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 IMDの調査は「経済のパフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の4項目が主な判断基準で、順に日本は16位、38位、46位、15位だった。ビジネスの効率性、つまり企業の生産性と競争力が足を引っ張っていることは明らかだ。ではその原因は何か。IMDの日本に対する提言は明確だ。

 「Work-style reform and human resources development(働き方改革と同時並行で、人材開発を一層進める必要がある)」――。

 では、日本がIMDの競争力ランキングで1位の座を奪い返すために育成を強化すべきなのは、どのような人材か。そのヒントとなるのが、経済協力開発機構(OECD)による学習到達度調査PISA(ピサ)の成人版PIAAC(ピアック)だ。16歳から65歳の成人で24カ国・地域に居住する約15万7000人を対象にした最新の調査から導き出せる「日本が強化する余地のある人材」は次の3種だ。

  1. 仕事に最低限必要な「読解力」を持つ人材
  2. 仕事に最低限必要な「数的思考力」を持つ人材
  3. 仕事に最低限必要な「IT活用力」を持つ人材

 その程度の基本スキルは日本国民であれば現役世代の大半がとっくに身に付けていると思う人もいるかもしれない。だが、PIAACを見る限り、日本人の現役世代の27.7%は「日本語の読解力の習熟度がレベル2以下」に状況にあり、例えば「図書館の図書目録を指示通りに検索し、指定された書名の著者を検索できない」可能性が高い。

天才よりも「普通の人材」が不足している

 数的思考力でも36.3%がやはり「習熟度レベル2以下」で、例えば「立体図を見ながら、その立体を分解すればどんな平面図になるか想像できない」恐れが強い。さらに、ITを活用した問題解決能力でも53.6%が「習熟度レベル2以下」で、「届いた電子メールの文面から必要な情報を読み取り、会議室予約を代行することが難しい」可能性がある。

 製造業であれ小売業であれ、上司からの指示やマニュアルの意味を理解し、顧客と円満な関係を築くには「相手の言葉を理解する読解力」が欠かせない。生産ラインであれ営業現場であれ、計画を円滑に進めるには「時間や生産量を管理する数的思考力」が不可欠だ。IT化が進むオフィスで「IT活用力」が大切なのは言うまでもない。

 もっとも、厳しい数字が並ぶPIAACだが、国際比較をすると日本の状況はさして悪くはない。例えば「読解力」で言えば、確かに10人に3人は習熟度は低いかもしれないが、平均点は296点とOECD平均(273点)を大きく上回り1位。つまり、日本も褒められたものではないが、他の国にはもっと母国語の読解力の低い人がたくさんいる。これをもってして「PIAACの結果は逆に日本の教育の質が高いことを示す証拠」との見方もある。

 だが教育に詳しい専門家ほど、こうした楽観論には否定的だ。

 日本は、日本で生まれ日本語を母語として育つ子供の割合が高く、移民の比率が高い国や多言語国家に比べ、「読解力」調査などではもともと圧倒的有利な立場にある。十分なハンディをもらっているにもかかわらず、10人中3人が読解力が低いという現実をむしろ深刻に受け止めるべきだ――というのがその理由だ。

「引き算を習う大人たち」が示す未来

 人材難による企業競争力の低下が指摘される日本。だが、企業の競争力を下げているのは、天才や異才の不足というより「企業の現場で、上司の指示を理解し効率よく正確に作業を遂行する普通の人材」の不足である可能性が見えてきた。

 だとすれば、要因の1つに「普通の人材になるための基本スキル」を国民に身に付けさせるはずの日本型教育の劣化があるのはおそらく間違いない。「社会に出てから引き算を習う大人たち」は、その兆候の1つでしかない。