採用する人材は「4分類で何人ずつ」とあらかじめ決めている
セプテーニグループさんでは、求める人材がFFS理論によって定義できているので、採りたい人材を採りにいくことができる(=FFS理論のテストを受けてもらい、欲しいタイプの採用を図る)、というお話でした。しかし、人材のタイプが似通って、個性に偏りが出てしまう心配はないのでしょうか。
上野:とおっしゃいますと?
古野さんはよく、「組織は同質タイプ(FFS理論で同じ因子の人)がそろい過ぎるのもよくなくて、異質補完の関係が望ましい」という話をされていますよね。あるいは、採用する人材のタイプが同一化しないように、変数のようなものを意図的に差し込んでいたりしますか?
上野:我々の場合、パーソナリティを4つに分類し、人材ポートフォリオを作成しています。4タイプをそれぞれ何人ずつ採用するかを決めていて、それにのっとって採用しているので、人材の多様性はある程度担保されているんです。
人材ポートフォリオですか。どのようなタイプ分けを行っているのでしょう?
上野:2つの軸があって、1つは「攻め型」か「守り型」か。これはFFS理論で言うと、「拡散性」か「保全性」か、です。そしてもう1つは、「分析型(デジタル)」か「直感型(アナログ)」か。これはFFS理論で言うと、「弁別性」が高いのか、低いのか、で判断します。
●「保全性」の高い人(参考:「『果敢に飛び込んでいく人』を羨む必要はない」)
●「拡散性」の高い人(参考:「『興味ないんで』と言い放つ部下をどうしよう」)
●「弁別性」の高い人(参考:「褒めてくれない“冷たい上司”とストレスなく付き合うには」)
なるほど。この4タイプの採用比率は、おそらく4分の1ずつではないんでしょうね。
上野:はい、違います。その比率こそが、我々の“秘伝のタレ”といったところです(笑)。
そうやって、自社に必要な「採りたい人材」を明確に定義して、獲得しているんですね。
古野:それくらい緻密にパーソナリティの分布を設計する必要があるんです。面接官の勘だけに任せて採用すると、みんな似通ってしまうんですね。
上野:その通りです。
各タイプの採用比率は教えていただけないとして、では、どういうロジックで比率を考えられているんでしょうか。
上野:基本的な考えとしては、現組織の(4タイプの)分布の変遷を見ています。
あ、そうか。そういうことですね。
上野:それこそが会社の個性ですよね。そこに大きな変数を加えてもいいことはありません。
「今までこんな会社だったのに、今度はこっちに行くの?」という感じになるわけで。
古野:今の組織がうまく回っていれば、過不足を補充することはあっても、現分布を大きく変える必要はないですね。
会社の成長に合わせて、会社の個性も変わっていく
ということは、会社の個性、いわゆる「社風」をFFS理論で分析、言語化することもできそうですね。
上野:実は以前、会社のDNAをひもとくというプロジェクトを行ったことがあります。過去10年で、会社の個性がどう変わってきているか、事業や業績はどう変わってきているかを比べてみたことがあるんです。大きなトレンドとしては、会社の個性は少しずつ変わっていきます。未来もおおきな環境変化のない限りトレンドを前提に動く可能性は高いだろうという想定のもと、人材ポートフォリオを定義しています。
へえ……。ではセプテーニさんはどんな個性の会社なんでしょう?
上野:以前は、FFS理論的に言うと、積み重ねよりも即行動の、攻め型が社員の大半を占めていました。
古野:「拡散性」の高い人ばかり。ベンチャー企業、という感じですよね。
創造性に優れた人の多い会社。分かる気がします。
古野:ただ、攻め型の人材だけでは、事業の立ち上げはうまくいっても、事業を運営していくことができません。事業を大きくしていくには、データ化したり、仕組み化したりするマネジメント型の人を増やしていく必要があります。
「保全性」や「弁別性」の高い人も必要だ、ということですね。
上野:もちろんです。現在では業容も広くなっていますので、どのようなタイプであっても活躍しやすい環境は整っています。
一定割合「イノベーション人材枠」に割く
ちょっと余談ですが、“伝説の新入社員”のような存在がどの会社にもいると思うんですよ。周りからは「何考えてるんだ? こいつ」と嫌がられるけれど、いい意味で大きなことをしでかす人。
古野:いますね。
上野:いますよね。
そういう“磨けば光る”人も、この人材ポートフォリオで採用できるんですか?
上野:それは意識して採用しています。「イノベーション人材」という枠で、全体の一定割合を充てています。
そういう人たちは、 FFS理論の因子で言うと、こだわりの強い「凝縮性」ですか?
●「凝縮性」の高い人(参考:「『お前、もういいよ』と部下に言う上司の心中は?」)
上野:もちろん、「凝縮性」も大事だと思います。それと、根拠のない自信(笑)。時々、「根拠のない自信家」っていますよね。ゼロから何かを作るには、そういうものが必要だと個人的には解釈しています。
古野:イノベーション人材はセプテーニさんにも何人も存在しています。そのような決断力があって、業界の常識を変えていくような突破力がある方々が。結果的に変えていきましたからね。
「新大陸はこっちだ!」と言って、船に乗って出ていくような人ですね。
上野:そうですね。
その意味では、我々の会社は普通の枠には収まり切らない人材を受容するキャパシティは深いように思いますね。イノベーション人材枠で採用する人って、面接→選考という一般的な採用のプロセスでは残らないことが多いように思います。
それはどうしてかというと?
上野:とにかく生意気すぎて、採用市場では理解されづらい(笑)。
わはは、やはり(笑)。
古野:面接官は、どうしても自分と似たタイプの学生に共感を覚えて、採用したがるでしょ。日本人に多いのは、「受容性」と「保全性」です。面接官に多いのも、圧倒的にこの2つです。だから、日本人ではレアな「凝縮性」と「拡散性」は人気がないわけです。人材としては面白いのにね。僕も「拡散性」「凝縮性」「弁別性」が高い個性なので、面接では散々落とされました。若かりし頃の苦い記憶です。
参考:「『理解できない学生』を採用できない人事の罪」
理解されにくい因子が3つ、全部そろっていたんですね……。
上野:そうそう。だから、我々が設けているイノベーション人材枠というのも、「こういうタイプをイノベーション人材として採用したい」と定義して、それに合致する人をあえて採りにいくわけです。
そうしてイノベーション人材が入社してきたら、当然FFS理論で、その「生意気な、分かりにくい」人を御すことができる因子を持つ上司の下につけるんですね?
上野:そうですね。そして最終的には、社内ベンチャーのような自ら新しい価値を創造する仕事を趣向するケースが多いですね。
学生とのコミュニケーションには共通言語が必要
しかし、学生さんの中には「勝手に診断されて、判断されている」と、不満を感じる人もいるのではないですか?
上野:いやいや、むしろ我々は、学生に対して採用メッセージを伝える際にも、FFS理論を使って説明しているんです。つまり、職場の人間関係や仕事との相性を重視し、自分たちで育てられる人を採用します、そのためにこういう理論を使います、というメッセージです。(詳しくは第1回を参照)
じゃぁ、FFS理論を共通言語にして、学生とコミュニケーションを取っているんですね。
上野:そうです。
古野:セプテーニグループさんの採用活動って、採用するかしないかは関係なく、学生に対して「自己理解をしましょうね」という機会提供の場なんです。
それは、学生さんにはなんというか、お得ですね。
上野:そうなんです。就活で最初に何を求められるかといったら、「自己分析」ですよね。
はい。でも、「自己分析って何かうさんくさいな」、と実は思っていました。
上野:学生も何をすればいいのか困りますよね。そういう学生向けに、自分を知るためのインターンプログラムをオンラインで提供しているんです。質問に答えていくと、分析結果が出て、それで自己分析が完了します。
それが、FFS診断?
古野:そう。学生は、自分のタイプを知れるだけでなく、「このタイプは就活でこんなアピールをするといいよ」ということまで教えてもらえる。もちろん、セプテーニさんはボランティアです。ただ、その中で「セプテーニという会社はいい会社だな」と感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
上野:その後、当社に興味を持っていただいた方、採用の考え方に共感いただいた方にはエントリーしていただいて、面接とセミナーをオンラインで1回ずつ行って、内定もオンラインで出します。採用プロセスがオンラインで完結するので、もう学生にご足労願う必然性がないんです。
おおっ、そうなんですか!?
古野:コロナになったからじゃないんですよ。
じゃないんですか? 私はてっきりそう思っていたんですが。
上野:違います。もっと前から始めていました。今は我々が採りたい人物は定義できているので、FFS理論のテクノロジーとインターネットの力を活用すれば、直接会わなくても欲しい人を採用できるんです。その結果、地方の学生の内定者が増えて、最近では首都圏外の学生が内定者の半分を超えました。
古野:地方の優秀な学生が獲得しやすくなった。
これまで物理的な距離が障害だった地方の学生にも、チャンスが広がったわけですね。就活のために東京まで出て行くのは大変ですからね。
FFS理論に基づく人材評価 VS 面接官による評価
上野:それともう一つ。オンラインでFFS理論のテクノロジーを活用して採用したほうが、面接官の判断に委ねるよりも、精度が高いことが分かったんです。
えっ。
古野:それはさっき言ったように、普通は面接官の好き嫌いが絡むからですね。「あいつ気に入ったから、採用しよう」とかね。人はどうしても、自分と似たタイプの人を高く評価する傾向があります。
上野:そうなんです。これを見てください。面接官とAI(FFS理論をベースに設計したアルゴリズム)が評価した人材が、入社1年後にどれくらい戦力化したかを比較した表です。一番いい評価から順に、S、A、Bとなっています。
上野:ご覧のとおり、面接官がSと評価した人材のうち7割が戦力化しているのに対し、AIがSと評価した人材は8割が戦力化しています。
ほう。
上野:この比較ではあまり差がないように思われるかもしれません。それで、面接官ごとに分解すると、こうなります。
なるほど、面接する人によってこれだけ差が出るんですね。
上野:つまり、この面接官Aは優秀なんですけど、面接官Cの評価は当てになりません。戦力化をKPIとしたときに、このばらつきがバイアスになるわけです。
それだけじゃなく、面接官としての適性に問題があることも分かっちゃう(笑)。
古野:そういうことです。でも実際には、多くの企業は人材が戦力化されたかどうかを検証していません。ですから、あの役員の採用面接は「よかった」のか「悪かった」のかの判断ができないんです。
なんとなく想像はついても、証拠がない。
古野:面接官だけではありません。どういう人材を採用し、どう育てるかをそもそも設計していません。採用が悪かったのか、面接官が悪かったのか、育成が悪かったのかも分かりません。犯人捜しができないようになっているんです。いい意味でも、悪い意味でも、ですね。
企業が面接で見極めるべきは「再現性」
上野:一つ補足しておきたいのですが、我々の採用はすべてAIが決めているわけではありません。AIの評価が50%、面接官の評価が50%です。
A Iの評価と人間の評価が等価なんですね。
上野:はい。そのうえで、最終的には人が決めています。当社ではデータの扱いについては、デジタルHRガイドラインを定めており、これにのっとった運用をしています。
余談ですが、我々の面接では、志望動機は一切聞きません。だから学生には、「志望動機は考えなくていい」と事前に伝えています。
かっこいいなぁ(笑)。でも、なぜですか。
上野:だって、多くが同じことを言うじゃないですか。御社の理念に共鳴しました、とか、この事業は伸びそうです、とか。それよりも、面接では我々が聞きたいことを聞くから、自己PRも考えないでおくれと。
考えるだけムダだと。じゃぁ、面接ではどんなことを聞くんですか?
上野:我々は、FFS診断での分析結果をもとに、その人の戦力化を予測します。その人が戦力化されるのに必要なことは、本人の個性を構成する因子の強みが発揮されたときです。ですから、面接でも、過去にその因子で発揮すべきパフォーマンスを発揮してきたか、を聞きます。
なるほど。その人の個性に応じた「らしさ」を発揮してきたかどうか、ということですね。
古野:FFS理論を導入していただいている企業に対しては、「面接では自己理解に紐づくエピソードを聞きましょう」とお伝えしています。なぜかといえば、大事なのは再現性だからです。
その人の個性を構成する因子が違えば、強みも違います。例えば、「拡散性」の高い人は攻めるのが得意だし、「保全性」の高い人は守るのが得意です。そういった自分の強みを知っている人や、強みを活かして成功した体験のある人は、再び窮地に陥っても自分の強みを活かして乗り越えることができるはずなんです。
自分の武器は何かを知っていれば、いざという時にパッと取り出すことができる。その人の実績に再現性があるかどうかは「自分の因子に基づいた武器を使って、成功した実体験があるかどうか」で予測できるわけですね。
古野:そうです。「過去にこんな出来事があったときに、自分はこうやって乗り越えました」と話す学生がいたとしたら、面接官は本人のFFS診断結果を知っていますから、「ああ、そうだよね。それは君の強みだもんね」と。そういう学生に対しては、「うちに入社して、壁にぶつかっても、同じように乗り越えていけますね。大丈夫ですね」と評価できるというわけです。
(第3回に続きます)
© Chuya Koyama/Kodansha(構成:前田 はるみ)
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宇宙兄弟とFFS理論で学ぶ、個性の把握とその活かし方
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時間:10:00~18:00 ※開場9:30予定
場所:東京・御茶ノ水トライエッジカンファレンス
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