一匹オオカミにはこういうアプローチを
「拡散性」の高い人が部下や同僚にいるなら、彼らの強みを活かす形で、逆に「利用する」くらいのアプローチを採ってみてはどうでしょうか。
というのも、彼らは、新しい発想や取り組みを起案したり、推進したりするには、最高に適した人材です。一番力を発揮するのは、新規プロジェクトです。異質な個性同士が補完するチーム編成(これも、FFS理論が力を発揮する場面です)に組み入れるとよいでしょう。
「拡散性」の高い人は、自在に動き回る個性だからこそ、新しい発想やゼロベース発想が得意です。会議ではブレストを好みます。アイデアを創発したいのです。
そのとき、猛獣使いになるあなた、そして周りの人がやってはいけないのは、「それは無理なんじゃない?」などと制約条件を付けることです。自由に考えたり動いたりできないことが、彼らにはストレスの原因になるのです。彼らの強みを引き出すには、「それ面白いね!」「じゃあ、こんなこともできるんじゃない?」と触発してください。そうすれば、発想がどんどん広がります。
ただし、アイデアを絞り込み、具体的なプランに落とし込むのは苦手です。そこからは体系化を得意とする「保全性」の高い人がサポートしてください。
また、スタートダッシュも、「拡散性」の高い人が得意とするところです。車の部品に例えると「点火(イグニッション)装置」、スパークプラグです。火花を飛ばし、燃料と空気に着火して、エンジンをかけることが彼らの役目です。
これこそまさに、慎重な「保全性」の高い人たちが苦手とする部分でしょう。「拡散性」の強みが「保全性」の弱みを補完することで、「保全性」の高い人の負担が軽くなり、プロジェクトもどんどん前に進むのです。
物事がうまく回り始め、ある程度先が読めてくると、「拡散性」の高い人は興味を失うことがあります。そのときは、別のプロジェクトを担当してもらうのが本当はお互いに得策です。ただし、「プロジェクトが実現する世界観」に興味を持ち続けることができれば、情熱を継続させることも可能です。彼らの興味をかきたてるような仕事の意味付けや割り振りが、猛獣使いには求められます。
さて、そうはいっても、決まり切った仕事が避けられない総務や経理部門もありますよね。
こういう部署で、一匹オオカミ型の人材を預かってしまった保全性の高い管理職の方はどうすべきでしょうか。理想的なのは、チームを活性化させる触媒役として個性を存分に発揮してもらうことです。ルーティンワークであっても、“進化させる”ことは可能で、そこにはちゃんと面白さが存在すること、“裏方部門だから組織を根幹から動かせる”という意識を持たせることで、興味を引き出しましょう。
「自分一人」の限界も学ぶ
「拡散性」の高い方にも一言。
自分だけで完結できる仕事ならまだしも、大きなプロジェクトを担いたいなら、仲間の存在が必要です。いつまでも“一人親方”的な働き方では、活躍の場は広がりません。
自分だけでは大きな仕事にはならない。そのことを理解し、チームで動くことを学んでこそ、一匹オオカミとしての個性が活きてきます。
最後に、NASAを去ったヒビトについて触れておくと、彼が向かった先はロシアでした。
コスモノート(ロシアの宇宙飛行士のこと)になって、再び宇宙を目指す道を選んだのです。
ロシアで訓練を始めた当初、NASA出身のよそ者と見られたヒビトはロシア人宇宙飛行士たちから孤立し、まさしく一匹オオカミ状態でした。しかし、あるとき、「一人で宇宙に行くわけじゃないしな」と思って、ロシア人たちの輪に飛び込んでいったことをきっかけに、距離が縮まっていきます。
「ロシアに飛び込め ヒビト」
無愛想だけど温かい同僚に促されて、ロシア宇宙飛行士の“伝統”に従い、氷の張る湖にダイブするヒビト。
そしてヒビトは、チームの中に入る意味を知り、感じていた孤独は、自らの思い込みによるものであることを知るのです。
「言葉足らず」の一匹オオカミに、このチームのために全力をささげよう、と思わせることができるリーダーが、1人でも多く現れるように祈っています。本連載と単行本も、そのお力になれたら幸いです。
© Chuya Koyama/Kodansha(構成:前田 はるみ)
あなたの知らない あなたの強み

個人の力を引き出し、チーム全体の歯車をかみ合わせるために、ソニー、ホンダ、LINEなど約800社が採用する「FFS理論」。
FFS理論の視点から人気コミック「宇宙兄弟」の名シーンを読んでいくことで、
「自分の知らなかった自分自身の強み、その活かし方」
「他人の個性を理解する手がかりの見つけ方」
「チームの力の引き出し方」
が、どんどんインプットされていきます。
本書購読者限定の「Web診断アクセスコード」が付いているので、自分の強み、弱み、そして自分に近い宇宙兄弟のキャラクターが分かります。ぜひお試しください。(amazonへのリンクはこちら、多くのご注文をいただき、6月11日12時現在一時的に品切れとなりました。現在大量増刷中で、随時入荷する予定です。申しわけございません)
(※書店では2020年6月15日発売予定です)
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「「一歩踏み出せない」あなたをエースにする方法」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?