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 このこだわりの強さを見る限り、溝口は「凝縮性」も相当に高そうです。「凝縮性」は、「こうであるべき」といった考え方をグッと固めていく力のことです。溝口はおそらく、「凝縮性」が第一因子(最も数値の高い因子)と推察できます(凝縮性については「『お前、もういいよ』と部下に言う上司の心中は?」を)。

 溝口は、場を仕切ろうとするケンジをライバル視して、ケンジの足を引っ張ろうとします。一方のケンジは、点数制を採用したことでチームの雰囲気が冷えていくことに疑問を感じ、メンバーが打ち解け合える方法を見つけようとします。しかし、ケンジに対する溝口のライバル心は一向に収まりません。

 結局、B班は点数の高い2人を選びます。

 ここで、この意思決定の質について考えてみたいと思います。

 点数の高さは、一見して「総合力の高さ」を示しているようにも思えますが、実は「課題対応力が高い」ことしか示していません。
 「テストの点が高い人がリーダーだ」という決め方に似ています。

 彼らに与えられた課題は、「全員一致のもと、宇宙飛行士にふさわしい2人を選ぶ」ことです。「宇宙飛行士にふさわしいかどうか」は、点数だけでは測れない要素があるはずです。それを見過ごしてしまう恐れがある点数制は、この場合、「質の高い意思決定」とは言えない、と私たちは考えます。

 A班とB班の意思決定を比較すると、意思決定にはリーダーの個性が反映されることが分かると思います。この場合、溝口とムッタが各班のリーダーと仮定し、2人の第一因子で比較すると、溝口は「凝縮性」が高く、ムッタは「受容性」が高いタイプに分類できます。

 「凝縮性」の高いリーダーは、物事に対してこだわりがあり、価値観も明確なので、自分の信念に沿ってブレずに推進することができます。決断力があります。
 しかし、こだわりの中身によっては、偏狭さが生まれてしまいます。

 溝口は、点数が上位だったために選ばれますが、その後の現役宇宙飛行士による最終面接で、落とされてしまいます。

 現役飛行士が候補者を判断する基準は、「目の前のやつと宇宙で生活を送っていけそうか。自分の命をこいつに預けることができるか」でした。チームメンバーにまったく関心を持たなかった溝口は、現役飛行士に「彼はどんな人?」とメンバーについて聞かれても、「知らない」と平然と答えたのです。

 一方、ムッタはジャンケンでは負けるのですが、JAXAの審査員による選考で選ばれ、最終面接に進みます。

 後日、同じチームで最年長メンバーだった福田さん(福田直人)から、「私にもチャンスをくれたことに感謝している」と言葉をかけられます。2人の選出をジャンケンという“運任せ”にしたことで、年齢でハンディを持つ福田さんにも等しくチャンスが与えられたことへの感謝の言葉でした。福田さんは言います。

 「こういう人が選ばれるのかもしれない。そんな気がしていたんだよ。おめでとう」

 

 こうしてムッタは、周囲を気遣う「受容性」の強みを生かし、仲間が認めるリーダーへと成長していくのです。

受容性の強みを生かすリーダーシップ

 以前、学生時代に潰れかけたサークルのリーダーになり、1年かけて立て直しを実現した「受容性」の高い若者の話を聞きました。

 「僕は不器用で、グイグイ引っ張るタイプではないのですが、一人ひとりと話をすることならできると思ってやり抜きました。すると皆がサークルに戻ってきてくれて、存続することができたのです」

 その経験から、「自分の強みは人の話を聞き、時間をかけてでもやりたい気持ちにさせて、皆を同じ方向に向かせること」だと理解したようです。「受容性」の高いリーダーが手本とすべき、一つの意思決定のスタイルと言えるでしょう。

 「受容性」の高い人の意思決定は、同意に基づきます。全員が同じ気持ちになれば、それを受け容れることで自然と決まります。「何となく決まる」。これでいいのです。

 皆の気持ちを推し量り、気遣える人なのですから、エイやと決める意思決定は不向きです。一人ひとりの気持ちをくんでしまうために、「ごめんね」と心の中で呟きながら、心を痛めるまで無理する……そんな必要はありません。「決めなくてもいい」のです。

 もちろん、だらだらと決定を先延ばしするのでは仕事になりません。
 自らの強みを生かしながら決断そのために「受容性」の高い人が学ぶべきは、同意のプロセス運営です。