新入生の2~3割がうつの症状を抱えているというほど、香港の若者たちを追い詰めているものは何なのでしょうか。

 色々な原因が考えられます。家庭の問題もありますし、社会の問題もあるでしょう。社会からの圧力には、見える圧力と見えない圧力があります。若者たちにとって見える圧力の最たるものは受験ですね。香港は大学入学率が低いのです。さらに、大学に入れたら出世して裕福になれるかと言われれば、それも容易ではない。香港の社会では、今若者が豊かになるのは難しいのです。

 また、香港は家の価格が世界一高い。若者はほとんど家が買えません。格差もひどい。香港は先進地域の中でおそらく最悪水準の格差問題があります。130万人ぐらいの香港人が貧困線以下にいる。月の収入が4500香港ドル(およそ6万2000円)ぐらいの人が結構います。

 私は、1999年に記者として最初の仕事を始めました。そのときの収入は月1万6000香港ドル(およそ22万2000円)でした。しかし現在、大学を出て記者として働き始めた若者の平均収入は1万1000~2000香港ドルぐらい(およそ15万2000~16万6000円)。増えるどころか減りました。香港ドルの価値が下落して物価が上がって、しかも給与の額面も減っている。これで将来に不安を持つなというのは無理な話です。

記者注:

 「香港は家の価格が世界一高い」という周の言葉は誇張ではない。ただしここで言っているのは地価それ自体ではない。住民の所得に対する不動産の価格が相対的に高い、つまり「住民には買いづらい」ということだ。米Demographia社は、主要都市の住宅価格の中央値を設定し、その値と平均年収との倍率を「住宅の買いやすさ/買いにくさ」の指標にしている。同調査の2019年版を見ると、香港は住宅価格の中央値が平均年収の20.9倍。買いにくさで群を抜いて首位にあり、しかも上昇傾向が続いている。なお、同じ指標でロンドン都心部は6.8倍、ニューヨークは5.5倍。これらの都市と比べて香港は、地価上昇の恩恵を受けている層と実際の住民との経済的な乖離(かいり)が大きいと言っていいだろう。

米Demographia社「15th Annual Demographia International Housing Affordability Survey: 2019」より
米Demographia社「15th Annual Demographia International Housing Affordability Survey: 2019」より

 格差については、世帯の所得格差を示すジニ係数(1に近づくほど格差が大きい)の推移を見ると、明らかに拡大していることが分かる。返還前の1997年には0.483だったが、2006年には0.5、2011年には0.537、2016年には0.539と上昇を続けている。これは過去45年で最悪の水準だ。なお、社会騒乱の多発を警戒するラインは0.4であるといわれ、0.539をそのラインから大きく超えたものとして報じる記事もあるが、絶対評価としては、年金などの社会保障を収入に組み込むなどの処理を施した係数を用いることが望ましい。香港政府が正式に発表したものはないが、NGOのオックスファムが香港政府が発表した統計をもとに試算したリポートによると、処理後のジニ係数は0.473。同様の手法で処理したジニ係数で、シンガポールは0.356、米国は0.391、英国は0.351となる。先進地域としては異常値と言っていいだろう。

 同リポートは貧困の実態も明らかにしている。レポートによると、所得が上位10%に含まれる世帯と下位10%に含まれる世帯を比較すると、所得の中央値は前者が後者の44倍と算出された。2006年の試算では34倍だった。貧困世帯は53万世帯で、そのうち30万世帯がワーキングプアの状態にある。貧困状態にある人数は130万人に及ぶ。一方で、所得上位にいる21人が抱える純資産総額は1.83兆香港ドル(およそ25兆4000億円)に上り、香港政府の財政規模に相当する、としている。

1997年以来、中国本土との経済の結びつきが強まりました。これが香港経済や社会にもたらした影響をどうご覧になっていますか。

 両面あります。まず、香港が大陸(中国本土)の資金や観光客からの利益を得たということは間違いなくあります。香港を訪問する観光客は年間5000万人にもなります。結果、香港の失業率は低い水準に維持されています。ただし、急激で大規模な資金流入で香港経済・社会の構造がゆがんでしまったのも事実です。不動産価格はその典型でしょう。