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 例えば、「次回のミーティングの後、親睦を深めるためにみんなで飲みに行こうという話が出ているんだけど、どうですか?」と誘っても、「いや、私は結構です」と素っ気ない態度をとる人です。本人にすれば、意図して和をかき乱しているわけではないようです。それでも、結果的にはかき乱したことを反省しているかというと、そうでもありません。

 それって、どういうことなのか? そもそも、「和を大事にしよう」という発想が本人にはないからです。

なぜストレスを感じるのか

 協調性を重んじる人(「受容性」「保全性」の持ち味です)にとって、一人で好きなように動き回ろうとする人の言動は、不可解に思えることでしょう。自分勝手に見えて、戸惑いやいら立ちを感じたとしても無理はありません。

 繰り返しになりますが、個性によって言動やその裏の心理は異なります。お互いの個性を知って、なぜ相手がそのような言動をするのかが理解できれば、相手に対する誤解が解け、苦手意識も薄まり、その結果、よりスムーズなコミュニケーションとチームの生産性向上につながる。そう私たちは考えています。

 猛獣使いの第一歩、入門編として、「職場の和を乱す」「身勝手な人」が、そのように振る舞う理由を明らかにし、そのような人に対してどう接するのがよいかを、協調性を特に重んじる「保全性」が高い人の視点から考えてみましょう。

 「保全性」の高い人は、自分の内に知識や経験を積み上げて、体系化することで、自分の周りを居心地よくしようとします。自分の内側を充実させながら、心地よい場所(自分の枠組み)を少しずつ広げていくのです。ただし、未知の分野に飛び出すことは苦手で、慎重になります。つまり、「保全性」は「内向的」な性質が強い因子なのです。

 今いる場所を居心地よくするには、周りの人ともうまくやっていく必要があります。

 そのため、「保全性」の高い人は、仲間をたくさんつくって、「枠の内」に入れようとします。まさに「仲間内」の状態にしていくのです。仲間とうまくやっていくために、周りからどう見られているかはすごく気になります。これが周りの人との協調性を重んじる心理です。

 一方、「拡散性」は、「自らを拡張・発展させようとする力」の源泉となる因子です。「内向的」な性質の強い「保全性」に対して、「拡散性」は「外向的」な性質を強く持ちます。ここで注意したいのは、「外向」とは、人と交わることを意味する「外交」とは違い、「外に向かう」という意味だということです。

 「拡散性」の高い人は、自分の内に経験を積み上げるよりも、外に向かって様々な方向へ、それこそ、飛び出すというより「飛び散っていく」くらいの勢いで出ていくことで、問題を解決しようとします。未知の分野に飛び込むことも平気です。そんなときに、協調が求められる“仲間内”は、束縛と感じられるのです。

 「人と交わることで自由が奪われるくらいなら、一人で自由に動き回りたい」

 ですので、他人からどう思われているかについても無頓着です。どちらかと言えばマイペースで、“自分勝手”な人に見えるのも無理はありません。

 いわゆる「一匹オオカミ」という表現は、「拡散性」の高い人の特徴をズバリ言い当てています。なんだか猛獣っぽくなってきましたね。

 「拡散性」の高い人は、「自分には友達はいない」と平気で言います。積極的で開放的な面があるからか、友達が多い印象を持たれますが、違うのです。「一人が気楽でいい」と思っています。むしろ、仲間や友達をたくさんつくりたがるのは、「保全性」の高い人です。

出世に興味がない分扱いにくい

 「拡散性」の高い部下には、こんなふうに手を焼くこともあります。

 部下の働きを評価して要職に就けたのに、本人は逆にやる気をなくし、毎日ため息ばかりついている。あるいは、本人のためを思って現場から本部に呼び戻したのに、まったく“ありがたがられない”……。

 一般的に、管理職や要職に抜てきされて、出世コースを歩むのは喜ばしいことかもしれません。あるいは、暇な部署への異動で、毎日定時に帰れる生活に満足する人もいるでしょう。しかし、「拡散性」の高い人は、仕事がラクになるとか、出世するといったことへの興味がありません。

 『宇宙兄弟』の南波日々人(ヒビト)は、まさにそんなタイプです。すでに一度取り上げていますが(「『興味ないんで』と言い放つ部下をどうしよう」)、もう一度彼を題材にして、「拡散性」の高い人を見ていきましょう。

 ヒビトは、「宇宙飛行士になる」という幼い頃からの兄弟の夢に向かって、わき目もふらず突っ走ってきました。実現可能かどうかを気に掛けないその行動力に「拡散性」の高さが見て取れます。持ち前の奔放さと突破力で、兄よりも先に宇宙飛行士になり、日本人で初めて月面に降り立ちました。

 しかし、月面で生死をさまよう大事故に遭い、その影響でパニック障害を発症します。宇宙服を着ると呼吸困難に襲われるのです。これによって宇宙飛行士の任務から外され、人生で初めて大きな挫折を味わいます。