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「決める」のが苦手な個性

 難しい意思決定をしなければならないときに、つい逃げ出したくなる。

 「ジャンケンで決められたらラクなのに……」

 そんなふうに感じたことのある人は、FFS理論でいうと、「受容性」と「保全性」の高い人と言えます。日本人のおよそ6割が、このタイプに当てはまります。

 FFS理論(開発者:小林 惠智博士、詳しくはこちら)は、5つの因子とストレスでその人の個性を数値化し、その人の潜在的な強みと弱みを客観的に把握するものです。5つの因子には、「凝縮性」「受容性」「弁別性」「拡散性」「保全性」があります。

 前述の「受容性」と「保全性」にはどのような特徴があるのか、連載でも取り上げてきましたが、改めて説明しましょう。

 「受容性」は、「受け容れる力」です。

 「受容性」の高い人は、周りの人を受け容れ、「周りの人が喜ぶことをしたい」と思っているので、誰かの意見を採用する一方で、誰かの意見を却下することを心苦しく感じます。皆の気持ちをおもんぱかるあまり、1つに決めきれないのは、「受容性」の高い人によく見られる傾向です。

 「保全性」は、「現状を維持しようとする力」です。

 「保全性」の高い人は、自分の周りを安心できる居心地のいい空間にするために、自分の味方と感じる人との仲間意識を強く持つ傾向があります。それゆえ、仲間との対立関係を好みません。対立が起きるような意思決定は避けたがる傾向があります。

 このことから分かるように、「受容性」と「保全性」は、何かを捨てる行為でもある“決断”とは相性がよくない因子です。従って、「受容性・保全性」の高い人が決断力を磨こうとするのは容易ではありません。

「強みで戦う」ヒント

 自分の強みではないところで戦おうとしても、辛いと感じてしまいます。
 それよりも、「受容性・保全性」の高い人ならではの、意思決定のやり方で立ち向かうべきだ。

 これが私たちの考え方です。

 そのヒントを与えてくれるのが、宇宙飛行士を目指す兄弟の成長を描いた漫画『宇宙兄弟』(小山宙哉作、講談社)です。

 主人公である兄・南波六太(ムッタ)は、この連載で度々取り上げてきたとおり、「受容性・保全性」が高いタイプと推測されます。周りの人に対する貢献や面倒見のよさは「受容性」の特徴ですし、物事を慎重に進めようとするところには「保全性」の特徴が表れています。

 つまり「決断が苦手」な主人公なのです。
 これも、『宇宙兄弟』の物語が持つ面白さ、新しさの一つかもしれません。

 決断が苦手、でも宇宙飛行士を目指すムッタは、様々な試練に直面し、その都度、厳しい選択を迫られます。しかし、スパっと決められる性質でないために、逃げ出したい気持ちになることも多いのです。

 それでも、自分の個性(特に「受容性」の強み)を生かした意思決定で乗り越えていきます。

 ムッタはどのように意思決定を行っていくのでしょうか。「受容性」の特性がプラスに発揮された場面を取り上げて、「受容性」を生かした意思決定の仕方を探っていきたいと思います。

誰が宇宙飛行士にふさわしいのか

 ムッタは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙飛行士選抜試験の3次審査に進みます。5人が1チーム(計3チーム)となって閉鎖環境で2週間の共同生活を送りながら、課題に取り組むという試験です。その様子は、監視カメラを通して審査員に観察されています。

 この試験の最大の難関が、「最終日に、全員一致のもと、宇宙飛行士にふさわしい者を5人の中から2人選ぶ」という課題でした。選び方は自由です。

 つまり、チームメンバーは、協力し合って課題に取り組む仲間であると同時に、互いにジャッジし合う敵同士になるのです。どんな方法なら全員一致で選べるのか、ムッタたちには非常に難しい意思決定が求められました(ただし、この方法で選ばれた候補者以外にも、JAXAが選ぶ数名も最終面接に残る可能性がある、という条件付きです)。

 また、試験期間中、わざとトラブルが仕掛けられて、チームワークが試される場面もありました。トラブル発生のたびに、メンバーは犯人探しをしてしまい、ギスギスした雰囲気が漂います。ムッタがいるA班も例外ではありませんでした。

 それでも、ムッタはメンバーを信じ、互いの融和を図ろうと動きました。積極的に人間関係を作っていこうとする行動からも、ムッタの「受容性」の高さが感じられます。メンバー同士の会話が増え、理解が進み、絆が深まっていったのは、ムッタの働きかけが大きかったと言えます。

 そして、ついに2人を選出する時がやってきます。