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 想定してこなかったわけではない。だが私は、その事態を動画で眺めて、自身で想像していた以上に衝撃を受けている。

 10月1日、夕方4時過ぎ。香港・荃湾(センワン)海壩街近くの路上で、黒いシャツを着たデモ参加者たちが重装備の警官たちと衝突した。その騒動の中で、警官が拳銃を発砲し、その弾が男性の左胸に命中した。

 香港城市大学学生会編集委員会がその場面を撮影し、動画をフェイスブックにアップロードしている。フェイスブックにアカウントがあればぜひ自分の目で見ていただきたい。見られない人のために、以下、動画に撮られている場面をなるべく克明に文字で再現しよう。見られる人も、以下の観点で映像を確認してほしい。かっこの中の数字は再生開始後の経過時間を示している。

 デモ参加者は15人ほどいる。彼らを解散させようと警官が駆け寄る(0:02)。「卓明大厦」と掲げられたマンションの入り口当たりに駆け寄ってきた警官の姿をよく見てほしい。この時点ですでに右手に拳銃を持ち、デモ隊に向けている。

 デモ隊は警官に殴りかかっている(0:03)が、手にしているのは武器とも言えない雨傘やただの棒だ。

※デモ隊の一部が手にしている「棒」は鉄パイプではないかという指摘がネット上でなされている。もしそうであれば、全力で頭部などに振り下ろせば殺傷能力のある武器になるだろう。中立を期すために、以上を注記する。エスさんの記事へのご指摘に感謝したい(10月2日12時22分)。

 デモ隊に囲まれシャッターを背にした警官は、すぐに右手に持った拳銃で発砲する(0:05)。駆け寄ってから発砲までわずか2秒。発砲する警告を発して散開を促している形跡はない。銃口は空に向いておらず、明らかに威嚇発砲ではなく狙撃と見るべきだろう。また、警官の左手には、ゴム弾を打つための暴徒鎮圧用の銃が握られている。にもかかわらず警官は、ためらうことなく右手に握った実弾入りの拳銃の方の引き金を引いた。

 銃声が響く。デモ隊は一斉に驚いて散り、撃たれたことを知って逃げていく。その中で撃たれた男性が後ろに倒れこむ(0:14)。その倒れた仲間を救おうとしたデモ参加者が警官に締め上げられる(0:22)。

 撃たれた男性は防毒マスクを外しながら叫んだ。

 「病院に運んでください。胸が痛いんです。病院に連れて行ってください!」

 ここで動画は切れているが、別のカメラが捉えていた映像を見ると、男性はこの後、自らの名を周囲に向かって名乗った。カメラはその後、記者が男性に向かって落ち着くように促す声と、男性の胸の赤黒い血だまりの映像を記録していた。

 男性はその後、意識を失い、瑪嘉烈医院(プリンセス・マーガレット病院)に搬送された。重体だった。CTスキャンを取ると、弾丸が心臓から数cmのところにとどまっていた。この記事を書いている時点(10月1日22時)で、手術が終わり、生命は助かりそうだとの情報が香港民主党議員により公表された。

 男性が荃湾の公立中学に通う5年生(香港の中学5年生は日本でいう高校2年生)、18歳だったことがやがて分かった。

 警告もなしに発射された実弾が穿(うが)ったのは、少年の胸だったのだ。

 この連載の初回に、私は「デモ鎮圧のために装甲車は出ていないし、警察や軍の銃から実弾が市民に向けて放たれたことは一度もない」と書いたが、覆ってしまった。かつてこの街に住んでいて、困った時に頼りにしていたからかもしれない。あるいは、同じ自由主義陣営の警察だから、という前提もあったかもしれない。実力部隊が持つべき力を維持するために不正や暴力という必要悪とも宿痾(しゅくあ)とも言うべきものを抱えることは知りながらも、私は香港の警察をどこか根底では信頼していた、あるいはしたいと思っていた。少年の胸を貫いた弾丸は、その信頼の根底を容易に覆した。そのことに私は、思いのほか衝撃を受けている。