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 話し合いで決めるなら、各メンバーの「弱点」を突く消去法にならざるを得ません。

 「弱点」を抱えているメンバーは悩みます。
 「自分は年齢が高い(宇宙飛行士としての寿命が短い)」
 「私だけ、研究のために宇宙に行きたいと思っている(目的意識の違い)」
 また「そこ(メンバーの弱点)を指摘できる非情な決断を求められているのではないか」と、ムッタも悩みます。

 他にいいやり方が見つからず、“話し合い”という名の消去法に決まりかけたとき……。

 ムッタが提案したのは、「ジャンケン」でした。
 こんな大事なことを決めるのに、ジャンケン? と意表を突かれた方も多いでしょう。

5巻 #39「グーとチョキとパー」

いいジャンケンと、ダメなジャンケンがある!?

 我々は、基本的には、ジャンケンを「ダメな意思決定」とみなしています。

 意思決定の質を評価するポイントは、意思決定に至るプロセスと、意思決定の内容の実行性です。つまり、議論が尽くされた上で合意に至り、しかもその決定に実効性がある意思決定を、「質が高い意思決定」として評価します。

 その点、ジャンケンは、「トコトン議論せず、結論も出せないし、合意点も見いだせていない。時間切れになり、安易な決定方法に逃げた結果」であることがほとんどです。これは、少数意見を切り捨てる多数決にも言えます。

 ところが、ムッタが提案したジャンケンは、そうではありませんでした。彼はこう考えました。

 「この2週間で、それぞれが能力を出し切った。この5人なら、誰が選ばれてもおかしくない。誰もが納得いく決め方がない以上、最も公平な決め方はジャンケンだ」

 以前、某H自動車メーカーには「H時間」と呼ばれるものがある、と聞いたことがあります。

 ミーティングの終了時間だけを決めておき、それまでトコトン議論して、時間がきたら多数決を取るというルールを決めておくのだそうです。

 安易に多数決という方法に逃げるならば、質の高い意思決定とは言えませんが、この会社のようにトコトン議論した末の多数決ならば、素晴らしい意思決定と言えます。

 その証拠に、採択されなかった側も、そこまで議論して相手の意見を覆せなかったことに納得して、決定したことに素直に同意できると言います。そして採択後は、全員が一致団結してすぐに動き出せる。その議論の深さと動き出す素早さを併せて、「H時間」と呼んでいるのです。

 ムッタが提案したジャンケンも、トコトンやり切った上でのジャンケンでした。その意味では「質の高い意思決定」と評価できるのです。

正しさより“楽しさ”を好むのが「受容性」

 何が正しい方法なのか、ムッタに確信があったわけではありません。むしろ、誰かを切り捨てなければならないと分かっていながら、ムッタはその非情さをどうしても持つことができませんでした。

 そんなときに思い出したのが、幼い頃から慕う女性天文学者、金田シャロンの言葉です。

5巻 #39「グーとチョキとパー」