なぜ最初の一歩を踏み出せないのか

 やりたいことは、ある。
 でも、なかなか最初の一歩が踏み出せない――。

 日本人のおよそ6割の人の悩みは、これではないでしょうか。

 なぜ6割なのか。
 数字の根拠は、日本人の個性をFFS理論で分析すると、およそ6割の人に「保全性」が高い傾向が見られるから、です。

 保全性が高い人は、本能的に現状を維持しようとするため、未知の領域に足を踏み入れることを躊躇(ちゅうちょ)します。

 やりたいことがあっても、「確実にやりたい」、「しっかりと準備してからやりたい」と考えます。失敗は嫌なのです。だから、挑戦自体を先送りすることもあります。仕事の現場では、チームを引っ張るのが苦手だったり、新規開拓を任せられてもうまく立ち回れなかったりします。組織内で目立つ活躍をするよりも、地道にコツコツと努力して組織に貢献することを好みます。

 一言で言えば、とことん慎重な人たちなのです。
 どうでしょう、ご自身にこの傾向は思い当たるでしょうか。

 仮に、この世界に存在するのが保全性の高い人だけなら、彼らは平穏に過ごすことができたでしょう。しかし、どの職場にも、失敗をものともせず果敢に突き進む人が1人や2人はいます。顔が思い浮かびませんか。あるいは、自分がそうだ、という方もいるかもしれません。

 彼らは「拡散性」が高い人たちで、未知の領域に本能的にひかれる性質を持っています。保全性が高い人とは対照的に、興味のあることに迷いなく飛び込んでいけるのです。

 そんな拡散性が高い人の出現率は、日本ではおよそ3割。

 保全性が高い人からすれば、憧れの存在であると同時に、己のふがいなさをいや応なしに意識させられる相手なのです。逆に、拡散性の高い人から、多数派である保全性の高い人を見ると、「こんなに面白そうなのに、なんで動かないんだ?」と疑問に思ってしまうのです。

ソニーやホンダでも活用中

 「なるほど、そんな気もするけれど、そもそも『保全性』『拡散性』って、何なの? 性格診断とか、もしかして占いの一種?」

 と、思われたでしょうか。ご説明しましょう。

 我々ヒューマンロジック研究所は、5つの因子とストレスで、その人固有の個性(思考行動パターン)を数値化する「FFS理論」(開発者:小林 惠智博士)によって、その人の潜在的な強みを客観的に把握し、企業や組織の生産性向上を目指してきました。

 この手法を取り入れた企業は、ソニーやホンダ、リクルートなどをはじめ、すでに800社以上。80万人以上の社員や個人に対してFFS理論に基づく個性診断を行い、自己理解と他者理解の促進、および相互理解に基づいたコミュニケーションや育成法をアドバイスしています。

 FFS理論とは、Five Factors and Stressの頭文字を取ったもので、思考行動パターンの5つの因子は、凝縮性、受容性、弁別性、拡散性、保全性。これらの因子は、その人の生まれ持った気質に関わる因子(先天的な因子=気質)と、生まれ育った環境に影響される因子(後天的な因子)に分けることができ、前者は拡散性と保全性、後者は凝縮性、受容性、弁別性です。人によって、特定の因子が高く出る場合と、複数の因子がそろって高く出る場合がありますが、いずれにしても因子の組み合わせとその高低によって、その人が持つ潜在的な強みを客観的に把握することができます(詳しい解説はこちら)。

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