバルとなる真壁ケンジ(左)

1つの椅子をめぐるライバル心

 同じチームで、助け合って同じ目標を目指すべき存在。なのに、相手をライバル視するあまり関係がギクシャクして、仕事にも支障が出てしまった――。そんな経験はありませんか?

 「俺たち、仲間だからな」と互いを認め合い、良好な関係を築いてきた2人でも、どちらか1人しか念願のポジションに就けないとか、成績順位で評価されるような状況では、急によそよそしくなることがあります。互いを攻撃し合ったり、足の引っ張り合いに発展したりすることも珍しくありません。

 相手を蹴落として自分が勝とうとすれば、互いに気まずくなるだけでなく、組織全体にもマイナスに働きます。

 そもそも、なぜ、組織の中で足の引っ張り合いが起こるのでしょうか。
 FFS理論(開発者:小林惠智博士)の視点から説明すると、「保全性の同質関係」がキーワードとなります。

・FFS理論について、詳しくはこちら

 お互いの個性が似ている関係を「同質」と呼びますが、「保全性」が高い人の同質関係では、1つの椅子を奪い合うライバル関係が生まれやすいのです。

 「保全性」はこれまでの連載でも出てきた因子ですが、おさらいすると「現状を維持しようとする力」のことです。失敗しないように物事を着実に進めたがる慎重派の人は、「保全性」の高い人ということができます。これもおさらいになりますが、日本人の約6割は「受容性・保全性」が高い人です。

 保全性の同質関係では、なぜライバル関係が生まれやすいのか。チーム内の人間描写に優れた『宇宙兄弟』(小山宙哉著、講談社)の、登場人物が織りなすドラマから今回も読み解いていきましょう。

似ているから、分かり合える

 今回登場するのは、主人公の南波六太(ムッタ)と、同期の宇宙飛行士の真壁ケンジ(ケンジ)です。

 2人とも、物事を着実にやろうとする傾向が見られるので、「保全性」の高いタイプと推測できます。2人は「保全の同質関係」です。

 冒頭で、同質関係のネガティブな側面に触れましたが、同質関係にはポジティブな側面もあります。お互いに似ているから、分かり合えることが多いのです。

 例えば、簡単な説明だけで、言わんとするところがすぐ伝わります。考え方や行動パターンも似ているので、「そうだよね。分かる、分かる」と共感でき、共有が早いのです。「気心が知れた仲」になりやすいのです。

 また、同じ強みを持つ者同士、同じ体験を経て得る知見も近いものがあります。心の機微も近いでしょう。新人を現場で育成するOJT(職業内訓練)では、同質の先輩がトレーナー役を務めるのが最も教育効果が高いといわれています。同質の先輩が困難を乗り越えてきた経験は、後輩にとって理解しやすい、素晴らしい指南となるからです。

 ムッタとケンジが出会ったのは、JAXAの宇宙飛行士選抜試験の会場でした。
 ケンジは、自ら手を差し出して握手を求めます。

1巻#3「ネジ一個だよ人生は」