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 「東西のウイスキーづくりのノウハウを融合した。全く新しいウイスキー」。今年3月7日、米ニューヨーク。サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長は日米合作のウイスキー「リージェント」の投入を発表した。性格は明るいが顔つきは厳しいと言われる新浪氏。この日、ずっと頬が緩んでいたのはなぜか。

 リージェントは傘下の米蒸留酒大手ビームサントリー(旧ビーム)との共同開発品だ。サントリーはビームと共同でジンやウオッカを次々に開発してきたが、ウイスキーは原酒を樽でしっかり熟成する必要がある。日米で製法が異なり、技術の融合が難しいとされたウイスキーで合作品を仕上げたことは、買収したビームとの統合にめどを付けた象徴と社内外で受け止められた。

日米合作の「リージェント」。新浪氏は両社統合の象徴と考えている

 サントリーHDがビームを買収したのは2014年5月1日だった。160億ドル(当時のレートで約1兆6500億円)の巨費を投じ、世界で最も売れているバーボン・ウイスキー「ジム・ビーム」のほか「メーカーズマーク」「ラフロイグ」などの著名ブランドを手に入れると、社名をビームサントリーに改めた。

 それまでもグローバル化に手をこまぬいていたわけではない。1996年からは上海を中心に中国のビール事業を本格化していた。しかし現地では世界大手の英SABミラー(当時)など海外資本との競争激化で収益が悪化し、ビールでは世界の市場を押さえられないことが分かってきた。ウイスキーに比べてかさばるビールは地産地消が基本で利幅も薄い。事業規模や資本力の勝負になる。

 一方、スピリッツ(蒸留酒)のウイスキーであれば、「ジャパニーズ」ならではの多様な原酒を組み合わせて多彩な商品を造り分ける高度なブレンド技術が生かせる。知名度が高く、200以上の国と地域に販路を持つビームのインフラとノウハウを使えば、競争力を掛け算にできるはず。サントリーは買収資金をメインバンクからの借り入れで賄い、純有利子負債は最大1兆6000億円に達した。長く実質無借金経営を続けてきたサントリーは、この買収に文字通り会社の命運を賭けていた。

 決断したのは創業家出身の4代目社長、佐治信忠氏。14年5月15日、都内のホテルで記者会見に臨むと、ビーム買収に懸ける思いを語った。

 「昨年(13年)、上場を果たしたサントリー食品インターナショナル社がグローバル化を確実に進めているのに対し、残念ながらサントリー酒類(蒸留酒、ビール、ワインなどの酒類事業)は遅れており、これを実現することが喫緊の課題でした。ビーム社との統合が最後の、そして唯一のチャンスであり、それをこのように実現できたことをうれしく思っております」