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 ヒビトが出した結論は、「NASAを去る」でした。NASAという組織が足かせになっているなら、その組織を去るのです。ただし、宇宙飛行士を辞めるわけではありません。

 椅子が1つしかないとき、「保全性」の高い人は、椅子の取り合いになる傾向があります。これについては、「『分かり合える味方』が急に敵に回る瞬間」で触れた通りです。発想が内向きになる傾向があるため、既存の枠組みの中で解決しようとするからです。

 それに対して、「拡散性」の高い人は、目の前に椅子が1つしかなければ、外に出て、別の椅子を探しに行きます。発想が外に向かうため、椅子の取り合いにはなりません。

 目の前の道を進むのが難しいなら、他の道を選べばいい。
 目の前に壁が立ちはだかれば、回り道をして、壁を避ければいい。
 そういう発想だから、壁を壁とも思いません。

 夢に対してまっしぐら。興味がある限り、何とかしようと動きます。だから、「やりたい気持ちがあれば、必ずできる」と楽観的に思っているのです。

懐にズカズカ入っていく

 拡散性の高い人は、人間関係の築き方にも特徴があります。基本的に1人でいることを好みますが、興味を持った相手には真っすぐに近づいていきます。何の気もまわさずに、相手の懐の中へズカズカと入っていく感じです。当然、それを嫌がる人もいます。特に、「保全性」が第一因子の人は、「デリカシーがない」と感じるかもしれません。

 「保全性」の高い人は、自分が居心地よくいられる“仲間内”を大事にします。相手を仲間内に引き込む前に、「この人は仲間にしても大丈夫なのか」を確認したいので、少しずつ距離を詰めていくような手順を求めます。しかし、「拡散性」の高い人は自分の興味で動き、相手の気持ちなどお構いなしに、ズカズカと懐の中に入っていきます。それが、「保全性」の高い人には、「土足で踏み込んでくる」ように感じるのです。

 ヒビトの場合を見てみましょう。ヒビトが尊敬する先輩宇宙飛行士に、吾妻滝生(アズマ)がいます。彼は、日本人では最長の船外活動時間記録を持つベテラン宇宙飛行士です。ただ、寡黙で口数が少なく、表情が「怒っている」ように見えるため、近づき難いと周りからは思われていました。そんなアズマをヒビトが尊敬するようになったのは、アズマの記者会見がきっかけでした。

 「笑顔がなく、コメントも堅苦しい」。これがムッタをはじめ、この記者会見を見た人たちの一般的な感想でしたが、ヒビトは違いました。38万キロ離れた月から見た地球を「近所」と表現したアズマに、単純に興味を持ったのです。

 ヒビトは、アズマと話をしてみたいと思ったのでしょう。アズマがいつも1人で野球のボールを壁に当てて遊んでいる屋上にやってきます。マンガでごらんください。

5巻 #48「マッハの弟」

 相手に興味を持ったら、素直に私心なく近づいていきます。これを「ズカズカとこちらの領域に入り込んでくる」と感じる人がいる一方で、そうした素直で私心がない振る舞いを「自然体」と感じて、「面白い奴だなぁ」と捉えてくれる相手もいます。ヒビトの態度に、「受け入れてもらえるだろうか」とか、「仲良くなれるだろうか」といった不安や気負いがないため、逆に相手の興味を引くのです。アズマもそう感じたのでした。アズマは、積み上げてきた経験値が高く、人に対する目利きも優れています。自分を利用するつもりの相手かどうかは、話せばすぐに分かったはずです。自分に興味を持って近づいてきたヒビトのことを、私心のない相手と判断し、認めたのです。

「チームでこそ」の、一匹オオカミの活かし方とは

 ここまでの話をまとめると、「拡散性」の高い人は、興味があることに対して、すぐ、周りを気にせず動きます。

 また、「オンリーワン」の発想ですから、誰も成し得ないことに挑戦したくなります。そのため、何人かで一緒にやろうとすれば、それを足かせと感じたり、邪魔くさいと思ったりします。「みんなと一緒」の発想は、「拡散性」の高い人にとっては窮屈なのです。

 また、「拡散性」の高い人の仕事の進め方は、計画的ではありません。思いついたら動く、とりあえずやりながら考える、というスタイルですから、自在に動ける環境の方が楽ですし、成功する確率は高くなります。

 一方で、飽きっぽい面もあります。

 山登りで言えば、最初は山頂を目指して意気揚々と登りますが、かなり遠くでも頂上が見えてくると、隣の山に興味が移ることが時々あります。「もう登れる」と思った途端、「登頂したも同然」と感じ、「誰でも登れそう」な山には興味がうせてしまうのです。そして、「誰も注目していない山はどれ?」と、違う山に気持ちが向かいます。「達成する」こと自体には、あまり意味を見いださないのです。

 一歩一歩着実に登り続け、頂上に到達したことを自信につなげて成長のエンジンにする「保全性」とは、まるで逆の感覚です。
 そんな「保全性」の高い人にとって、一匹オオカミ型の人材は扱いにくい存在かもしれません。

 しかし、意図して和をかき乱そうとか、相手を困らせようと思ってそのように振る舞っているわけではないことは、理解してあげるべきでしょう。