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 世界的に見ても早く、明治期からスタートし100年以上の歴史を持つ日本の教育。とりわけ戦後70年以上、安定した平和と順調な経済発展の上に育まれた「日本型教育」は、国民にあまねく「全人的な学び」の場を提供できるシステムとして国際的にも評価されてきた。

 もちろん課題はある。例えば、平均的児童を対象にした画一的教育の結果、米国の飛び級のような「できる子がその才能を一段と伸ばす環境」に乏しいという批判はその1つ。最近は、「ギフテッド」(天から与えられた)と呼ばれるIQ130以上の子供たちが、優秀であるが故に周囲から疎外される「浮きこぼれ」が問題になりつつある。

 「天才や異才を育む仕組み」が日本の教育にない証としてよく取り沙汰されるのが学術論文の低迷だ。文部科学省の研究所はこのほど、世界から注目される論文の国別シェア(占有率)で、日本が05~07年の5位(3年間の平均)から15~17年(同)は9位へと低迷していることを公表。かつて「お家芸」とされた化学、材料科学、物理のシェア低下が目立つという。 

 それでもなお、多くの人は、「天才や異才を育てるのは苦手でも、社会で生き抜く必要最低限の知識をできるだけ多くの人に植え付ける」“均質性”の点では、日本の教育は世界トップクラスだろうと思っていたはずだ。「引き算」や「割り算」を学び直す大人たちの存在は、そうした楽観を根底から突き崩すといえる。

日本の競争力はついに世界30位まで転落

 日本の教育は、天才や異才だけでなく、簡単な数学的知識をはじめ「普通の人材になるための基本スキル」を国民に身に付けさせることも、実は、十分にできなくなりつつある――。そんな仮説が正しければ、事は学術論文の数が減るどころでは済まされず、日本企業の競争力そのものにも当然、影響を及ぼす。

 その懸念は既に顕在化しつつある。

 世界の政財界トップによって構成される「ダボス会議」で知られるスイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」は10月9日、19年の国際競争力ランキングを発表。それによると日本は141カ国・地域中で6位と、前年の5位から総合順位を1つ落とした。 

 今年5月には、日本企業の生産性や国際競争力に関するよりショッキングなリポートが報告されている。同じスイスの有力ビジネススクールIMDの「2019年版世界競争力ランキング」がそれだ。

 これによると、日本の総合順位は30位。比較可能な1997年以降では過去最低で、シンガポール(1位)、香港(2位)などの背中はほど遠く、中国(14位)やタイ(25位)、韓国(28位)をも下回った。かつて日本が1989年から4年連続で世界1位を記録していた同調査だけに、その没落がうかがえる。